分岐点 extra

セカンドコンタクト
(※後半、若干の卿×兄要素有り)


セブルスがホグワーツでの生活を始め、独り色々煮詰まっている一方。
――その頃、俺はというと…、


瞼を押し上げた先で浩蕩たる漆黒の世界に、ただただ驚いていたのである。


…いや。少し違うかな。
開いたと感じたのは自身の感覚だけで、実際はそういう動作なんてしていないのでは?
本当は初めっから瞳を開いていたのかも知れない、なんて思う。

深く果ての無い闇のひろがり。
ここに立てば何もかもが曖昧となる。
その存在自体も。

俺はしばらく何もない空間を見つめていたが、やがて散らばせていた意識を掻き集め、肉体を動かすと同等の感覚を取り戻すことに努めた。
何故このような空間に居るのかという疑問は一先ず後回しにして。
自分の身体さえ曖昧な状態など気持ち悪いじゃないか。

次に手をかざせば己の指先が映った。
これもそう感じたと言えるものだ。
強く念じると指先から徐々に構築されていく、闇に浮かぶ肌。
感覚さえ掴めば、記憶の通り、制服に着替えたばかりの自分がそこにいた。
…少し付け加えると、俺自身が光を纏わせていたのだが。

まるで燐光を発する夜光虫のようだ。夜の波間に漂う青白い、あの。
パトローナスの薄い銀白色ともまた違う光。
一瞬、ゴースト状態か?! なんて焦ったが、それとは違う。
試しに手を振る。キラキラとした光の粒が尾を引いた。
鼻を寄せて匂いを嗅ぐ。結果、別段何の匂いも感じられずに終わる。
変なの。ヒトが生物発光する例など聞いたことがないぞ?
実はルシフェリン(発光素)を生まれ持ってきていて、今になって酸化反応を起こしたのかよ俺。だとしたら遅すぎだ。鈍いにも程がある。

「…っと、遊んでる場合じゃないか……あー、でもちょっとくらい、この不思議状態の俺を客観的に見てみたいかな」

確かに綺麗だが、自分が光輝く光景などロマンチックとは程遠い物だ。
つーかこれなんて身体を張ったギャグ?
眉を寄せて真面目な顔を作ったら発光セブルスの出来上がりじゃんか。
と、本人が聞いたら当分は口を聞いてくれなさそうな事を考える。
考えながら、そもそも此処はどこだと、腕を組んだ。
そろそろ現実を見る時間です。

「(たしか…今日は9月1日で、…セブと一緒にホグワーツ特急に乗りこんで……寝た?)」

そうだ。思い出した。
急に眠気を覚えた俺はセブルスの膝を借りて、しあわせむふふと眠っていた、…はず?


かたん。
ふと、遠くから音が聞こえ顔を上げた。
かたんかたん。
また聞こえた。今度はもっと近くで。

音を頼りに振り返ると、果ての無い深潭をくり抜いた漆黒がブレ始めた。
今度は感じた、なんて曖昧なものでは無い。
視線を下げると足元には黒い小箱。
明らかに異質。だが、先程の物音はこれか。
確かめようと拾い上げる前に――小箱が震えひとりでに傾き、蓋が開いた。

「――っ、なんだ、これはっ」

流れ出したエネルギーに腕で顔を庇う。
固体撮像素子に生じるブロックノイズに似た、空間の歪(ひず)みが箱から生じ、やがてそれは鮮明な映像を映しだした。




「――私が、なんでそんな、――生まれそこないになりたいってわけ?」

ああこれは、セブルスと二人でコンパートメントを確保して、今か今かと出発を待ちわびていた時の事だ。
幼馴染の少女。リリー・エバンズの姿を探してホームに再び降りたった俺の耳に飛び込んできた言葉。とても小さく、ざわめきに紛れ消えてしまいそうだった。
知った声でなければ聞き逃していただろう。

