分岐点 extra

奇妙な訪問者たち 1


アルバス・ダンブルドア。ホグワーツの校長。
そんな人が何度か俺の元へと足を運んでくれている。
滞在時間は短いものだったが多忙な人だと聞いていた為「そんなに忙しいのであれば俺の元へなど来てくれなくともいいのに」と何度か言った。
彼には彼の目的があるのであれ。

初めに聞かれた犯人に関する事はあれから聞かれてはいない。
話すことと言えば体調の事や入院生活の事、弟のセブルスの事や土産に持ってきたお菓子の事が大半だ。

恐らく時期を見計らっている。

初期の段階であれ程の反発を受けたのだから当然の事と思えた。
まあ…あの時、よくよく考えれば俺も警戒していたし、多少なりとも混乱していた事も相まってあっさりと呪いに流されてしまっていたのだが…これは言い訳に過ぎない。
体力さえ持てばこの次は後れを取る事など許さないつもりだ。が、
やはり脆すぎるな子供の身体は。

***


コンコン、と軽いノックの後にドアが音もなく開いた。
ダンブルドアだ。
二週間ぶりに病室へ訪れた彼に見せるよう、肘まで自由になった手をひらひらと振って訪問者を迎えた。

「こんにちはアルバス」
「ごきげんよう、セネカ。具合の程は如何かな?」
「順調ですよ。最近は大人しいものです、コレも」
「そうかそうか、それは何よりじゃのう」
「でも、ずっと寝てばかりだったんでベッドに根が生えちゃいそう」

早く外に出たい、と不満を漏らした俺にダンブルドアは肩を揺らしてベッドサイドまで歩み寄った。
大仰な身振りで長いローブに手を突っ込み、何やらごそごそ漁ったと思ったら袋いっぱいに詰まったキャンディーが出てきた。
差し出されたそれを受け取って礼を言う。
「お奨めはレモンキャンディーじゃ」と言ってウィンクする姿に苦笑で返した。
茶目っ気たっぷりな表情は、彼にとても合っている。

ダンブルドアは子供の様な悪戯心を働かせ、何かと俺を驚かせようとする。
前回は酸っぱいペロペロ酸飴を貰い危うく舌に穴が開く所だった。
その前はカムカムキャンディーで、食べる前に噛みつかれる所であった。
三度目の正直であることを願ってますとも…。

呼び名だってそうだ。

「ダンブルドア校長」と呼んだ俺に「君はまだホグワーツの学生では無いのじゃ。わしの事は気軽にアルバスと呼んでくれると嬉しいのう! おじいちゃんでも可じゃぞ!」と、語尾に星が飛びそうな感じで乞われたので思わず頷いてしまったのが始まりだ。
以来、そのままズルズルと継続している。
本性の欠片を不本意ながら披露してしまった手前、今更拒否するのもめんどくさかったし。
(真面目なセブルスは断固拒否の姿勢を貫いた)

――彼は以前に俺を「大人」と称した。

そして。何度か言葉を交わすうちに彼は確信したのだろう。
だから名を呼び合う事はお互いに対等である事を匂わしている。
自然と此方の話し方も素に近くなっていた。
あの日、たった一度の拒絶でダンブルドアは俺の事を驚くほど理解し、敬意を払って接してくれていた。
彼は、信用に足る人物なのかも知れない。

(いや、…俺自身がそうであれと思っているからか。きっと彼は、未だに一度も顔を出さない父親や滅多に訪れない母親の事だって、全て承知だろう。何も言わないのは俺が嫌がるからと分かっているから)


「セブルスは席を外しているようじゃのう」

椅子を引いて腰を落ち着けたダンブルドアがにこにこと言った。
硬そうな座り心地のそこはいつもセブルスが居る場所だ。
普段通りの砕けた雰囲気に、俺も笑顔になる。

「本を取りに帰ってるだけですよ」
「ほっほっ、セブルスは勉強熱心じゃのう。いや感心、感心」
「僕と違って真面目な自慢の弟ですんで」

ただ興味の対象が闇の魔術とか呪い関係に偏ったけどな!

足繁く通う内に自然と顔見知りとなったダンブルドアを、セブルスがどうも苦手としているようだとは言わないでおく。
(セブルスにとって、ダンブルドアが来るという日は自分にとって「からかわれる日」なのだ。反応が楽しいからと弄る彼も彼だが)
ホグワーツ入学に内申点が必要であればもっと褒めちぎるのだが、それは必要無いと思うので自慢に留めておく。
(その機会が訪れれば、俺は思いつくす限りのセブルスの魅力を熱く語るであろう)

「――ところで」
「ん? なんじゃね?」

ダンブルドアがキラキラと輝く瞳を細めて穏やかに聞き返した。
ちらりと自分の後方へ流された視線に意図を読み取っている癖に、あえて自分から切り出さず、俺の方が痺れを切らすのを待っている。
しれっとした顔でレモンキャンディーを頬張ったダンブルドアに溜息を吐きだして、

「後ろに居るお連れさんの紹介は、まだですかな?」

と、呆れたように言った。
自分で連れて来ておいて空気のような扱いは流石に可哀想だと俺でさえ思う。

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