分岐点 extra

デメリットからの派生


最早何も驚くまいと思ってはいたが、セブルスの呟きは全く以って予想外だった。
阿呆のように大口を開けている俺に「間抜け面め」と俺の愛しい弟(大)は辛辣な言葉を投げつけて下さいました。
予想通りの成長っぷりに俺の心は折れ曲がりそうです。

「…『またか』って」

当然の疑問に首を傾げる。
俺にとってこの様な異常事態は初めての事だ。
つまりは何か。
今後この様な事はまた起こりうる、という事なのか?

「お前の想像通りだ。私は以前にもこうして過去のお前と対峙した事がある。…どうやらお前にとってはこれが初めてらしいがな」

成程、以前より一段と幼いな。と、落ち着き払って腕を組んだ。
腕と共に長いローブが風を孕んでふわりと裾を遊ばせる。
ただそこに立っているというだけなのに、年齢を重ねた大人の男の貫禄を感じさせた。

セブルスったら…様になっててカッコイイな!

俺は一人妙な興奮を覚えた。
あの小さなセブルスがこんな立派な大人になって、しかもカッコ良く、オマケに素晴らしく良い声の持ち主に成長しているのだ。
これが興奮せずにいられるか。
あぁ、身内の贔屓目とは突っ込むなかれ。
おっさん・中年という言葉は既に頭の外にボッシュートだ。
全ての答えは今、目の前にある!

…この顔と声で中身が俺という未来も同時に待ってはいるが。
激しく内と外が噛みあっていない事だろうというのは想像に難くない。

互いに観察し合う俺たちにダンブルドアが取りあえず腰を下ろす事を奨める。
慌ててそれに従うと左隣に影が射してセブルスが座った。
柔らかなソファはセブルスの体重に沈み、体重の軽い俺は反動で尻の下が盛り上がって身体が傾いた。
図らずもぴたりと寄り添うよう凭れてしまう。
俺はちらりとセブルスの顔色を窺った。

くっ付くなと怒られるだろうか。
小さなセブルスなら受け入れてくれる事を、大人なセブルスならばどう思うのだろうか?
いや、…別にこの顔で羞恥に頬を染めて嫌がってほしいとかそんな事は思ってない微塵も。

結果、予想に反して此方を一瞥しただけで拒否はされなかった。
寧ろ大人の余裕さえ垣間見えたね。
…別につまらないなんて思ってねえし。
だからダンブルドアはニヤニヤするのをやめて下さい。

調子に乗って俺は更に身を寄せる。が、これもOKらしい。

「ふふっ…」
「…なんだ」
「ううん、なんでもないよ」

怪訝そうな顔を向けたセブルスは口を開きかけたが、結局何も言わずにふいっと前に向き直った。
嬉しさに顔を綻ばせているとダンブルドアが話を戻す。

「先ずは順序を立てて話を進めねばならぬ」
「うん。お願いします」
「先程もセネカが聞いた通り、以前に君自身から『未来に行って来た』と少しだけ報告された事がある」
「う…やっぱり」
「詳しい事は知らぬ。じゃが…それに関してはわしよりもセブルスの方が詳しい」
「え? そうなの?」
「如何にも。今回を入れて二度目になりますな」

なんと、同じような事がもう一回あるのか。
しかもそれは二人にとって初めての邂逅となるのだ。
これは説明が面倒だ。
俺は少しだけ憂鬱な気持ちになった。
次回は杖を向けられる覚悟は必要かなと、トラブルの匂いを嗅ぎ取った俺は溜息を吐く。真面目なセブルスならやりかねん。頭固そうだし。

「そのような事はした事もない」
「…まだ何も言ってないし」

なに馬鹿な事を考えてるんだ、という顔でセブルスは鼻で笑った。
…こういう所は全く変わって無いな。

「色々聞きたい事も多いようだが、詳しい時期はお前本人に口止めされている」
「…じゃあ、ちゃんと帰れるんだね」
「ああ」
「僕、あっちで行方不明とかになって無いの?」
「そのような事件は…私の記憶では……"あの時"だけだ」
「…そっか、それを聞いて安心したよ」
「……」
「セブ?」

「セネカ。右腕を見せろ」

突然振られビクリと肩が跳ねた。
敢えて話題にしなかった事を遠慮なく切り出してきたセブルスに、若干身を引く。
それを許す筈もなく、長い腕が俺の右腕を捕らえ袖を二の腕まで捲った。
ゆったりとしたパジャマの袖に隠されていた白い包帯。
痩せた腕は掴み上げられても何の抵抗もせず、大きな掌に収まった。
顔がしかめっ面になるのが分かって、見られたくなくて俺は顔をふいと逸らす。

「……動かないのか」

確認するように問われ小さく頷く。
そうだ。動かないのだ。
あれ程待望していた自由が、此方に来た途端に奪われた。
悲し過ぎて、申し訳なくて、何も言えない。
完治は望めなくとも、自由の効かない腕に煩わしさと苛立つのはもうたくさんなのに。
あの日の惨めを、胸に誘う。

「馬鹿者。泣くな」

俯いて唇を噛んだ俺の頭に、暖かなものが触れる。
置いただけのそれは直ぐに離れていった。
見上げて目を丸くした俺にセブルスは落ち着いた声で「先走らずに話を聞いてからにしろ」と言った。
ちょ、泣いてないし。落ち込んでただけだし…同じようなもんか。

「ダンブルドア。幸いにして夏季休暇に入ったばかりです。此処にセネカを留まらせて治療をしようと思うのですか如何でしょうか。…他に移すよりは安全です」
「うむ、わしもそう思っていた所じゃ。頼めるかの? セブルス」
「無論」
「そういうことじゃ、セネカ」
「……え?」
「此処ホグワーツは夏季休暇に入ったばかりで生徒もおらん。…安心しなさい。君の治療を受け持つ弟は魔法薬学に長けておる。その才能を活かし此処で生徒に教えてもおるしのう」
「……はい? ちょ、今さらっと重大な事言って…」
「直ぐ奴に薬を届けさせましょう。同じ時間軸に存在している限り会うのは危険過ぎます。接触してくる事は無いでしょうが…薬となれば話は別です」
「おおそうじゃのう。彼の薬は一級品じゃ……勿体無い事とは思わんか? セブルス。やはり――」
「はぁ…ダンブルドア。仰りたい事は重々承知してはおりますが、何分本人にヤル気が無いのが一番の問題です。かわされて終わりでしょうな」
「……」

なんで二人とも俺の事見て溜息ついてんのさ。

口を挟む間もなく決められていくやり取りを呆気に取られて見つめる。
いや確かにダンブルドアには指示に従いますよとは言ったが、質問くらいさせて欲しいと思うのは我がままか?
…つまりはホグワーツでお世話になり、尚且つセブルスと過ごせ…俄かに信じ難いが彼の治療を受ける、という事なのか。

ダンブルドアを見るとキラキラした瞳がウィンクを寄こした。
セブルスを見上げると片眉を少しだけ持ち上げて顎を引いた。
異論は認めない、と目が語っている。
そんな事、言う筈もない。
願っても無い事だ。

「暫く、よろしく…おねがいしまーす」

セブルスが満足気に頷いた後、僅かに微笑まれて嬉しさのあまり飛びつく。
ぐらつく事無く受け止められた事がくやしい。
くっそ…大きくなったなあ。
大きな身体から薬草の匂いがして、思わずそのまま匂いを嗅ぎまくった俺がセブルスに怒鳴られてしまったのは御愛嬌。

ダンブルドアは終始それをニコニコと眺めていた。

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -