分岐点 extra

奇妙な訪問者たち 3


少し意識を飛ばしていたのか目を開けると大きな手が視界を覆っていた。

「アルバス…?」

倦怠感の残る身体と赤黒い視界を不快に感じ身を捩った。
そっと手を引っ込められ、かわりに覗き込むよう顔が近付いた。
銀色の髭がめちゃくちゃふさふさしてて凄く引っ張ってやりたいです。

「気分はどうじゃね?」
「…身体がダルイくらいで、もう痛みはありません」

俺の顔色を窺ってからダンブルドアは小さく頷いた。
彼は目尻を緩やかに垂れさせていたが、その青い瞳には俺に対する厳しさが込められている。
言葉なく咎めているのが分かる。そしてその奥の奥では俺から打ち明けられた情報以上の物を推し量ろうとしていた。
お茶目な好々爺という印象の強い人だが、同時に油断のならない御仁なのだ。

……うん、取りあえず喉が渇いたな。

こうも疲れているのだ。水差しを探して瞳を彷徨わせると、目の前にコップが差し出されたのでありがたく受け取って喉を潤わせた。

「はあ…しんどーい…」
「こうなることは予想をしておった。じゃが、セネカ。わしは君自らここまで無茶をするとは正直思っておらんでのう。…君にかけられた呪いは、」
「今は呪文で縛り、薬で抑えられているだけ、ですね?」
「その通りじゃ…しかし、止める事の出来んかったわし等にも非はある。
のぅ…セネカ、君を心から心配する者が近くにいる事を忘れてはならんよ」
「ごめんなさい…そこを突かれると痛いですね。でも、俺は面倒事を一気に片付けたかっただけで。言っておきますが別に自爆行為をしたつもりもありませんからね。
何よりも保険は貴方でしたよ、アルバス。勝手ながら」

でなきゃここまで頑張りませんでしたし。

何食わぬ顔で答えた俺にダンブルドアは「そういう事を言いたいのではないんじゃがの…」と少し困った様に笑う。
杖を持ち、この呪いに有効な呪文を知り、何より優れた魔法使いであるこの人を勝手にではあるが頼って何が悪いのか。
ダンブルドアの言いたい事も分かる。
もっと自分の身を大事にしろと伝えたいのだろう。
俺だって失敗してセブルスを悲しませる事はナンセンスだと思ってる。
だから、状況と場と人が揃って初めて俺は実行しているんだ。
問題なしなし。…それに、

「立っているものは偉大な魔法使いでも使えと言うじゃないですか」
「聞いた事は無いのう」
「今作りましたんで」

にっこりと笑うとダンブルドアは目をぱちくりさせ、今度こそいつもの様に「ほっほっ」と楽しげに笑い返した。
それに黙って無いのがムーディだ。
カツンと義足を鳴らして自分の存在を思い出させた。

「小癪な事を言う坊主だ」
「でもお陰で貴方がたの知りたい事は聞けたでしょ?」
「ならば、礼の分は話した――そう言う事だな」
「……あの男に関してはアレが全てですよ。あまり痛い思いはしたくないので、同じ内容を何度も、は御免ですが」

これの他に手段は無かったのか? と聞かれたら「ある」と答える。
記憶や心を覗く『開心術』や、取りだした記憶を見せる『ペンシーブ』。
でもそれでは俺が秘めたるものまで全部晒してしまう。…あの男にアバダ・ケダブラっちゃった事を知られちゃマズイしな。
場合によっては生前の記憶まで漏らしてしまう危険性もあるのだ。
是非とも遠慮したい。

…そういえばVeritaserum、真実薬という手もあるな。
文字通り真実を話す云わば『自白剤』だ。
しかしあれは魔法省が使用を制限しているから、ましてや見かけは子供な俺に対し流石に使ってはこないだろう…とは思う。
ムーディなら容赦無く嬉々として提案しそうだが。
ダンブルドアあたりが使うなら「お茶でもいかがかな」とかにっこり笑って差し出してそうだが。
…あれ? 俺、使われても普通に気付かないんじゃね?
何の疑いもなく飲みそうじゃね? うん?


「――さて、」

一呼吸置いて視線を集めるとダンブルドアは瞳をキラリと光らせ、ムーディは疑心を残したままの瞳を怪訝そうに細めた。
急がなければ時間が無い。
セブルスが戻ってくる前に済ませてしまわなければいけない話は、まだある。

す―はーすーはーっと、ちょっと大げさなくらい深呼吸。
肺いっぱいに空気を吸い込むと幾分か早い鼓動は安定し、穏やかな気持ちで二人を見つめ返せた。

「ここで俺から一つ”お願い”があるのですが」

心持眉を垂れさせて話し始めた俺は、二人にある『約束』を取り付けるため口を開いた。

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -