分岐点 extra

手紙


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Dear Albus,

寒い日が続きますがいかがお過ごしでしょうか。
こちらは僕が風邪を引くくらいで、セブルスはとても元気です。元気が良すぎて毎日怒られています。

先日は僕達の誕生日のお祝いをありがとうございました。
毎年届くもこもこ靴下は、僕とセブルスのお気に入りです。早速使わせて頂きました。
お陰さまで冷え知らずです。アルバスも履いているなら三人でお揃いですね。

僕らもいよいよ10歳。
来年にはホグワーツへ入学です。
此方で出来た新しい友達も含め、その日が待ち遠しいと会うたびに話しています。

あ、新しい友達というのは先日ちょっとお話に出たリリーという子の事です。
とっても可愛い女の子なんですよ。
魔法界の事をお話してあげると凄く目をキラキラさせて、まるでアルバスみたいだと思いました。(彼女、きっとグリフィンドールだよ!)
彼女の姉はマグルでしたが、僕らとも友達になってくれました。でも、ちょっとセブルスとは馬が合わない感じだけど。

根は良い子なんだけどね。
彼女だけが入学出来ないから拗ねちゃってもいるみたいだし。…何とかなんないかな。でもこればっかりは僕でもアルバスでも無理だよね。

ねえ、アルバス。
アラスターの時も思ったけど、どうしてセブったらたまに喧嘩腰になっちゃうんだろ。
やっぱりマグルって事で父の事を思い出しちゃうのかな。一人で抱え込んでないかが心配です。
あの人の事は僕が原因でもあるので、セブルスには申し訳なく感じる。でも、彼にはそれが元でマグルへの偏見を強めてもらいたくはないとも思う。
だって勿体ないじゃないか。マグルと魔法族。両方の血を持つ僕らだから、両方の良い所を自分の力にしちゃえば良いのにね。

…僕って我儘かな? 理由も言えないのに。
でも言ったらきっと、セブルスの方が悲しい顔しちゃうと思うから、なかなか言えなくって。聞かれても誤魔化しちゃうのが僕の悪いとこだよね。
いつか、父と母の事を彼に話せる日が来れば良いな。僕にもう少し勇気があれば良いんだけど。

入学してからは純血主義の人達と触れ合う機会も多くなるだろうから、今後も彼からは目が離せないと考えています。
ほら、僕らってスリザリンに入りそうじゃない? そしたら、いっぱいうじゃうじゃ居そうじゃん?
…悪影響がありそうな人って、黙らせちゃってもいいと思う?
敵を作らないに越した事は無いけど、可愛い弟を守る為ならちょっと頑張っちゃおうかな。

校長であるアルバスには迷惑はかけない心づもりではあるので、そこんとこだけは安心して下さい。
大丈夫、バレない自信だけはあるから。

と、いう感じで彼女達はもう僕らの妹みたいなノリです。
機会があればアルバスにも紹介出来れば嬉しいです。写真を撮ったらそれも送りますね。
セブルスとセットで僕の天使達を。
それと、先日貴方がセブルスにぽろっと口を滑らせて下さった会社の件も含め、直接苦言をじっくりたっぷり膝を突き合わせて言わせて頂きたいと思います。覚悟しておいて下さい。
(あれからね。すっごく大変だったんだよ。怒りを通り越して無表情のセブってね、ほんとこわい)

では、春にはまだまだ遠いですが、どうぞお身体を大切に。雪に足を取られて転ばない様にお気をつけ下さい。

Yours sincerely,
________



「――セネカ・スネイプより…っと、」

ダンブルドアへの手紙を書き終えた俺は丁寧に折りたたみ、待っていてくれた梟の足へ括り付けた。
体色が白黒斑のオナガフクロウ。尾羽が鷹のように長くてカッコイイ彼は自社で飼っている梟だ。
ちょっと神経質なとこが困った子だが、俺にはちゃんと懐いてくれてるので概ね問題は無い。…なんか、セブルスみたいだよな。
可愛さで言うならウサギフクロウがとびっきりだが、まさか中南米に生息する子をこんな寒い国で飼う訳にもいかねえからさ。

