分岐点 extra

約束された天才


こんな偶然が起こりうる事もあるんだなと、懐かしい面影を色濃く映した少年を前にしみじみと思う。
まさか生前の友人に生き写しの子供と机を並べて学ぶことになろうとは、ね。
何だか変な感じだ。

新たなる友、トーマ・アルカード・ランコーン。

その彼の祖父――古き友、吸血鬼デミトリ・アルカードの威厳と皮肉たっぷりな顔を思い描きながら「…孫との年齢差、軽く千歳はあるじゃねえのか?」と、届く筈もない疑問を遠い空へと投げかけてみたくなった俺である。
この第二の人生、本当に何が起こるか予測不可能だ。


ホグワーツにはそろそろハロウィーンの季節が訪れようとしていた。
つまり、因果の結びつきを強く感じさせる運命的(?)な出会いから、もう数日は経つ。
あの日は俺とダンブルドアが狙いすました通り、午前中は授業の無かったセブルスとトーマの二人に手伝ってもらい、俺は無事にスリザリン寮へと移り住むことが出来ていた。
これで俺も名実共に立派なホグワーツ生という事だな。
…うむ、やっとかよ!

「(いやーそれにしても…二人の俺が同室になると知った時の顔は、今思い出しただけでも笑えるなあ)」

当然だと思いながらも、喜んだ顔を素直に表へ出せなかったセブルス。
そんな彼の代わりに俺の方から抱き付いておいた。
二人部屋だったのはこのためか、と言った後、浮かび上がって来た当然の疑問に首をひねったトーマ。
偶然にしては出来過ぎだと思ったんだろ。
まあ俺がスリザリンに入寮するのは予定調和の様なもんだから、そこんとこはあまり気にしない方が良いと俺は思うんだが…。

あっはっはっは。
あー、やはり持つべきものは権力をもった偉大な友人だな。
部屋割に意図的な匂いがプンプンしてるぜ。
事前に俺が行くのはスリザリンだろうって事は伝えてあったし、諸々の事情を考慮すればセブルスの傍に置くのが一番良いと彼も考えてくれたのだろう。

つーか別々だったら直談判に行ってたと思うし。

お陰で他の寮生よりも部屋が広く使えるうえに、思う存分セブルスといちゃこら出来る。
一緒に寝れるし、朝は彼と共に起きて(起こされて)挨拶のキスだって出来る。勿論、それ以上の事もげふんげふん。
嗚呼、なんて素晴らしき配慮!
こういう目的の為の配慮じゃないとは分かっていても、テンションが上がるってもんだぜ。

そんな感じでウキウキと部屋に調合スペースを作ったり、仕事で使う資料や書類を仕舞う棚を魔法で次々に設置していったらセブルスにすげえ怒られた。

「お前だけがいる部屋じゃないんだぞ!」
「知ってるよ! でも必要なんだよ!? …ハッ、まさか仕事を談話室や図書室でやれってのセブルス?!」
「そうは言って無いだろ! 同室の僕やランコーンに一言でもいいから断れと言ってるんだ。そういう頭を持て! 大体なんだこの高そうな家具は! お前の給料配分はどうなってるんだ!」
「気にする部分が実に君らしいよセブ。全部会社名義で購入したに決まってるじゃん。あっちにも置いてるのを双子の魔法で複製しました。法には(多分)触れて無いから安心してね!」
「――そういう問題じゃ、ないっ!!」

調合台として改造したカクテルキャビネットと、社長室の資料棚と繋げて共有できる棚を指差して俺は胸を張る。
自分用に備え付けられていたライティングデスクの横に設置したので――俺の取ってる幅がやけに広いが――そこは二人には諦めて頂きたい所だ。
反省の色? そんなの俺は無色透明だよ。

「まあまあセブルス、そう目くじらを立てる事でもねえだろ。俺は別に構いやしねえよ」
「黙れランコーン。セネカに甘い顔を見せるな。つけあがられるぞ」

仲裁に入ろうとしたトーマをセブルスはピシャリと撥ねつける。
「そんな事言ってさ、ほんとはセブルスが一番セネカを甘やかしてんだろー」とケラケラ笑いながら言ったトーマに俺も大きく頷くと、二人揃って睨まれてしまった。
照れてるんですね。分かります。

