オーマイブラザー
目を覚ましてからは本当に色々大変だった。
俺に訪れた嵐の名はセブルス・スネイプ。
愛しく可愛い俺の弟だ。
弾丸の様に病室に飛び込んできたセブルスは酷くやつれていて、元々土気色に近い顔色を青ざめさせていた。
そのくせ瞳は爛々と力が宿り、細っこいのに俺の腰をぎゅうぎゅうと締め付けて頑として離そうとはしなかったのだ。
「この、馬鹿!」
その上、開口一番にはこの一言である。
「セネカは馬鹿なのか! どうして一人になったんだ!」
「う、ちょ、セブ」
「なんで怪我してるんだ! 僕は、僕はそんなこと、許してはいない!」
「ま、待ってセブ。落ち着いて…ね?」
「ごめんなさいは!!」
「はいいいいっ!! ごめんなさい!!」
セブルスが放つ怒りの攻撃に俺は撃沈された。
俺の愛しい弟がこんなにも感情をぶつけてきてくれたのなんて初めての事だ。
喧嘩だってした事が無いのに。
しかしセブルスの言葉のなんて攻撃的な事よ。
あの両親の喧嘩をしょっちゅう耳にしていただけの事はある。
俺としてはもっと優しい言葉を覚えて貰いたい、という願望があったため努めて穏やかな物言いを聞かせてきた筈なのに……。これは将来を考えると今の内に気道修正が必要なんだが、どうにも無理っぽい。いや、諦めるにはまだ早いか。……攻撃性に嫌味っぽさまで加わったら泣いてしまいそうだ。
「泣かないでセブルス」
セブルスの瞳には怒って感情が高ぶっているのか涙が溜まってて、今にも零れ落ちそうだ。
元はひとつだからかな?
共鳴してるのか俺の胸も痛い位きゅっと締めつけられた。
力いっぱい締め付けている腕は震えていて、かなり心配させてしまった事が十分に分かる。(何せ先程貰った情報では一月も意識を失って眠っていたらしいので)
やつれてしまった頬へ手を添えると、冷たい雫が掌を濡らした。
「心配させてごめんね」
「……もうどこにも行くな」
「うん。どこにも行かない。セブルスの傍に居るよ」
「……怪我は痛いのか?」
「今は痛くないよ」
「本当に?」
じっと見透かす様な黒い瞳に見つめられ曖昧に笑う。
出来れば詳しい事情は話さないに越したことは無いけれど、納得しなさそうだな。
何より俺はセブルスのお願いに弱い。
取りあえず「暫くは入院しなきゃいけないらしいんだ」とだけ告げた。不満そうに眉が寄る。セブルスはもっと聞きたい事が有ったみたいだけど、一先ずこの度は収めてくれるらしい。ありがたい事に。……ずっと腰には張り付いたままだったけど。
次に遅れて姿を現したのは母親だった。
腰にセブルスをぶら下げたままの俺を一瞥すると「元気そうね」とだけ言って一言二言交わし、持ってきた荷物を置くとそのまま癒者と話をしに出て行ってしまった。
あまりにあっさりとされ過ぎて逆に笑えてしまった。
元々母親は俺に対して素っ気ないので予想通りだが。
セブルスには普通に接するが、俺の事は奇異な者を見る目で射る人なのだ。
「(ま、…彼女からしてみればそんな態度も取りたくなるような奴だよな。俺なんて)」
きっちりと閉められた扉から足音が遠ざかって行くのを確認して、ねっとりと重みを増してしまった弟の髪を梳く。
やっぱりというか何というか、俺が不在のままセブルスをあの家に残して置くのに不安が残る。
この髪だって俺が洗って毎日のように櫛を通してあげていたものだ。
食事だって十分に取らなかった様だし、眠れてだってないのかも知れない。
不安だ。凄く凄く不安だ。
それから暫く俺は、癒者のお姉さんが包帯を替えに来るまで「如何にしてセブルスを俺の元へ置いておくか計画」を考えていたのである。