これから彼を送り出す先は雪のチラつく真冬の空だ。
途中で凍ったりしないだろうかと、少し心配になる。

「じゃ、よろしく頼む。アルバスの顔面にでも体当たりしても良いよ」
「ほーう」
「ははっ、良い子良い子。しっかりやってくれ」

ふわっふわの羽毛を撫でてから送り出すと、タイミング良くセブルスが俺を呼ぶ声が階下から聞こえた。
はーい、とそれに元気よく答えて羊皮紙と羽根ペンを仕舞う。
愛しい弟は今、俺の為にお茶を用意してくれているのだ。
今度エプロンを買ってあげるのも良いかもしれない。
そう考えを膨らませるだけで萎んだ気持ちも上を向く。

「……今頃何をしてるのかね。どっかでのたれ死んでなきゃいいけどさ」

はあ。
チラリと曇った窓の外を少し眺め、息を吸って吐いた。
気持ちを切り替える様に。少し重く。

火の入った暖炉、あったかい紅茶、セブルス。
うん。これに勝る幸せは無し。そうだろ?
再び焦れたような声が響き、俺は急いで部屋から出た。
折角宥めて回復したのに、またぶり返されてはたまらないのだ。

――季節は冬。
窓の外で家並みが白い装飾を纏う中、俺達はめでたく十歳の誕生日を迎える事が出来ました。

***


リリー・エバンズという少女はとても美人な子だ。
小首を傾げる度にゆれるたっぷりとした赤毛は燃える様に深く、アーモンド形の目にはめ込まれた瞳はエメラルドに輝き、強い生命力で人を惹きつける。
そんな子だ。

「ねえ、吸魂鬼のこと、また話して」

鈴を転がしたような可愛らしい声がそれに似合わぬ話題を振る。
それを聞いていた俺は少し眉をひそめ、同じく難しい顔をしたであろうセブルスを想像していた。

「何のために、あいつらのことなんか知りたいんだ?」

思った通りの怪訝そうな声。
彼女がもし校外で魔法を使った場合の心配をしているのが分かったし、それを否定する、アズカバンになんか行くわけ無いだろというセブルスの言葉も力強かった。
俺も心の中でうんうんと頷く。

そうそう。そんな事で奴らが借り出されちゃたまんないよな。
大体さ、魔法省の察知方法なんて案外いい加減だ。
近くに大人の魔法使いが複数いれば誰が使ってるのかも判別出来ねえし、マグル界に目を光らせるので忙しい。
(今はあの蛇男、もといヴォルデモートとかいう闇の魔法使いが大活躍しちゃってるらしいしな)

例え俺達から発せられる未成年特有の匂いがあっても、抜け道さえ知っていりゃ使いたい放題だ。俺にとっては。
それを逆手にとって会社経営なんてのもこっそりしているからな。
まあ…リリーにはそんな事言えないけど。

俺は頭上で交わされる会話に耳を傾けながら、緑の絨毯に寝転んでセブルスの膝枕を堪能していた。
緑豊かな大地に膝を伸ばし、ペタンと座る彼の膝枕を堪能していた。
ええ、そうです。大事な事なので二回言いました。
ついでに言うと、無意識なのか、彼はくるくると指で俺の髪を弄ってもいる。

くっ…今、この瞬間をカメラに納めたい…。

大人のセブルスにしてもらった事はあるし、寝た事も腕枕だって体験済みな俺としては嬉しい限りである。
ベッドでいつも一緒に寝てるけど、ソレとコレは別物なんだよ。
…つーか、贅沢を言えば撫でて欲しい。
頭だけでなく顔とかもさ。
逆はあってもまだソコまで思いつかないらしい。

そいでもって、もっともっと言っても良いならセブからのちゅーが欲しいです。
恥ずかしがり屋なセブからはよっぽどの事が無い限りしてもらえないので、今の所はそれが目標でもある。
…いやに低い目標と言われるかも知れんが、こうした一歩一歩が大事だと俺は思うんだよね。うん。
別に「強敵、出現?!」などと考えて焦ってる訳じゃねーし。
凄いキスで奪っちゃうぞ作戦は未だに俺の中で温め中でもある。


閑話休題。
話を戻すがリリーは本当に美人で可愛い子だ。

肌の色は白いし、健康的で活発で、おまけに正義感たっぷりで意外と勇ましい。
この前なんてさ。俺がうっかり躓いて倒れたら、まるで紳士みたいに手を差し出されたんだよな。
ついでに白状すると抱き起こされたし、おんぶされそうになったし、仕舞いには、

「――もう! セネカったら、ほんと危なっかしいんだから。セブがいっつも心配してる気持ちがわたしにも分かったわ! ……ハッ、…そう、そうよ……決めた。わたしも一緒に、セブと一緒にセネカを守るわ!」

という宣言も頂いてしまいましたー。ははっ。
なんて名案なの! って顔したリリーがとっても眩しかったデス。

俺が唖然としているその横で、セブとリリーがガッチリ握手をしている状況とかもうほんと泣きそうだったぜ。
あの時ばかりは俺の笑顔の閉心術もフルオープンだった。
え? え? なに? 俺ってそんなに頼りない感じか?! って。
セブもセブで「やっと分かってくれる人が現れた!」みたいな顔してるもんだから、俺は自分を押さえるのがやっとだった。
ほんと情けない。
お陰様でリリーと出会ったときに感じた、やっちまった感が全部吹き飛んだ! ほんとうにありがとうございます!

「(…だってあの時、セブルスの目が食い入るようにリリーを見ていたし、憧れとか混じってたし、見惚れていたのも分かった。もうあんな目、二度と見たくない…)」

初めて見る同年代の、しかもこんなに綺麗な女の子だ。
見惚れない方がおかしい。
普通の男子ならもって当然の感情だ。
今は小さなモノでも、いずれ気持ちが育てば、時が経てば。取り返しがつかないほど大きなものに変わると俺は知っている。

初恋は大事だ。
甘酸っぱくって青臭くってまさにこれぞ青春! ってもの。

多感な年頃に触れる全てのモノが人を育み、感情を豊かにする。
思春期前は勉強よりも、人との触れあい方を学ぶことの方がよっぽど大事だ。
他人と触れ合う機会が少なく、病院では接する相手が大人ばかりだったセブルスには同じ年頃の友人が必要だと思った。
俺がいれば十分だというセブルスの気持ちは嬉しい。舞い上がりそうなほどだ。
でも、だからこそ俺は理由を付けて彼を外に誘った。
それは今でも間違いだとは思ってはいない。
ただそれが偶然にも女の子で、とても綺麗な子であっただけ。

でもなー……正直、あの時俺が必死に自分の中に押し込めた焦燥とか嫉妬とか諸々を返してほしい。

全てはリリーの「同じ女の子同士で」発言によって脆くも崩れ去ったのだ。
それはもう見事に。
横っ面をひっ叩かれたような顔をしたセブルスの顔が今でも忘れられない。
それを見てほっと胸を撫で下ろした俺ってマジ俺。
ほんとは心の中でガッツポーズ決めたどころか、拍手喝采だったとか内緒だぜ?

「(まあ、例えソレが無くてもセブルスがリリーに本格的な恋心を抱いた場合。俺が全力で粉砕してたと思うけどな。逆もまた然り)」

誰にも渡す気は無いし、俺以外を見る彼を見続けるのも我慢がならない。
それは絶対だ。
見守るとは自分に誓ったが、俺は一切「邪魔をしない」なんて言って無いからな。
え、屁理屈? …フン、何とでも言え!
成長したセブルスとの触れ合いが無ければ、その出会いがなければ開花しなかったであろう俺の恋心。
愛しいセブルスが俺を見るなら、どんな手を使っても良いとさえ思っている。
まあ…今はすごく地道だけどな。
指さして笑うなよおい。


