分岐点 extra

子供の駆け引き


結局の所セブルスは俺から離れようとはしなかったし、俺も離さなかった。
母親が神経質そうな眉を眇めるのにも抵抗し、癒者のお姉さん方に宥められても頑なな態度を一致団結し崩さなかった。

「やだ! セブルス、帰っちゃやだ!」
「僕だっていやだ!」
「うわあああんん!!」
「ばか、泣くな!」

二人揃って抱き合ってこの世の終わりの様な顔をされると見ている側の良心が痛むらしく、その日は一緒に同じベッドで眠る事が出来た。
俺とセブルスの粘り勝ちである。
後でこっそりとお互いの健闘を讃えあったのはここだけの秘密だ。


その日の真夜中。

ずっと眠っていた俺は目が冴えていて、薄暗い天井を見上げていた。
ちらりと隣にセブルスが居る事を確認すると心の底からほっとする。(一時はどうなる事かと…ああ、よかった、よかった)

「…ん」
「(あ、眉間にしわ……寝苦しいのかな)」

左腕を支えにすり寄ってしわの刻まれたそこにキスを落とした。軽く可愛らしい音をたてて何回か啄ばめば、次第にほぐれて緩んでいく。満足したら次は安らかな顔で寝入る弟の頬を撫でたくなった。
でも右腕は動かない。
なんてもどかしいんだ。こんな簡単な事が出来ないなんて。

「情けない姿だなセネカ・スネイプ…」

苛立ちと悔しさと後悔が交わり、滲んだ涙を一つ零し、その日は夜が明けるまでセブルスの寝顔を見つめていた。
翌朝、セブルスは酷く名残惜しそうな顔をして母親と共にスピナーズ・エンドへと帰って行った。
俺の中で「如何にしてセブルスを俺の元へ置いておくか計画」を静かに息づかせたまま。

その後の俺は――荒れに荒れ、酷く塞ぎ込んだ日々を送った。

呪いはセブルスが帰ったその日から十分な猛威を揮い、如何な治療と沢山の薬を試すもどんどん体力を削った。
一週間もすれば俺はやつれ果て。結果、呪いが精神に大きく左右されると知った癒者によりその原因となったセブルスが呼び戻される事になった。
またしても、俺の粘り勝ちである。
こうした闇の魔術や呪いは生前にも係わった事があるし傾倒していた時代もあった。
一か八か、俺は自分の容態を悪化させる事を天秤にかけ、誰にも悟られる事無く勝利をもぎ取ったのだった。

***


「いらっしゃい、セブルス」
「セネカ、まだ起き上がってはだめだ。悪化したらどうする」
「セブの顔を見たから平気だよ」
「…顔色が悪いな」
「いつもの事じゃないか。…わー…今日もいっぱい貰ったみたいだね」

目覚めてから一月経った。
毎日のようにセブルスは俺の元へとせっせと通ってくれる。
容態は今のところ落ち着きを取り戻し、ベッドから下りる許可は出ていないが上体を起こして出迎えるのがいつもの事になった。
強い薬の副作用で徐々に徐々にだが虚弱体質へと変わりつつあるようだが。

セブルスが病室に泊まり込む事は流石に許可が下りなかった。けど、特別措置として自宅の暖炉と病院の癒者詰所にある暖炉を繋げてもらっていた。
(自宅からロンドンにある病院へセブルス一人で通う事は心配だったため、ありがたい事だ)

セブルスは一日の大半を此処で俺と過ごす。
そして夜になると肩を落として暖炉に消えていくのだ。(これは仲良くなった癒者のお姉さん方に聞いた)
どうやら無愛想だが、いじらしく毎日俺に会いに来るちっさなセブルスは詰め所のお姉さま方の間では噂の的らしい。セットで俺も。

どうだ俺の弟は、可愛らしかろう。
誰にもやらないけどな!

格好の餌食にされてる気がしないでもないが、それにしても…随分と気に掛けられ可愛がられてもいると見た。
その証拠に此処へ訪れるセブルスのポケットは毎回お菓子で膨らんでいる。曰く、断っても何時も間にか詰め込んでしまう魔の手腕がいるらしい。
…どこにでも一人はいるよな、そういうおばちゃん。

「……ちゃんと、断ったのに」

照れているのか憮然とした表情で机の上にお菓子を広げる。
笑っちゃいけないが堪え切れない。
彼は、にこにこと笑みを深くしている俺を見咎めて薄い唇をひくつかせた。

「ふっ…く…ごめん、ちゃんと食べてあげてよね。貰ったのはセブなんだから」
「僕だけにくれた訳じゃない。“お兄ちゃんと一緒に食べてね”っていつも言われるんだぞ。それに、こんなに毎日甘いものばかり食べていたら僕が太るじゃないか」
「いいよ! まるまる太ったセブルス! 可愛いじゃないか!」
「…セネカ?」
「ごめんなさい」

セブルスは にらむ をつかった!
セネカは こうさん をした!

「僕よりもセネカが太れ。前より痩せたじゃないか」
「(…セブルスだって細っこいじゃんか)」
「…(ギロリ)」
「ちょ、まだ何も言ってないよ?!」
「聞かなくても分かる!」

こうしたやり取りを毎日続けていたものだから、更に癒者のお姉さん達はセブルスにお菓子を与え続けているのだが、それは俺達の与り知らぬ事である。

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