ほらほらセブルス、ミカサが入学祝にプレゼントしてくれた銀の大鍋だってあるよ。
だから機嫌を直して。ね!
フソウが送って来た隠し取りの写真は俺の懐に収めておくからさ。


セブルスが怒っているのは俺が勝手に、というのもあるがもう一つ理由がある。
どうやら我が愛しい弟は何度か会社を訪れる内に、俺が家具集めに凝ってる事をミカサの説明によって察したらしく、彼にとっては無駄使いにしか思えないこの趣味をやめさせたいらしい。
だが、俺も譲る気は無い。
俺の中のイマジネーションが強く訴えている限り、この家具収集を止めるわけにはいかないのだ。


――俺が選んだ家具の中心に、大人なセブルスを、俺は、置きたい…!


だって絶対映えるだろ。 
この伝統的なイギリス家具の使いこまれた感が漂う色艶、美しい木目と彫刻、機能性、雰囲気。
どれもこれも俺が脳内で「これ、セブルスに使って欲しい」とか「セブルスが座ったら絶対キマる」などと考えて購入を決意したものだ。
似合わない筈がないじゃないか。
統一感を持たせるために全てオーク材で揃えてもみたしな。

あの殺風景とも言える彼らしい簡素な部屋には無かったものばかりだ。
部屋を見た時から…俺は密かにこの情熱を焦がしてもいた。

行く行くは彼と俺の為に一軒家を建ててしまおうとも考えている。
勿論、気に入ったマナーハウスを購入するのでもいい。
だからいくらセブルスが言おうとも、この収集の手だけは緩めるわけにはいかないのさ。
――と、こんな事を今力説したら火に油どころではないので、渋々、最後に「これだけは」とソファを置く事を二人に向かって許可を求めておいた。

オフホワイトの布張りソファは眠気を誘う誘惑に沈んでいる。
無理矢理二人を座らせて俺は切に訴えた。
元気いっぱい俺と言いあうセブルスに終始目をパチクリさせていたトーマは苦笑しつつ「これ、俺も使っていいのか? 寝心地よさそうだなー」と言ってOKしてくれた。
二対一になった事でセブルスが押し負けた瞬間だ。

良い奴だな君は。もうガンガン寝倒してくれたまえよ。
俺もセブルスの膝枕を狙って持って来たんだからな。
その時は邪魔するなよ、とニンマリ笑って囁いた俺にトーマはとても微妙な顔をしていた。
仲が良いんだなって言葉に全然力がこもってねーぜ少年。

まあこんな感じで俺とセブルスとトーマ、三人の楽しい寮生活がスタートした訳だ。


***


ゼブルスが前に零した通り、一年生の授業というものはとても簡単で俺達にとっては退屈以外の何物でも無かった。
が、問題も勿論あった。
魔法史は眠気を誘うし、天文学は体力の無い俺には眠気と寒さのダブルパンチとの戦いだ。
教室間の移動もなかなか疲れる。
DADA(闇の魔術に対する防衛術)は今のところ座学ばかりだし、変身術も呪文学も実技を早々と済ませてしまえば後は自分達の時間として――セブルスにとっては――何年も先の予習をして過ごさせて頂いた。が、魔法薬学だけは気の抜けないものとなっていた。

「(…いっつも思うんだけど、なんで合同授業なんてもんがあるんだろうな)」

しかも寄りによってスリザリンとグリフィンドールという組み合わせ。
他の2寮との合同が無い訳じゃないが、水と油に等しいこの寮同士を態々くっ付ける意味が分からん。
確かに普段離れているリリーと会えるのは嬉しい。けど、きっちり2寮に別れて座るもんだから彼女の事をちゃんと見てあげられない。実に不満だ。
休日にこっそり落ち合う約束はしているけど、普段の様子だって見てみたいじゃないか。
これじゃあペチュニア宛に出す手紙に碌な報告が出来ない。

「(今は兎も角、学年が上がれば下手をすれば大惨事にもなりかねない調合だって有る筈なんだよなー。うん)」

競い合わせて、互いを高め合うライバル的な意味を持たせたいとの考えならば間違いではないんだけどね。
無駄に張り合っちゃうし。
お互いの足を引っ張り合う泥仕合も…まあ、たまにある。
だがもしも一緒に過ごす事で「中々やるな、お前、」「…君こそ、見直したよ」という感じになる事を期待してならばダンブルドアの髭を毟りに、俺は今から行きたいと思います。

熱い友情を育みたいのならやっぱ殴り合いだろ。
俺はそんなの御免だけど。


「…セネカ、今何を考えていた」
「んー、髭校長の髭について、かな?」
「…もうちょっと集中しろ」

セブルスが大鍋から目を逸らさずに溜息をつく。
しまった。他事に考えを伸ばしていた事を悟られたか。
因みに、俺の脳内では杖を捨てた魔法使い同士が拳で友情を確認している真っ最中だったのだ。とても暑苦しく。
そんな事を彼に報告できる訳がない。

仕方ない。
注意されてしまったので真面目に取り組むセブルスでも堪能しようかな。
そう思い、じぃーっと真剣な横顔を眺め始める俺。

視線に気付きつつもセブルスは授業中という事もあり、無表情を貫いていた。
そんな彼へ俺はついと手を伸ばし、頬に落ちて来た墨色の髪を一房耳にそっとかけてあげる。
うん。これでセブルスの顔がもっと良く見えるようになっなと、瞳を細め緩んだ顔を向け続けた。
不満そうにくちびる尖らせちゃってさ、かわいいよセブルスー。


今日は金曜日だ。

この日最後の授業として今、俺達は魔法薬学を受けている。
周囲に合わせる事もせずに手早く最後の材料を投下し終えてた俺は、既に後は煮込むだけという段階にまできていた。
調合薬は一番簡単な強壮剤。
おできを治す薬とそうレベルは違わないものの、固い根皮を均等に刻まなければならないので力の弱い子供にとって此処が一番失敗の原因になりやすい薬だ。コツを掴むまでは。

慣れない手つきですり鉢やナイフを扱う生徒が未だ多い中、同じ机にいる彼も鍋をかき混ぜて撹拌させ、エレウテロコックの根皮を慎重に刻み始めている。
横からセブルスの大鍋を覗きこんで色をチェックした俺は、出来あがった自分の薬を柄杓ですくって瓶に詰め、前を向いた。
なんだ。黒板に書かれている制限時間まであと半分以上は残っているじゃないか。

『ねえセブセブー、いっつも彼らってあんな感じの授業態度な訳?』

机に凭れるようにして見上げながら、自分達と少し離れたグリフィンドール生で埋まっている机を顎で示す。
すると、途端にセブルスの眉間の皺が不快そうに深く刻まれる。
成程。分かりやすい肯定をしてくれてありがとうセブルス。
言葉なくとも良く分かったよ。


その一角は他の真面目に取り組んでいる生徒とは少し違い、くすくす笑いながら、囁きというには大きすぎる声で話す二人組がとても目立っていた。
黒い頭と黒い頭。
名を言うまでもない。シリウスとジェームズ・ポッターだ。
彼等の前には鳶色髪の子と小柄な少年のペアもいたが、頻繁に話しかけられ親しげに答えている事から、仲が良いのだろうと勝手に察する。

ばか前見ろ前、手元を疎かにするなよ少年達。

『奴らの事は気にするな。係わるなと僕にお前は約束した筈だ』
『うん、そうなんだけどねー』

でもね。明らかに違う材料を入れてみたいです、って顔をされてるとなれば気にしない訳にはいかない訳ですよ、俺としては。
彼等の近くにはリリーだっている訳だし。

さて何を仕出かそうってのかねーと、万が一の時のため、対処法へと考えを巡らせる。
右手と腰のホルスターに収まる杖から好戦的な魔力が立ち昇り、宥めるようにそっと抑えた。
主人の考えに同調するのはいいけど、お前ら落ち着けっつーの。
そんな俺の前に大きな影が差す。

視線を上げるまでもなく誰が立っているのか察した俺は、普段よりも丁寧な言葉使いと人当たりの良い笑顔へと瞬時に自分をシフトチェンジさせていた。
…おい誰だ今、猫被りって言ったのは。
だからさ。俺にとってはもうあたり前なんだってば。

「どうかされましたか? スラグホーン先生」
「いやいや、様子を見に来ただけなんだが…ほっほう! もう完成させてしまったのかねセネカ」
「ええ、彼ももう少しで完成するみたいなので一緒に提出に行こうと話していた所だったんです――ね、セブルス」

全然全くそんなことは話していなかったけどな。
俺に突然同意を求められてセブルスがぎこちなく頷く。
やだなセブルスったら。そんな得体の知れぬものを見る様な目なんてすんなって。
俺のでりけーとなハートが傷付くから。
呼吸をする様に自然と嘘を舌に乗せた俺に気付かないまま、スラグホーンは提出予定の小瓶を手に取り、薬液を振り、しげしげと眺めて目を輝かせていた。

「こりゃたまげた。完璧だ! 私の覚え間違いでなければ、きみにとっては今日が初めての受講だったはずなのだが…」
「ありがとうございます。お褒めに与り恐縮です、先生。撹拌の際、煮詰める時間を短縮させるために少々教科書とは違う手順を踏ませて頂いたのですが…そう言って頂けてほっと致しました」

効果の方も向上してるとは思うんですけどね。
…と、ここで少し自信無さ気にしてからはにかむのがミソである。
やだなセブルスったら以下略。
するとスラグホーンは、納得したような感慨深い面持ちで頷き、また口を開く。
その際――彼の瞳にキラリと瞬いた光があったのを、俺はこの時見逃さずに捉えていた。

「どうやらダンブルドア校長が仰っていた通りの様だね、セネカ。きみには並々ならぬ魔法薬の才能があるようだと彼から聞かされた時は…ああ、いや、勿論信じていなかった訳ではないのだよ。現にきみは授業の遅れを取り戻すどころか、誰よりも早く、こうして完璧な物を作り出してみせた。
弟のセブルスも優秀だとは感じていたが…どうやらきみには、それ以上の才能が備わっているようだね」

セブルスの言う通り「才能ある者を贔屓する人物」であるスラグホーンの興味を引くことに成功し、内心ほくそ笑む。
どうやら見事彼のお気に入りとして認めて頂けたようだ。
だがしかし…この手放しで褒めちぎられてる状況ってのは居心地が悪いったらないな。
頭の出来も生前の物なのでズルしかしてないし。
周囲の生徒からも注目を浴びてしまった事で、俺は心の拳を思いっきり振りかざしていた。
下ろす先は多分今、校長室にいるんだろうけど。

「先程少し耳にした会話も、あれはフランス語かい?」
「あ、はい。今までは調合中の彼との会話は殆どそれで通していたので、つい、いつもの様に話してしまって……すみません。以後気を付けるようにしますね」
「いや、いや、責めている訳ではないんだよ。語学の方も達者というのは素晴らしいことだ。まあ、気にせずに…いつも通りの自然体で通してもらう方がきみの身体には負担も少ないだろうしね」

ふむ。病弱だが、それを補うあまりの才能に溢れた生徒として彼の中で定着している。
他の教授方からの印象も似たようなものだ。
ここ数日の内は同じ様に上手く立ち回り、彼らへ俺の印象を定着させまくったのでその甲斐があったなー。
実際に何度か授業を途中退場せざるを得なくなってしまったし。

寮監として体調や右腕の事をダンブルドアから話が通されているのか、スラグホーンは「無理をせず、体調が悪くなったら直ぐに報告するんだよ、いいね」と言って大きな体躯を揺らしながらセブルスの方へと意識を逸らした。
やっと開けた視界に、そういえば、とあの二人組の事を思い出す。

その時だ。
グリフィンドールの方で怪しい動きをする生徒を目の端に捉え、急いで立ち上がった俺は身を乗り出し、


「――待って! それを入れたらダメだ!」


叫んだ言葉へ被さるようにドーンという重い爆発音が響いた。
視界を奪う白い煙が地下牢を満たしていく。
音がすると同時に引き寄せられていた俺は、もうもうと立ち込める煙と鼻にツンとくる異臭の影響が少なくて済んでいた。
発生源に近い生徒は悲惨な事になってそうだな。


「セブ、ありがと」
「…無事か?」
「うん、セブのお陰でね。そっちこそ、目とか鼻とか大丈夫?」
「お前の声が聞こえたからな。僕の方も大したことは無い。……なにしてるんだ」
「魔法でセブの出来あがった薬を瓶に詰めてる」
「そんなもの後にしろ。煙が目に入るぞ」
「だって勿体ないし、折角の評価も無駄にしてほしくない」
「セネカ…」

「……ぅお、い…ぶたりども、俺の方もちったあ気にしてくれ…」
「「あ、」」

俺達よりもグリフィンドール側に居たトーマの事をすっかり忘れてたぜ。

トーマは目が染みるのか、瞼をしょぼしょぼさせながら体格の良い身体を俺達と同じように屈めていた。
情けない顔をして、ちょっと泣きそうでもある。
遠隔操作で瓶詰し終わったものを机に置いた後、杖を振って自分達の周りから徐々に煙を消していく。
生徒と同様に目と鼻を抑えていたスラグホーンも俺の行動に気付いてやっと杖を取り出して同じ事を始めた。
対応が遅すぎる。

彼は原因となったペアに――勿論、シリウスとポッターだ――厳しい顔で叱責と減点を言い渡し、行いを褒められた俺は加点を頂き、ここで本日の授業は終了となった。

***


「セブ! セネカ!」
「「リリー」」

騒然となった地下牢教室から出て人気の無い廊下に差し掛かると、後ろから軽やかな足音と共に可愛らしい声が俺達三人を引きとめた。
どうやら姿を追ってきてくれたみたいだ。

「二人とも、大丈夫だった?」
「リリーの方こそ、彼等の席と近かったでしょ? 目とか痛くない? 鼻は?」
「少し吸ったけど…平気よ、」

彼女の目元は擦ったことで赤くなっている。
誤魔化しようの無い痕跡に「奴らめ…うちの子に何て事を…!」と、憤慨しながら俺はハンカチと薬を取り出してリリーに手渡す。
ころりとした丸い小瓶には琥珀色の薬液がたぷんとゆれ、開けると、仄かな灯りのなかで蜜の様な香りを広げた。
何の薬かわからないという顔をするリリーに、

「こうしてハンカチに染み込ませて、目と鼻を覆ってごらん。直ぐに痛みと違和感が引くから」
「わ、…ほんとだわ」
「同じ寮の子にもリリーみたいに目と鼻を真っ赤にさせた子がいたら分けてあげるといいよ」
「やだ、お見通しってことね…ありがと、セネカ」
「どういたしまして。僕らの可愛いリリーの為ならどうってことは無いよ」

ほら、友達が待ってるんじゃない? 行っておあげよ。
そう言うとリリーは、来た時よりも軽やかな足取りで引き返していく。
花の様な笑顔と振られた小さな白い手に満面の笑みで応えていると、トーマがぼそりと「お前、将来はドン・ファンみたいになれる才能あるんじゃね」言ったので「僕を好色家や愛の狩人みたいなのと一緒にしないで」と、抗議しておいた。
彼にもリリーに渡した薬と同じものを手渡しながら。

「フェミニストって言ってもらいたいね、どうせなら。女性に優しくするのなんて僕にとっては当然の行為だ。それに彼女は、リリーは僕達と幼馴染だから親しくてあたり前だよ。ね、セブ」
「…ああ」
「へー…なるほど。だからセブルスも彼女へ当たりは優しい、と」
「そういうこと。まあリリーはとっても美人だし、将来的にはモッテモテだろうねー。…あ、手、出さないでよねトーマ」
「え、何で俺」
「君の容姿と体格なら来年あたりから上級生が放っておかないだろうという僕の予見から。君の方こそ、将来的にはプレイボーイまっしぐらでしょ」
「ええー…」

まあ、あの『祖父』から血を受け継いでるトーマだからこそ、俺はそう思う訳ですがね。
…デミトリも結構モテてたからな。実年齢は枯れてるくせに。

「でもよ。今は幼馴染でも、そんなの将来的には分かんないだろ? あんなに綺麗で優しい子が幼馴染なんて美味しいポジション、モテ無い系男子からしたら羨望の的だぜ? なのになんで今から否定してんのお前」

心底不思議そうに首を傾げるトーマ。
純粋な疑問を何も考えずに口に出来る彼は、まだまだ子供だ。
俺はそれに苦笑で返し一瞬だけセブルスを見た。
やっぱりセブルスも俺の答えが気になるのだろう。
少しそわそわしている。
そして突然恋バナ的な話題になって僕はどうしたらいいんだ、って顔もしてる。

じとっと視線を向け続けていた彼に俺は背を向け、


「その答えは、これが済んでからにして、ねっ――プロテゴ!」


後方から飛んできた物体を盾の呪文で弾くと、湿り気と冷たさを帯びた壁に花火のように泥が飛散していた。
あらま、これうちの商品じゃん。まいどありー。

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