「徹琉、徹琉だったら誕生日プレゼントはなにが欲しいんだ?」
「は?」
唐突過ぎる父さんの質問に眉根を寄せて顔を上げた。
やっぱ男の子はヒーローのフィギュアだろー、と答えてもいないのに一人で納得している姿に呆れて否定する気にもなれない。なんか最近、父さんの中の俺が小学生辺りで止まってるって分かって来たんだけども。
ワイルドタイガーのフィギュアが欲しいです。とか、いかにも喜ばせそうな事俺が言うわけないじゃん。
「……いや、ロックバイソンなら、ちょっと欲しいかも」
「ん? 何だって?」
「な、なんでもない!」
小声での呟きをキャッチした父さんに大きく頭を振って誤魔化した。危ない。俺ってば何を口走ってるんだろ。アントニオさんの事を考え過ぎて色んな事が混じってるみたいだ。
出かけて来るわ、と何やらウキウキと外出して行った後姿にまた何か仕出かしそうな予感がした。長年の息子としての勘だがこれがまた外れない。楓に贈るプレゼントが大抵そうだからかな。
「俺が今欲しいのはこのお悩みの答えだよ、父さん」
事件を解決してくれる名探偵が切実に欲しい現在。あの日からアントニオさんとは会っていない。そういえば何時もは自分から訪ねて行ってたんだっけ、と思い至り尚更頭を抱える事になる。因みに、これを毎日エンドレスターン。冗談じゃない。
父さんの前では平気な顔をしているけど、居なくなれば重い溜息ばかり吐いている気がする。
「一人で居ると埋まりそう」
ぱーっと答え合わせでも出来たら楽になるんだろうけど、そうもいかないんだよね。
気分を変えようと思い立ち上着と財布を手に取り家を出た。公園にでも行こうかと思ったけど直ぐに考え直して、今晩の夕飯の買い物にスーパーへと足を向ける。と、前方に見覚えのある人影が路地裏へと走って行った。
「げ、父さん、とバーナビー・ブルックスJr」
さっと顔を背け二人が曲った角を通り過ごし見なかった事にしなければと急ぎ足になる。ワイルドタイガーとしての父さんと直接出会ってしまったことなんて無いから流石に二人相手では誤魔化せる自信がない。
違うとこで買い物をするかと路地を曲がり、何やら前方が騒がしい事に気付いた。
「警察だ。事件かな?」
何やら気になって人垣の間から覗きこむと、
「え、……アントニオ、さん?!」
人だかりの中心で警察の人に職質というか逮捕され寸前の見覚えのある顔に大声で名を叫んでしまい、周囲から注目を浴びてしまった。
慌てて飛び出して「何やってんの!?」感情のままに大きな身体に飛び付いた。
「徹琉……!」
「君、この人の関係者かい? 怪しい風体の男がうろついていると通報があったんだが」
「全然まったくもって怪しい人じゃないです!」
焦りまくっているアントニオさんはどう見ても怪しい恰好をしていたけど、援護をするよう前に出て「それは俺へのプレゼントです!」ピンクの兎を抱きしめた。
耳のないうさぎ