振り返って見渡す過去の俺もいた。
見慣れた少女達の姿にゆっくりと歩み寄る。

リリーは涙を溜めて、顔を背けるペチュニアを凝視していた。
彼女のエメラルドがゆらゆらと衝撃に揺れている。
今にも零れ落ちてしまいそう。
出会った当初よりも少女としての輝きを増した彼女のその様子は、傍に寄り添い抱きしめてあげたくなる魅力に溢れていた。
…場の雰囲気を読まない事を言うが、ちょっと娘を嫁に出す父親の心境になってしまったぜ。

姉妹の間では不自然にリリーの手が動きを止めている。

「リリー」

俺が普段通りの笑みを作って声をかけていた。
空を彷徨っていたほっそりとした指を、胸に引き寄せながら二人の間に割り込む。
今彼女がペチュニアに触れたら…きっとこの手は振りほどかれる。
それとも、もう振りほどかれてしまった後なのだろうか?
先ほどの言葉だけで彼女がこんなにも悲しそうな顔をしてるとは思えない。
だったらそんなこと、もうさせてはいけない。
そう思っての行動だった。
手を取られハッと俺を見上げたリリーに、


「もう直ぐ出発だよ。急いだ方がいい。ご両親への挨拶はもう済んだかい?」


背後に居るだろうセブルスの方へと背を押す。
リリーは暫く迷っていたようだが、両親へ一言二言挨拶をし、キスを貰うと列車内へと乗り込んでいった。
後に残されたのは俯くペチュニアと俺の二人。

「……チュニー」

それまでずっと黙りこんでいたペチュニアの名を呼ぶと、少女は肩をビクリと震わせた。咎められる。そう思ったのだろう。
肩に手を置くと、弾かれるように俯いていた顔が俺を見上げた。
幼い彼女の瞳は嘘を吐けず、ゆらゆらと揺れている。
まるで先程のリリーのように。

「チュニー…そんな顔をしないで。僕等が君に寂しい思いをさせてしまうのは分かっていた事だけど…」
「違う。わたし…別に、寂しくなんて、ないわ」


反射的にだろうか、ペチュニアが直ぐに口を開く。
強がりな言葉とは裏腹にスカートに皺を作り出す手は震えてて、ぎゅっと堪えるように握りしめていた。
素直になれない子供。そう俺の目には映る。
それでも、何か言いたい事があるのだろう。
口籠らせてチラチラ俺の顔を窺う彼女にセブルスが重なって、クスクスと笑いが零れていた。
二人はこういうとこが似た者同士だよね、って。
だからいまいち上手くいかないのかな?

「向こうに着いたら手紙を書くよ。梟が届けに来るけど怖がらずに受け取って欲しいな」
「…そんなの、返事はどうすればいいのよ」
「運んできた梟に持たせるんだ。ご褒美をあげて、ちょっと待って、お願いすればいいんだよ。うちの梟はとっても賢いんだ」
「……わかったわ。でも、返事を書くなんて…わたし、言ってないから」
「ん。ありがと、チュニー」


囁くように言って頭を撫でた。
リリーの髪質と似たブロンドがスルスルと指を抜け、初めて俺が起こした行動にペチュニアが顔を真っ赤にし、カチンと固まった。
また俯いてしまったのを不思議に思いながら撫でつけている。

――映像の中の俺は、リリーとの事を自分から言及したり嗜める事はしない。
撫でられてほっと息を吐いた彼女にも、酷い事を言ったのだという自覚があるのだと俺は知っていたから。
自分だけが魔法を使えなくて、俺達が羨ましくて、嫉妬して。でもそんな感情を認めてしまうことが出来ずにリリーを傷つけた事を。
いつかぶつかる問題だとは思っていた。でもこれは、姉妹の間で解決すべきことだ。
他者が間に入っても余計拗れる可能性があるため手出しは控える。
だから俺に出来る事は、彼女に生まれてしまった棘を和らげることだけ。

彼女はマグルとして生まれた。
これだけは誰にも、神様とやらでもなければどうにかする事は出来ない。
人は、生まれる場所は選べないのだから。
昔からこの隔たりは深く厚く、埋める事も詰める事も難しいのだ。


