分岐点 extra

あたりまえの混乱と、 


Sideトーマ・ランコーン

ホグワーツは日々粛々と秋の色艶を増している。
景観に際立った変化はそう見られないが、朝晩は日中の温暖な気候と違う肌寒さがしっとりとした婦人の艶めかしい指先のように頬をなで、生徒の肌を粟立てていた。
石造りの城内を行きかう彼等は皆、心持肩を寄せ合う。
10月になればこれに研きをかけ、11月ともなれば灰色の空雲から贈られる純白のオーナメントが古城を飾り立てるのだ。

そんなある朝の事。
スリザリン寮の一年生、トーマ・アルカード・ランコーンは正しく混乱していた。


「…セブル、ス?」

重たい瞼をこすりこすり、名を呟く。
昨夜遅くまで提出期限が迫ったレポートを作成していたランコーンは、自分が寝ぼけているのだろうと思い、何度か瞬く。
ぱちぱちぱちぱち。アーモンド形にくり抜かれた深いダークグリーンの上を、金の睫毛に縁取られた瞼が素早く上下した。
しかし依然としてその効果は無く、変化も見られない。
目の前にいるのは同寮で同室のセブルス・スネイプ、その筈だと、彼は見下ろす眼(まなこ)に力を込めた。

セブルス・スネイプ。

上級生の誰よりも闇の魔術に精通していると一部では噂されている彼。
入学から間もなく、不安と期待に揺れる同じ一年生や、目新しい噂や娯楽に飢えた上級生にまでかんばしくない事を囁かれている彼。
本人がどこまで知っているかは定かではないが、囁きは既に彼の肌へも浸透しているだろう。

闇の魔法使いを多く輩出しているスリザリンでもランコーンを除けば、一部の上級生以外が彼に話しかける姿はついぞお目にかかった事がない。
あらぬ噂以外特に問題行動も起こさず、勤勉で頭も良く、教授方からの評価も高かったが、彼は常に独りだった。

そんな彼は最近、やっとまともに朝食を取るようになったばかりだ。
環境の変化に不安定となり、食欲が失せて日毎元気の無くなる新入生も他にはいたが、セブルスの場合はソレとはまた違う理由だろうとランコーンは察していた。
まるで自身を追い込むように、思い詰めている。
頑なな彼を傍で見続けていたのも、ルームメイトだからという理由では少し薄い様な気がした。

――しかし、そのような心配は最早無用と思える。

セブルスの中で劇的な何かが起こった事が確かなのは、ここ最近の彼の様子を見ていれば分かった。
食事も睡眠も以前より確りと取るようになれた彼の変化に、見守っていたランコーンもとうに気付いていた。
相変わらず就寝時間ギリギリまで寮へは戻って来ないが。
セブルスの朝は早過ぎ、大広間の前で出会えたことは奇跡に違いない。

そんな彼にランコーンは聞いてみたい事が幾つかあったが、その機会は中々訪れずにいた。
答えてもらえる可能性は限りなく低い。
むしろ怒らせる確率の方が高そうだ。
しかし彼はそんな事でめげるような神経は持ち合わせておらず、奇跡ついでに声を掛けつつ「今日こそは」と、意気揚々と駆け寄ったのである。

……が、

なんでセブルスのやつ、俺を見上げて大口を開けたまま固まってんだよ。


予想外の事態に彼はまた瞬いた。とてもたくさん。
ぱちぱちぱちぱち。
瞬きのやり過ぎで目の前に星が幾つか飛んでんぜ…。
ランコーンが思考の底から再び舞い戻っても、先ほどと変わらずセブルスは目の前に居た。

同学年の中でも飛びぬけて成長してしまっている彼と並ぶと、セブルスは小柄で、痩せ形で、頭一つ分以上は小さい。
それ故、常に見下ろす姿勢になってしまう。
これはいつもと変わらない。

黒い髪。黒い瞳。
日に焼けた自分と違う、不健康そうに見える土気色の肌。
若干いつもより青白いがこれも変わらないと思う。

付き合いの日は浅いがランコーンにとってセブルスとは、鋭い睨みと素っ気ない態度、不機嫌そうにしか見えない表情が標準装備のルームメイトだ。
名前を呼べば嫌がるし、話しかけても大抵は無視された。
普通はそんな態度を示されれば離れていくものだが、ランコーンは少し特殊な生まれと、育った環境のお陰で全く平気だった。

彼にとって自身の『祖父』の方が何倍も恐ろしい。
故に彼は本日もセブルスの冷たい視線を浴びる事を予想しながら、ゆったりと朝食を取りに薄暗く冷たい地下から這い上がったのである。

…そこまではいい。
そこまではいつも通りだったのに、どうやらセブルスの方がいつも通りとはいかなかった様だ。


ランコーンの混乱の原因はその表情にある。
一生お目にかかれないだろうなと思えたほどつれない態度を貫いていたのに、突然過ぎるほどの不意打ちに、ランコーンはただただ混乱を深めていった。

ぽけーっと隙だらけで見上げるセブルスはとても無防備だ。
何が彼をそんな顔にさせたのだろうと首を傾げたくもなったが、目の前の彼と同じような表情を返す事しか出来ずにいた。
誰でもいい。誰か。どうか俺達二人に油をさしてやってくれー。水じゃなく、油を俺は切に希望する。
錆び付いてんだぜこれ絶対。

客観的に見ても間抜け面でお互いを見合う二人は、周囲から浮いてもいた。

「(…何か変な物でも飲まされたのかコイツ)」

入学してから今まで悪戯行動が悪目立ちし、しばしば注目を集めていたグリフィンドールの二人組の事がランコーンの脳裏に過ぎる。
セブルスはあの二人組と鉢合わせる度に何かしらの行動を起こされていたなとも、記憶を呼び覚ます。

「セブルス…お前、どうかしたのか?」

今日はなんか変だぞ。
身を案じる言葉を掛けると……目の錯覚でなければ彼の瞳に輝きが集まりだした。
それはもうキラキラと。
黒い瞳を宝石の様に煌めかせて、口元を笑みの形に持ち上げていく。
蕾だった花が見る間に開花する様な見事なまでの移り変わり。
その一部始終をランコーンはすべて捉えていた。

「(…うそだろ…セブルスが、俺に向かって笑ってやがる…!?)」

不機嫌顔が脳にインプットされていた彼は俄かに受け入れる事が出来ず、更なる混乱を極める事となる。
既に彼の中では「セブルスお前笑えたのかよ」という失礼極まりない台詞までが巡っていた。
しかもあろう事か…この笑顔全開、頬バラ色のキラキラセブルス君11歳は突然何の前振りもなくランコーンの右手を包み、ずいっと身を寄せても来た、のである。
かなり近い。そして未だに瞳はキラッキラしている。
これには流石のランコーンもかなり吃驚し、ビクゥ! と肩を波立たせた。

そして、

「君、もしかしてセブルスのお友達?!」
「…は?」

一瞬何を言われているのかが分からず、ぽろりと間の抜けた声が漏れる。
しかしそんな彼を置いて、目の前のセブルスは興奮した面持ちで尚も言葉を重ねようと口を開く。
その際、ふわりと甘い菓子の様な匂いと消毒の匂いがセブルスから香り、なんて微妙な組み合わせだと、密かに感想を零しもした。
セブルスお前ほんとどうした。

「いやいやいや、まったまたー。絶対そうでしょ! そうに違いないね! ふふん、僕の目を誤魔化そうったって無理さっ」
「え、や、おい、」
「だってセブルスの事名前で呼んでたし? ちょっと心配そうに声掛けてもくれたし? 同じスリザリンみたいだし? 判断材料なんてこれでもう十分でしょー」
「は、何言って…お前もスリザリンだろ?」
「つーか僕の事を見て、真っ直ぐに寄って来てくれてた時点で予感はしていたんですよねー」
「…聞けって」
「しかし触れ合いは節度を以ってのみにして頂こうか!!」
「…は、…はぁ?!」