心地良い風が吹き抜け、頬をなでる。
会話が途切れたのを見計らい、そろそろいいかな、と思った俺はゆるりと瞼を上げて口を開いた。

「アズカバンの看守、吸魂鬼。ディメンターと呼ばれるモノは人々の幸福な気持ちが好物だ。特にリリー達のような幸せな記憶をたくさん持った子供なんて、御馳走だよ。側に寄るだけで吸い取っちゃうような厄介極まりない危険な生き物なんだから、例え機会があろうと近寄っちゃダメだよ、リリー、セブルス。…辛い記憶を持った人や影響を受けやすい人なんて倒れちゃうんだから、ね」
「……」
「あれ、ちょっと怖がらせちゃったかな」
「起きてたなら早く言え」
「そっち? …いや、もうちょいこの幸せを堪能したくてだね」
「?」
「うん。分からなくてよろしいのだよ僕の愛しい弟よ」
「…っ、…人前でそれを言うのはやめろ…」
「もう慣れたわ」
「リリーも可愛いよ」
「あら、でもどうせセブの次にでしょ?」
「もっちろーん」

ふひっと、ヘンテコな笑い声を上げてゴロゴロする俺に、セブルスの呆れたような視線がチクチク刺さる。
此処までくるのに大分苦労した自覚があるので、出来ればこのまま会話を続けさせてほしい。切実に。

改めてリリーが不安そうな瞳で俺を見下ろす。
このままでは延々とセブルスとイチャつく俺にとっては、彼女は程良い進行役だ。

「ねえセネカ、その、もし出会ってしまったらどうしたらいいの?」
「有効な呪文はあるけど僕らではまだ無理だよ。とっても難しい魔法なんだ。…そうだね、ディメンターが去った後ならチョコを食べたら良いよ」
「チョコレート?」
「うん。元気になれるし、それが正しい対処法。覚えておいて損は無いからさ」
「セネカの場合それが目的になりそうだ」
「おや、失礼しちゃう! セブだって知ってるでしょーが」
「とうぜんだ」

ふふんと、胸を張るセブルスが大変可愛らしいです。
下から見上げる形という普段とは違う角度から見ても、彼はやっぱり愛しいのさ。流石は俺の弟。360度全てから見たって可愛く愛しいのだ。
ふっふふー。
なんだかんだでこの体勢を甘受してくれてるしな。

ニヤニヤし始めた俺の顔を引っ張ろうとセブルスが動き始め、しかしそれもふいに止まる。
ガサリと茂みが揺れ、その間からひょっこりとまた新たな顔が現れた。

「あ、チュニーだ」

そばかすの浮いた顔が俺と目が合い、ここに居たのねと呟いて、ちょっとはにかんでまた枝をかき分ける。
完全に脱出し、茂みに囲まれた小さなこの場に彼女が混ざると、セブルスが少しムッとしたのが感じ取れた。
ペチュニアもリリーの反対側に腰を下ろすもんだから、セブとの距離は一番遠い。
ああもう仕方の無い子達だなあ…。
俺はそれに少し苦笑を洩らすと、勢いをつけて身を起こした。
セブルスが、危ないだろ、なんて抗議の声を張る。
軽やかな笑顔で彼をさらっと宥め、

――そしてどこからともなくカメラをスッと取り出した。


「さてさて、皆様お揃いになったようなので本日一番のメインイベントがここに開催されます。あ、拒否する事は却下でーす」
「「「?」」」

すうっと息を取り込み、俺はにこっと笑いながらカメラを構えた。

さあ! 僕の可愛い天使達! その素晴らしく可愛らしい姿をこのカメラに納めさせておくれ! はいそこ! 笑って笑っ――」
「ニヤニヤしてキモチワルイ」
「いくらなんでも、いきなりそのノリは無いと思うわ」
「…ごめんなさいセネカ」
「ぬおっ!! たたみ掛ける様に否定された! な、なんで!? どこがいけなかったのさ!?」
「「「天使達」」」
そこかっ!!


三人に即座に首を横に振られ、俺が落ち込んだのは言うまでも無い。

拝啓、アルバス・ダンブルドア様。
写真を送るのはもう少し先の事になりそうです。敬具

***

兄主の笑顔、実は閉心術なのです、という設定

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