分岐点 extra

奇妙な訪問者たち 2


入って来た時から何となく予想は付いていた。
彼らが見計らっていたタイミングは今日だったのだ。

「ダンブルドア」

男が歪んだ口を動かした。
顔は傷だらけ。左目には義眼。左足には義足。
これぞ歴戦の戦士! という感じでもあるが、悪役と言われた方がまだ頷ける風体だ。
「これから拷問を始める」とでも言いそうな男を見やり、なぜ初体面時にダンブルドアが態々俺の元へ来たのかという謎がここで解けた。
この顔を見れば普通の子供であれば泣きだしかねない。
まず逃げ出すね!

「ダンブルドア。雑談はもうそれ位にしておいて貰おうか。これ以上時間を無駄にしたくない。この坊主に割ける時間が少ないのは分かっているのだろうな」
「アラスター…彼の名はセネカじゃよ」

フンッ、とアラスターと呼ばれた男は鼻を鳴らした。
どうやら見たとおり御機嫌はあまりよろしくない様だ。

「ああ知っているとも。セネカ・スネイプ。『幸運な男の子』だ。忌わしい呪いのオマケ付きだがな。…さて、聞く所によるとお前は随分と利口らしい。我々が何を聞きに此処まで足を運んだのも分かるな?」
「…貴方は?」
「アラスター・ムーディ。闇祓いだ」
「セネカ。彼が以前話したわしの友人じゃよ」
「ああ…」

闇祓い――闇の魔法使いや魔女を逮捕したりするアレか。魔法省の人間だな。
なるほど。ではこの男が俺を見つけてくれたのか?
改めて問うとムーディは質問の答えを得られなかった事に眉を寄せ眼光を鋭くした。しかし直ぐに「然様」と頷く。
義眼がぐりぐり忙しなく動き室内を見渡していた。
入室時から動き回っていた目玉は一向に定まる気配を見せない。
やれやれ、何を探っているのやら…。

「…『ある印』が打ち上げられた場所にお前が倒れていた。聖マンゴへ運んだのはまた別の奴だがな」
「では貴方も僕の恩人という事だ。改めて礼を言わせて下さい…助けてくれてありがとうございました」
「全くの偶然だがな。礼を言われる程の事はしていないつもりだ。だが、その礼の分話してくれるというならばそれで結構。…ん? なんだ? 他に聞きたい事がある、そういう顔だな」

聞きたい事。
そう言われて直ぐに浮かんだのはあの光景と男。
俺は胸につかえていた後味の悪さを思い出していた。
死の呪い。男の死相。暗い空と男の影。

「……近くに男の人が倒れていませんでしたか」
「居た。居たとも。才能のある優秀な闇祓いだった。丁重に埋葬されたと聞いておる。…知っている奴だったのか?」

頭を振った俺に二人分の視線が集まる。
俺が右腕を左手で抑えていたので痛み出したと思ったのかも知れない。

「……その人の最期を見たのが僕でした。――緑色の光が走った所を、ですが」

それがそもそもの始まりだった。
苦虫を噛み潰したように顔を歪めた俺の肩に、暖かなものが触れる。
ダンブルドアの手だ。
皺の刻まれた大きな手を辿ると哀情の滲んだ眼差しと重なった。
別に人の死を目撃してしまったショックを引きずっている訳ではない。
一度や二度の経験では無いし飽くまでその男は他人だったから。
俺はそんな事まで気にするほど優しい奴じゃないのに。

「死の呪いを見てしまったのじゃな」

右腕に注意を向けながら慎重に言葉を選び「ええ、そうですね」と答えるとムーディが唸るような声を出した。

「ほーう、知っておったか」
「……知識だけでなら」

「僕は、確かめるために近くに行きました。息がもう無い事も確かめました。そこで――黒いフードを被った男と会いました」
「何を話した」

俺の指先が震える。何かを探し求めて蠢く素振りを見せた。
ムーディは魔法の目をギョロギョロと動かして右腕と俺の顔を交互に見つめ、ダンブルドアは黙って肩に置く手に力を込めた。
少しでも右腕が暴れだす素振りを見せたら即対処出来るように、反対の手は杖を取って。

「魔法族かと、純血かと、聞かれましたけど」

つまらない事を気にする男だったと、せせら笑った。

話すうちに握り締めていた腕を見ると包帯に赤い染みが浮かび上がり、指先の感覚も麻痺していた。
呼吸は乱れ熱も上がってきている。
頭が割れそうに痛いんですけど…。
身体が熱くて、苦しい。
耳の奥からまたあの蛇の舌舐めずりする声が響いていて、舌打ちでもしたい程に気分は最悪だった。

「此方が抵抗できないのを良いことに突然馬鹿げたことを言いだして隷属する事を求められましたよ。…あの男は仲間を集めている」
「セネカ」
「逆らうなら磔の呪文を遠慮なく掛けると脅され、て…っ…」
「セネカや。もうよい、やめるのじゃ!」

ダンブルドアの強い制止の声に重たい頭をかくんと揺らす。
何を言っている。
まだだ。もうひと押し。
ムーディはしつこそうな男だ。何度も聞かれに来られるのも面倒だし、どうせなら、隠さなければいけない事以外は話し終えてしまわなければ。
多少の無理は承知の上。

擦れた声で絞り出すように「これは『目印』だとあの男は言った」と、最後の言葉を無理やり吐きだした。

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