分岐点 extra

成長と変化


早いもので入院してから一年が経った。

呪いは進行の兆しを見せず、少しずつだが右手の感覚は自分に戻り手首まで自由に動かせるまでにはなった。
体質までも変えてしまう強力な薬は変わらず飲んでいたけど。
まあ、これは身体の成長に合わせて改良されていくだろうから、後々改善されれば概ね問題無いだろう。

晴れて退院した暁にはセブルスと共に「目指せ健康優良児」とスローガンでも掲げようかな。
セブルスは規則正しい生活と食事と適切な運動指導によっていずれはムキムキになればいいと思うよ。うん。

「セネカ、これからお風呂だろ?」
「うん」
「僕も今日からは一緒に手伝っても良いって、やっと許可をもらえた」
「そうなんだ……て、えぇ?!」
「僕が髪を洗ってあげるんだ。ほら、早く行こう」

ビックリした俺の顔を確認して、フンッと鼻を鳴らしたセブルスはいたくご満悦の様だった。
いそいそと手を取って出て行こうとした所を踏み止まって、悪い笑みを浮かべる弟の顔を凝視する。
効果音を付けるならばニヤリが当てはまるような感じで、とても楽しそうだ。
待てセブルス。どこでそんな笑い方を覚えてきた。

「い、いいよっ!」
「なぜだ? セネカだって前は僕の髪を洗っていたじゃないか」
「だってそれは、僕はセブのお兄ちゃんだし…」
「なら僕はセネカの弟だ。何も問題ない。……いやなのか?」
「(うっ…そんな不安そうな捨てられた子犬の様な瞳で見ないでくれ…!)」

嫌っていうか、なんていうか、非常に複雑ですけど?

嬉しいんだけど兄ぶっていた手前なんか切なくなる。
多分、寂しいんだと思う。
この微妙な心の内を読み取って欲しい…。
しかし。セブルスはまだ六歳だ。
察する事は出来ても完全に理解する事は叶わないらしく「何で恥ずかしがるのか…セネカはおかしい」と、まで言われた。

俺はそのまま引きずられる形で風呂へ連行されてしまったのだった。

***


セブルスにはとてもとても助けられている。

いつも二人で行動していた以前よりも単独で行動する事が増えた。
心配する俺を余所に、一人でなんでもこなそうと努力しているみたいだ。
(若干一人で突っ走り過ぎる面もあるが)

「男子三日会わざれば刮目して見よ」という所か。
ちょっとずつではあるが、手を引かれる側から手を引く側へと自分から変わりつつあるようだ。
俺の事を気遣っているというのもある。
これでは立場が逆になるのは遠い未来の事では無いな。

…この成長は微笑ましいものだ。
しかし俺としてはもっともっと甘やかして「兄さん! 大好き!」と言ってもらえる様な未来をだな……夢は見るだけタダだよ。うん。

変わったと言えばセブルスの読む本の傾向も大分変った。

家では絵本からスタートした本に対する興味は、此処でも如何無く発揮されている。
毎回、病院内にある蔵書コーナーから興味をそそられたタイトルを引っ張り出してくるみたいだが、一年も通い詰めれば粗方読める書物は読破してしまったそうだ。
流石俺の弟、本の虫。

しかし…この前は『介護〜始まりから終わり、その先まで〜』なんてタイトルを抱えてやって来て真剣な顔で読み始めた時はビビった。
セブ、お前が真面目なのは俺も分かっているから。でもそれはちょっと違うと思うんだ。流石に。誰を介護するつもりだ誰を。
微妙な表情でツッコミを入れた俺に、不思議そうな顔で見返したセブルスの顔が忘れられないモノとなった。

――そして、今日に限ってはこのタイトルである。

『闇の魔術〜呪い・初心者からのステップアップ〜』
『解呪、君に決めた!』

……。
なんでこっちの方向へと興味が進んでしまったのか…。
確実に俺が関係している事は明らかだろうが。
彼は、時折ぶつぶつと呟いては真剣な表情で何かを書き留めている。

アレ絶対何か計画してるよ…。

俺に似ず慎重な性格をしているから直ぐさま実行に移す、みたいな事はしないって分かるけれど。
俺に呪いをかけた犯人でも捜して、自分で敵討ちでもするつもりなのだろうか?
(目には目を、呪いには呪いを。とか言いはりそうだな) 

…セブルスには詳しい事は話してはいない筈なのに。
無愛想だが大人しい半面、カッとなりやすい子供らしい部分もある子だから…失敗に終わりそうなんだがなあ。
危ない事なんてさせたくないし。

それでセブに怪我でもされたら今度こそ間違いなく相手をアバダ・ケダブラっちゃう自信があるんですけどー。

ぼんやりとそんな事を考えていたら、泡が目に入ってひどく滲みた。

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -