分岐点 extra

未来生活 2


待ちに待った朝食の時間だ。
俺の腹は空腹に切ない声を上げていた為、セブルスに笑われてしまった。
お腹と背中がくっ付く、という言葉の通りならば今や俺の腹は羊皮紙の如くペラッペラだろう。
なにそれこわい。
難しい顔をして想像に唸る俺にセブルスは首を傾げていた。

朝食は大広間で他の残っている教授方と共に取るらしい。
弟の勤務先の同僚か…。
ちょっと緊張するな。
ここは第一印象を良く印象付けるべきだ、と考えた俺は移動中ずっと笑顔の練習をしてセブルスにあからさまな溜息を吐かれた。
セブったら兄の心を知っておきながそれはちょっと酷いぜ。
本音を言えばにこやかなセブルスだって見て見たいの「馬鹿みたいに笑うのはセネカだけで十分だ」……はい。

俺が此処に居る表向きの理由は「タイムターナー(逆転時計)による事故に偶然巻き込まれたらしい」と予め決めていた。
らしい、というのは俺自身も混乱していて良く分からないから…という事で。
アレは過去へと渡る類の物だが別段有り得ない事では無い、とは思う。
それに証人となってくれるのがダンブルドアとセブルスだ。
妙な事を勘繰られる事も無いはず。

「しかし緊張はお腹から出る…」
「安心しろ。それは腹の虫だ」
「分かってはいるんだけど…うぅ…おなかすいた」
「もう少しくらい待てんのか」
「わん!」
「犬か!」
「ノリの良いセブが好きだよ僕は……ところでセブ」
「はぁ…なんだ」
「どうして移動の度に抱っこ?」
「ほう、移動中で力尽きても良いのなら今直ぐにでも落としてやろう」
落とすの?! 下ろすんじゃなくて?!
「大変素晴らしい記憶力の持ち主であるセネカに申し上げるのは差し出がましい事とは思いますが…一人でふらついて動けなくなる事態など、身に覚えは?」
「うっ! ……すごく、あります…」
「地下から大広間まで決して近いとは言えぬ。体力の無いセネカが無事辿り着けるものか」

前を見据えながら淡々と述べるセブルスに「ははっ…」と俺は苦笑い。
ちくしょうセブルス、しつこいぞ!
俺の記憶では聖マンゴでのたった一回しか無い。
しかも最近の事だ、…俺にとっては。
でもこのセブルスにとっては20年以上前の話。
それを未だ覚えてるなんて執念深過ぎる…。
それとも何か? 俺はまた同じ失敗を犯してしまうのか?
…ありえそうで言い返せねえ。

階段を登り切り、やがて大広間の扉前まで辿り着いた。
そっと石畳の廊下に下ろされると、大きな扉を押してセブルスが入った。
俺はその後に続き、前を行く長いローブに隠れるように歩いた。

「おお、セネカ、セブルス」
「…! アルバス!」

広間の奥、上座にあたる場所に置かれた長テーブルに特徴的な長い髭を発見。
俺は精いっぱいの子供らしい歓声を上げてダンブルドアの元へ走り寄った。
何故そんな事をしたかって?
だってダンブルドアが両手を広げて待っているのだ。
これは行かねばならぬと空気を読む。
今まで飛び込んだ事なんて無いんだけどな。

「おはようございます、アルバス!(ちょっと、なんですかこの演出は)」
「おはようセネカ。良く眠れたかの?(粋じゃろ?)」
「うん!(確かに心温まる光景っぽいですけど…やり過ぎじゃないですか?)」
「うーむ、顔色も良いようじゃな。セブルスはちゃんと面倒を見てくれたようじゃの。(第一印象はバッチリじゃ☆)」
「うん…でもほんとは僕がお兄ちゃんなんだから僕がお世話をする役なのになあ…(考える事は同じですか、流石ですね…)」
「おやおや。(ほっほっほっ)」
「……」
「…? どうしたの? セブ」

そんな死んだ魚の様な眼をして!
俺とダンブルドアのあははうふふな孫と爺ちゃん的光景の裏を、どうやら読み取ってしまったらしい。
立ち尽くし微動だにしないセブルスを無邪気に見上げる。
ああ、セブ、そんな疲れた顔しないで。
俺だってこんな茶番、予定になんて無かったよ…。

「さあさ、二人とも席に着きなさい。御二方をセネカに紹介せねばのう」

促されてダンブルドアの横に俺が、その隣に無表情のセブルスが席に着く。
長テーブルを挟んだ向かいには、二人の魔女が座っていた。

「はじめまして、セネカ・スネイプです。いつも弟がお世話になってます」

にっこり笑顔で挨拶すると隣から痛い程の視線を感じた。
最後の一言に関しての無言の抗議である。
しかし直ぐに顔を背け、必要最低限は口を挟まないぞと無言を貫くセブルス。
子供みたいな態度を示されて可愛いなあと口元が二ヤけた。
マクゴナガルと名乗った眼鏡をかけた魔女が、そんなセブルスを見て苦笑しながら口を開いた。

「貴方にとっては災難でしたね。まだこんなに小さいのに…不安でしょうがきっと元居た場所に戻れますよ」
「はい、ありがとうございます。マクゴナガル先生。でも大丈夫です」
「まあ。でも…心配では無いのですか?」
「どうしてですか?」
「…私達は貴方の体調の事も承知してますよ」

気遣わしげな表情でポンフリーと名乗った魔女がマクゴナガルに続いた。

「マダム・ポンフリーは長いこと医務室の校医を務めておられる。学生時代の君達を良く知っていなさるんじゃよ」
「僕達を?」
「ええ…二人とも医務室の常連さんでしたからね」
「ほえーなるほど……えっと、僕がお世話になりました」
「気が早いですね。貴方にとってはまだまだ先の事ですよ」
「セネカは律義じゃからのう」
「ふふ、そうでしたね…ほんと懐かしいこと。当時の貴方に付き添うセブルスといったら雛を守る親鳥のようで――」
「あー…マダム・ポンフリー…それ以上はやめて頂きたいのですが」

セブルスが居心地悪そうに口を挟んだ。
途中で遮られたのにもかかわらず、クスクスと楽しげに笑ったマダム・ポンフリーは「あら、ごめんさいね」と肩を竦めた。
…もしや此処に居るマクゴナガル教授も俺達二人の学生時代に教員として務めていたとか。なんて、昔を懐かしむような二対の瞳を見て俺は一人納得する。

「…わしには番犬のように思えたんじゃがのう」
「アルバス、髭にジャムがついてますよ?」

ダンブルドアの小さな呟きは俺にだけ届いていた。

***


「ねえ、セブルス。僕、外に出てみたい」

朝食を腹に詰め込んで席を立った際に主張してみた。
マントの裾をぎゅっと握って。
その場に流れていた空気に耐えきれないといった様子でさっさと立ち去ろうと思っていたらしいセブルスは、顎に手を当て考える素振りを見せる。

「お前は部屋に帰って先ずは薬を飲まねばならんだろう」
「うーん…ちょっとだけでも、駄目?」
「……」
「あー、その…久々に出てみたかっただけなんだけど」

俺が理由を述べるとセブルスは思い当たる節があったようで、ほんの少しだけ顔色を翳らせた。
やだなあセブルス。そんな顔をしないでよ。
ほんの二年ばかり外を出歩けなかった俺のささやかな願いなだけでしょ。

「…薬を飲んで、上着を羽織ってからならちゃんと連れてってやる」
「…! うん! ありがとう!」
「礼などいらん」
「へへへぇ…セブ大好き」

二ヤケた顔を晒す俺にローブをふわりと翻し背を向ける。
おお…なにそれかっこいい。
見事な裾さばきを見せた背に感心してると、少し離れた場所でセブルスは此方を振り返った。

「何をしている。さっさと来い」

慌ててダンブルドア達に暇を告げて傍に走り寄る。
微笑ましげに見るマダム・ポンフリーとマクゴナガル教授は良いとして…ダンブルドアにはもう何も言うまい。
昨日から何なんですか、もう!

俺の愛しい弟は、やっぱり優しいというだけの事。

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