「チュニー、寂しいと思ったら恋をしてみたらいい。恋をして、悩んで、考えて、愛を見つけるんだ。君はまだまだ蕾の、花を咲かせる前の女の子なんだから……恋をしたらきっと綺麗な花を咲かせることが出来るよ。ねえ、ペチュニア。君だけの花を咲かせてごらん」

「ペチュニアの花言葉は――あなたと一緒にいると心から和らぐ」

「そう言ってくれる人と出会えるといいね、チュニー」


僕の言葉を覚えておいてね。
言って俯く彼女の頭に別れのキスを落とし、汽車で待つ二人の元へ戻っていく、俺。
ここで映像は途切れた。

…そういえばこの後、一部始終を見ていたリリーに何故か溜息を吐かれて、鈍感ね、って言われたんだよな。
そんで、ムスッとしたセブルスに引き摺られる様にコンパートメントに押し込められたんだっけ。


かたん、かたん。
また先ほどと同じような小箱が足元に転がる、音。
再びねじれた空間に映像が流れ込む。
ああまた、同じような追体験が始まるのかと、少し身構えた。



「母さん、到着する前にどうしても言っておきたい事があるんだ」

大きな荷物と共に地下鉄で移動する俺とセブルス、そして母親。
これは自宅を出発して、9と4分の3番線までの出来事だ。
人もまばらな列車内。
俺の隣でセブルスが手を握りながら俯いている。
母親との会話に神経を研ぎ澄ませ、話しに加わるタイミングをはかっている様にも見えた。でも、俺はそれに気が付かないフリをして何気ない風を装って続けていた。

「今日から僕達はホグワーツでの生活を始めます。次に戻ってくるのは夏季休暇になると思う。…先日説明した通りに僕はもう養ってもらう必要が無いし、セブルスの事だって不自由させる気は無い。
母さん。だから、もう、そろそろ自分の事だけに気を配ってもらえたらなと思う。勝手な事を言っている自覚はあるけど…父さんの事も。
もちろん、まだ成人してない僕らには保護者が必要だ。…でも、」


ガタン、と大きく車体が揺れ、一度途切れる。
黙ったまま俺の話を聞く母親の青白い顔を見上げると、彼女は真っ直ぐに外へ視線を向けたままだった。
黒い髪と瞳、肌の色は母親譲り。
無感動な横顔を見つめ、鼻は父親譲りなんだなと、ぼんやり思う。

「――でも、もう、これ以上貴女を縛り付けておく事をしてはいけないと思うんだ」
「…セネカ」
「ごめんね、セブルス。君にも何も言わないで勝手な事を言って。…でもね、これは前々から言うと決めていた事なんだよ」


眉を下げて謝る俺にセブルスが首を振る。
そうだ。彼女は自由になるべきだ。
貧しい家計を支える為に働きづめだった生活から脱却し、自由に。
その転機は、今、ここにある。
化粧っ気のない顔に着古した衣装を纏う。そんな自分を捨ててもっと幸せになる為に生きて欲しい。俺達の事など気にせず。
それが俺の予てからの願いだった。

「本当に、勝手な事ばかりを言うのね。貴方は。そんなとこ、あの人そっくりよ。……壊れてしまった器は、もう元には戻らないと分かっているのでしょう? たとえ魔法でも」
「…壊したのは、僕だ」
「ええ、そうよ。――貴方の所為でもあるのよ、セネカ。それを忘れて生きてはいかないで」
「…はい。分かっています」

「――でも、先に手を出したのはあの人だ」


口の中で呟いた小さな言葉は届かない。
ガタンとまた大きく車体が揺れ、蛍光灯の光が一瞬、ジジと途切れ点滅し始めた。窓の外の暗さもそれを一層引き立てている。
それから一度も俺の顔を見ずに話を閉めた母親も、不安げな顔をしたセブルスも、目的地に到着するまで誰も口を開く事は無かったのだ。



これは一体、なんだ。
何故こんなものをまた見なくてはいけないんだ。

イライラが募り、映像を腕で薙ぎ払う。
胸のうちのざわつきが、これをこのままにしてはいけないと警鐘を鳴らしていた。
光の粒子にかき消されたノイズは黒い小箱へと戻っていく。
そして俺の元に残された、二つの箱。
同じものがまた転がってこない事を確認すると、右腰のホルスターに刺してあった杖を引きぬいて俺は呪文を放った。

「エクスパルソ!」

小箱が爆破する。
苛立ちを込めて魔力を練ったお陰で強い爆風が生まれた。
風が髪を後方へなびかせ、頬を欠片が掠め一筋の赤い線を残す。それでも気分は晴れない。
じっと立ち尽くし肩を怒らせる俺。
やり場のない感情がぐるりと内を掻き乱していた。

そんな俺にありえない事が起きた。
いや、起きたというのは間違いだ。音だ。音が鼓膜を揺らす。

――パチパチという拍手が、闇の淵から聞こえたのだ。


「自身の記憶を躊躇いもなく消し去ったか」
「――だれだ」

昏い声だ。聞く者をゾッとさせる雰囲気をもった。
人の傷口に爪を立てて嘲笑う、冷酷な響きを含んだ男の声。
俺の放った誰何の声に、ふっと空気が揺らぐ。
笑われた。そう感じるも、俺は声に振り向くこと無く警戒を強める。
この声は危険だと、俺の感が告げてもいるのだが…なんだ? これは。
ふと湧き上がる疑問。
俺は…前にも似たような感覚を体験したことがあるんじゃないか? と。

「誰だ、とはご挨拶だな。俺様の存在に覚えがある筈だ、セネカ・スネイプ。貴様は俺様のモノ。俺様が直々に刻んだ目印は気に入ってくれているのだろう?」
「っ、…お前、はっ!」

目印。そう言われて思いつくものなど俺には一つしかない。
右腕に根付く忌わしい呪いの傷。
磔の呪文によって痛みつけられ、屈服させられ、自尊心を酷く傷つけられた記憶がさまざまと蘇り瞳の中で踊りだした。
そうだ。この声は、この不快な声は…!

「貴様が、何故ここに居る! ヴォルデモート!

バッと勢い良く振り返った俺は振り向きざまに杖を振り動かす。
杖先から緑の光線が走り、男のローブを掠めた。
外した。いや、外されたのか。
無言呪文を放った途端、右腕が鋭い痛みに痺れ、狙いをわずかに逸らされていた。

「くくっ、やはりそうきたか。貴様、またしても何の躊躇いもなく死の呪いを放ったな。…だが、当たらねば意味がない」
「…当てるつもりだったんだ。邪魔さえ無ければね」
「邪魔? それは違う。その右手が俺様を守ったのだ」
「…な、に?」

右腕を押さえ片膝をつく俺の前に、闇が、その全貌を露わにした。

風もないのに蛇のように揺らめく長いローブ。
白い肌、黒い髪。フードを被っていない顔が意外にも端正な事に驚かされ、しかしその冷淡な表情が男の本性を曝け出していた。
瞳は記憶通りの、血を凝縮して固めた真っ赤なピジョン・ブラッド。
周囲の闇を纏わりつかせ移動した男――ヴォルデモートが、俺を見下ろす位置で歩みを止めた。

「変わらず生意気で強く強かな眼だな、セネカ。こうして対峙する間もお前は、どう逃げようか、どう行動したら俺様を殺められるのかと考えを巡らせているのだろう。…殺すことを恐ろしいとも思わない。その歳でそういう顔をしているな」
「く、っ俺に…さわるな。あと、人の名を勝手に呼ぶな。俺は許可を出していな、い…っ…!」
「フン、口の利き方に気を付けろ。そういう所が生意気だと言うのだ貴様は。…そうだな。いっその事、力ずくで塞いでしまおうか?」

ふわりとローブを広げ男が膝をつき、俺の顎を指先で持ち上げる。
頬に走る傷を奴は舐めるような眼で見ていた。
血に、興奮しているようにも見えて鳥肌が立つ。
…不快だ。激しく不快だ。
名を呼ばれるのも、触れられるのも。
俺に触れてもいいのはセブルスだけだっつーの!

