スピナーズ・エンド
廃墟となった工場と黒い煙突。
汚れた暗い川。
荒れ果てた煉瓦の家々が建ち並ぶ迷路のような街に俺達双子は生まれた。
御世辞にも程良い生活環境とは言えないような此処。
見上げる空はいつもどんよりと陰っている気さえしていた。
しかしどの様な悪環境であれ子供は育つものだ。
物心がついて直ぐに生前の記憶というものを奥底から引っ張り出してしまった俺は、三歳にして自分の置かれた立場や環境を理解した。
両親の間に流れるギスギスとした空気。
次第に長くなる口論の時間。
子供に無関心な父親と神経質な母親。
――自然と芽生えたのは俺がしっかりと守ってあげなければ、という使命感だった。
「セブルス、こっちおいで。ぼくがごほんをよんであげるから」
「うん……でも、パパとママが」
「いいの、だいじょうぶ。じきにおさまるから。ね? おいで」
渋る弟の手を引いて、二階に上がり薄暗い部屋の隅に並んで腰かけた。
「じゃあ、きょうはきのうのつづきから。わかんないとこがあったらいってね」
俯いて不安げに瞳を彷徨わせていたセブルスも俺が読み上げ始めると顔を上げる。
小さな指で一文字ずつ辿れば、それに合わせて黒い大きな瞳がじっと食い入るよう追ってきた。
「ほんとにほんがすきだね、セブルスは」
喉をくつくつ震わせると痩せた肩が触れ合う。
中断された事で不満顔になったセブルスの子供らしい輪郭を隠す伸びっ放しの髪についた埃が目に止まった。
さり気なく払いそのまま髪を撫で、早く大きくなって俺がこの子を食わせてやらなきゃ、なんて大真面目に考えながらまた本に視線を戻した。