やばいこのセブルスほんとなに言ってんのかわかんねえ。

「絆を深めるのは良し! 友情を深めるのも尚良し!! だが握手とハグは許すがそれ以外なんてお兄ちゃんはゆるっさぁああああんいったーーッ!! もげるもげるセブ、鼻もげひゃうよ!?」
「――お前、は、何を、言って、いるん、だ!!」
「っだー!! もげた!」
「そう簡単に取れるか! 馬鹿者!」

立て板に水を流す如く、人の答えも聞かずに喋る彼と掴まっていた彼の間へ、第三者の腕がにゅっと伸びた。
腕はセブルスの鼻を指で掴むと、遠慮のえの字も無さそうな力でグイッと捻じ曲げる。とても痛そうに。

ぱっと解放された手をだらりと脇へ落としたランコーンは、一歩下がる事で漸く今起こった事を全て頭で整理することが出来たのである。
そして、目を見開いた。

痛いと涙目で喚くセブルス。
腕を辿って見下ろした顔もセブルス。
どちらも制服を身に纏い、自分と同じ緑を主張するネクタイを付けている。
そこまでを確認し終えると頭が痛くなりつつあった。
セブルスがセブルスを、せぶるすってせぶるす。
もう俺の方がいみわからんし。

「…セブル、ス?」

どちらへ向けた物とも知れぬ呼びかけ。
それに後から来た方のセブルスが自分を睨み上げた事で、ランコーンは「あ、いつものセブルスだ」などと安堵することだけは出来たのである。
…睨まれて安心するってどうよ俺。

***


トーマ・アルカード・ランコーン。
彼は吸血鬼の血の流れを組む者だ。

不老の祖父を持ち、彼の教育を受け、美しいままの記憶を残していった母との思い出に生きる父に愛されて育った彼は、幸か不幸か、抜群の身体能力と夜目が利く以外は普通の子供となんら変わりなかった。
ダンピール――ヴァムピーラと呼ばれた母と違い、吸血衝動の無い彼はその安全性を魔法省に保証してくれたダンブルドアのお陰で此処に通えている。
これは非常に幸運な事だ。

吸血鬼はヒトの形を取っているものの亜人とされている。

それ故に純血を誇るスリザリンでは、口にすればどんな仕打ちを受けるかは明白だったが、本人はいたってケロリと楽観していた。
元々たいして秘密にするつもりもない。
後になって「何故そのような事を秘密にしていた」と責められても「聞かれなかったから」で済ますつもりの彼は、周囲と自分の間に引かれた見えない線が確実に見えていた。

それは内に入れる者と、外側に置く者を確実に選り分ける為の線。
その上彼には「堂々としていれば逆に怪しむ者さえいないのだ」という祖父のありがたいお言葉もある。
故にそれを元に行動していた彼は、言葉が示すのは自身の生まれの事だけだとばかり思っていた。

今、目の前に居る彼。
セブルスとは双子で、しかも自身の方が兄だと名乗ったセネカ・スネイプの「堂々とし過ぎる態度」を目にするまでは――。


なし崩し的に…セネカの誘いもあって共に朝食の席に着く事となったランコーンは、早々と目の前の光景に慣れる努力を始めていた。

「さっきはごめんね。突然で驚いたでしょ」
「ああ、まあ…な。急にセブルスがおかしくなっちまったとか思ったぜ…」
「あははっ、ごめんねー僕もつい興奮しちゃって! …あ、Mr.ランコーンはセブのルームメイトなんだよね? 良かったら僕の事もセネカって呼んで」
「お、おう。じゃあ、俺の事もトーマって呼んでくれ」
「了解! これからよろしくね、トーマ。…あ、ほらほらセブも「断る」…もう、まだ言って無いじゃん!」

ニコニコ笑顔で自分とセブルスに話しかけながらゆっくりと食事をするセネカ。
それとは反対にむっつりとパンを小さく千切っては少しずつ口に運んでいるセブルス。

表情は対極ながらも並んで食事を取る光景を視界に収め、二人がキチンと作法を躾けられている事を改めて発見するランコーン。
自身も祖父に色々な事を厳しく叩き込まれた覚えがある為、この二人、実は良いとこの坊ちゃんじゃ、なんて考えがほんの少し過ぎる。
(実際は「将来彼が困らない様に」という兄による教育の賜物だったが、それを知る術は今の所ランコーンには無い)
苦笑いで受け答えていた彼は、同じテーブル以外からもビシバシ飛んでくるうざったい程の視線を感じながらも、切り分けたベーコンを頬張っていた。


自己紹介も手短にされた後、ランコーンはずっと心に残っていた疑問が氷解していくような、形の無いもやもやに晴れ間がのぞいたような感覚に満たされてもいた。

――グリフィンドールのリリー・エバンズがあの日、口にした「セネカ」とは今ここに居る「セネカ」の事なのだ。
9月1日に急病で倒れ、共に組み分けをする事が出来ずに遅れて入学してきたんだと彼に説明され「ああそうか」と、今までのセブルスの不可解な行動に対しての答えを漸く見つけた。
意外だと思うよりも先に当然だと素直に納得できる。
血も涙もない人間でも無い限り、家族が心配ならばそら少しはおかしくなるか。
そう思い、ほんの少しほっこりとした心のままセブルスに視線を動かしたら……すげえ睨まれていた。

「何を二ヤケている」
「え、僕?」
「お前の事じゃない。セネカの顔面崩壊具合はいつもの事だろ」
「ちょ、ひどい言い草…」
「フン。悔しかったら少しはそのだらしない顔を引き締めろ」
「えー、無理だよー。だって、」

こんなに嬉しいのに。

隣に座るセブルスへとろけそうな笑みを向け、幸せそうに言葉を伝える。
そしてそのままじっと視線を合わせたセネカ。

…なんだろうな。この目の前の異空間は。
否、異様なのはセブルスでなくセネカの方なのだが、それに気付きつつも彼は為す術も無く異空間に取りこまれた。
異空間はセブルスが鼻を鳴らしてそっぽを向いた事で終わりを迎えるが、未だにテーブルの上に横たわる幸せ空気がランコーンの手を止めさせていた。
体格に似合うだけの食いっぷりを披露する彼にしては珍しく、満腹感を訴える胃に従い、彼は食後の紅茶を楽しむ事を選ぶ。
若干半目で視点が遠くなるのも隠しはしない。
慣れなければ慣れなければ。
きっとこの光景はこれからも日常となるのだろうから。

この会話がそれ程大きくないことが幸いだと彼は思った。
二つほど離れた席に居たスリザリン生が何か不味い物を飲み込んだような顔をしていたが、目の前に居る自分の方が重症なので気にしない事とする。
聞き耳を立てているからだ。ざまあみろ。


「(それにしてもなあ…ほんっと態度が違い過ぎるって)」

普段よりも格段にセブルスは饒舌に思えた。
これも身内効果か?
女の子であるリリーへ向けた態度よりも少しばかりツンとしてはいるが、それも表面上の事なのでは?

…というか、明らかに世話を焼いている。
今だって食事量の少ないセネカに小言を添えつつ、彼と自分の為に紅茶を手ずから淹れている場面が展開されていた。
角砂糖二つにミルクたっぷり。
無言でそれらを投入したセブルスに、ありがとう、とまた微笑んだ。
やっべ砂糖吐きたい。

「所でトーマ」
「…あん?」
『ミドルネームのアルカードって、あのアルカードで間違いないのかな?』

ごふっ、と一瞬咳き込む。
話を振られたのも突然だったし、内容もそうであるし、いきなりフランス語に切り替わった事もあって油断していたランコーンは目を白黒させた。
セブルスがそれを見てあからさまに顔を顰める。

『汚い』
「え、うわ、ちょっと、大丈夫?!」
「……ぐ、ふ、ああ、ダイジョウブ…『てか、なんで突然フランス語?』
『ふっふっふー、通じるかどうか賭けてみましたー』
『いやそんな満面の笑みで言われてもな…まあ会話に困らない程度なら話せるけどよ。万が一通じなかったらどうしてたんだ?』
『そん時はそん時だよ。現に通じてるし、問題は無いでしょ? セブも僕も嗜み程度にはお話できるし。…それに…あまり周りに聞かれちゃまずい事じゃないかなって、ね』

意味有り気にニヤリと笑い、一瞬、ほんの僅かな間だけ素早くセネカの眼球が動く。

『大丈夫、だいじょーぶ。貴族や余程の上流階級、名家出身でも無い限り僕らの会話は彼らには通じないよ。これってとっても都合が良いじゃない?
もうバンバン内緒話し放題!
あと、聞き耳を立ててる事を隠しもしないおマヌケさんにも聞かせてあげようって思ってさ。まあ、先程の反応を見る限り、近くに理解出来る生徒はいないみたいだけどねー』

スリザリンなのに盗み聞きスキル低過ぎって、ちょっと問題じゃない?
僕の目が届く範囲でそれはまずいと思うよ。

セネカはそう言って、しれっとした顔でカップを口に運んだ。
あの一瞬とやり取りだけで其処まで見ていたのかよ…。
隣でセブルスがもの問いたげに視線をやるも、彼はそれも笑んで制して見せた。
ゆっくり飲み干して陶器の器をソーサーに置くと、ランコーンの答えを待つようにテーブルの上で指を組む。
新たに注ぎたされた器から立ち上る白い湯気越しにセネカを見たランコーンは、堂々とした、図太いとも取れる言葉へ呆れたように『そうだよ』と短く伝えて頷いた。

Alucard(アルカード)とはDracula(ドラキュラ)の綴りを逆にしたもので、吸血鬼が名乗る偽名とも言われている。
というか、実際に彼の祖父はそう名乗っているので先ず間違いは無いだろうとランコーンは思う。
祖父が吸血鬼だ、と言葉を続けた彼にセネカは『なるほど』と、いやにあっさりとこの話題を終わりにした。

『……それだけか?』

あまりにも呆気なく納得されてついランコーンの口から疑問が漏れる。
もっとこう…反応というか、拒絶的なものを向けられると思っていた彼は心底不思議そうな顔で首を傾げた。
いや別に否定されたかった訳では無えんだが。

片眉を上げ、目だけでそれ以外に何が? と聞いたセネカは、ややあって少しだけ仕方なさそうに口を開いた。

『生まれなんて今更別に、ね。血筋も家柄も僕らには選び様が無いんだから仕方ないでしょ。僕達だって混血だし。でも、だから何? って思うし、僕は僕だし。スリザリンに選ばれる人全てが純血なわけじゃねーもん』

人間なんて死んだらみんな同じだよ。
次も必ず純血に生まれてくる保証なんてどこにもない。
そう言ったセネカの言葉には同じ歳とは思えないような重みがあった。

『おい、セネカ』
『うぉっと、勝手にバラしてごめんねセブ! でも相手の秘密を聞いてしまった手前僕は引けないのさ! …つーかこの際だからセブにも言っとくけど、僕別に純血主義に傾倒してるわけじゃないからね。否定はしないけど。押し付けは遠慮する感じで。…んー…どっちかっていうと実力主義ってやつ? 実力も無いのに威張ってるやつきらーい』
『それは…僕も何となくは感じていたが』
『んま! 流石はセブルス、僕の愛しい弟! 通じちゃってるね! 愛されてるぅ!』
『! お前っ…ここでそれは止めろ!』
『や、トーマしか聞いてないし』
『それが嫌だって言うんだ僕は!』

なんか今恥ずかしい台詞を耳にしてしまったぜ。

セネカの言葉に呆気にとられぽかんとしていたランコーンは、徐々にくつくつと肩を震わせ始め、笑い声を上げた。
少し紅潮した頬とキツイ眼差しでセネカに怒っていたセブルスも、手を合わせて謝っていたセネカも、彼のその様子に表情を変えずに同じ方向へ首を傾げる。
やはり浮かべる表情は違うが、そっくりなその仕草に、

あ、やっべ、こいつら俺のツボにハマったかも。

とランコーンは暫く止みそうにない笑いの発作に身を任せて、固いテーブルの上に突っ伏す。
その日は彼にとって初めて、家族以外で内なる線に二人の友人を迎え入れた、記念すべき日となったのである。

***

うちのスネイプ兄弟は多言語ペラペラ。

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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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