唇の端から赤い舌がちろりと覗く様は得物を捉えた蛇そのもののように思えた。実際にそうだが。認めるのも癪だ。
唇を噛みしめて睨み上げる俺の様子を、男はさも愉快だと肩を揺らす。
ほんとうに、何故ここに居るのか。ここは何処だ。お前が俺を連れ込んだのか。近づくな。放せ。話せ。
ぐるぐると考える事が多すぎて、尚且つじくじくと痛む右腕に苦心する俺を、――男の腕が引き寄せた。

「――ふっ?! ぁ、っ、……ぐっ、」
「…ッ、…色気の無いうえに、躾も悪い小僧だ」
「あってたまるか! 何をす、る、…ぁ、うっ、ああああっ! ――んーんっん、」
 
こんなことが、この男には許されると言うのだろうか。
男は一度、俺の唇を奪った。
先程の言葉通り力づくで塞ぐというその宣言通りにしたのだ。
しかし俺も俺で、奪われ自由にされる事を許さず、相手の舌を噛むという古典的で確実な抵抗を起こした。

するとどうだ。
男は俺にまたしても磔の呪文を掛け、強烈な痛みに悲鳴を上げたままの唇を塞ぐというとんでもなく非常識な行動に出た。
なんてやつだ。ありえん。
やっぱりこの男は稚児の気でもあったのだろうか。

咥内を蠢く熱に強い嫌悪感が涌く。
ねぶる様に動かされる舌が吸い上げるのに頭を振ると、腕を回され顎ごと捉えられ上を向かされた。
反対の腕は杖を握る手首をギリギリと締め上げ、やはり力の差で後ろに捻り上げられるとそのまま腰を引き寄せられる。
なんて、屈辱。
これは紛れもない暴力だ。
蹂躙する、卑劣で悪辣な行為だ。
愛する者同士が交わす行為を、奴は苦痛のみで埋めていた。
まるで荊だ。傷つける事しか出来ない。

奪い尽くされ力の抜けた俺の身体を男が支えた。
それは優しさからくるものでは無くて、ただ単に話を聞かせるのに俺が意識を失うのも面倒と思ったのだろう。
魔力も共に奪われたのか、指を振る事さえも困難に思えた。
右腕の刺すような痛みも手伝って、手足がだらりと堕ちる。

ここは貴様の意識の底だ。
男が言った。
先程見せたのは貴様の記憶。
男がそう続けた。

「貴様の心が読めぬのならばと、呪いを介して入り込ませてもらった」

するとどうだ。貴様の周りに居る穢れた血も、マグルになど嫁いだ女も、実に愚かだった。
くだらない。貴様もそう思うだろう? と、嘲る口調で男が顔を近づけた。



「ひ、との記憶を、勝手に覗くな、んて…すげー、あくしゅ、…み」
「貴様は俺様のモノだ。それをどう扱おうと俺様の勝手だ」
「……脆弱な身体に何て、ようは、なかった、ん、じゃないのか」
「――ああ、そうだ。この度は貴様の入学祝に俺様直々に駆けつけて、祝ってやろうと思ったまで。フッ、存分に喜ぶといい」
「…いらねー…」

ハタ迷惑、その一言に極まれり。
語り終えたのか男は満足し、今度こそ俺の身体を放すかと思われた。
しかし俺の期待には添わず片腕で俺を持ったまま男は再び、今度は白い小箱を目の前に持ち上げ、ひけらかす様に差し出したのだ。
冷たい微笑が顔に刻まれる。
嫌な予感。
この男に感じた予感は外れない。

警鐘が鳴りっぱなしな俺はもがきながら、なんとかその箱を壊そうと躍起になった。
だが――、

「俺様と合う以前の記憶はプロテクトが強すぎて探れずじまいだったが……ここに一つ、面白い記憶を用意した。実に、興味深い記憶だ。強く、根深く、貴様の感情のもっとも深い部分と思われるものだな」


なんとあさましい事だ。血を分けた弟に思いを寄せるなど。


その言葉に俺は血の気が引き、奈落の底に叩き落とされた心地になった。
一番知られてはならない人物に、俺の想いを覗かれたのか、と。

箱が開かれる。
映し出された映像に現れたのは――幼い、セブルスの姿だった。

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