求婚編



「 ばかやろう 」

ビクッと大きな肩がゆれる。聞いた事も無い低い声が喉から絞り出されるのを、触れた肌が振動として伝えた。

「…ごめんなさい」
「あやまんな、ばかやろう」
「ぅ…怒ってますよ…ね?」
「当たり前だ馬鹿、勝手に飛び出して勝手に庇いやがって、それでお前が怪我してどうすんだ」
「だって…」
「だってじゃねえよ!」
「ッ! はい! ごめんなさ「あやまんな」…はい」

項垂れた肩に頭を寄せられる。僅かに震えてる気がして、ごめんなさいと声なく労わる様に背を撫でた。

包帯でぐるぐるにされて動き難く、じくじくと痛みが断続的に続いてるしで正直辛いのだけれども、もう少しだけ…と柔らかな温もりを撫で続けた。今の自分よりも数段小さな体。この人を守る事が出来て、本当に良かった…。

「傷…痕が残るだろうな…」
「そうですね、まあ、私は“男”なんで大丈夫「怒るぞ」…もう怒ってるじゃないですか」
「――怒ってない、」


ただ、自分が情けないだけだ


「俺だって“男”だ。“女”に守られてあまつさえ怪我まで負われてりゃ、情けない以外の何ものでもねえだろ…?」

本来ならば自分が守ってやりたかったんだ、それが悔しくてたまらない――そう言って俯いた。

…どうしよう、掛ける言葉が見つからない。

重い沈黙が場を支配する…かと思われたが、直ぐに椿は顔を上げ口を開いた。


「よし、決めた」
「はい? 何を「嫁に来い」……へ?」
「いっ――いきなり何を言い出すんですか?!」
「あ?何言ってんだよ、傷モノにしたら責任をとる、俺も幸せお前も幸せ、はい納得」
「なるほど…ってあ、あれ? だって私は“男”で椿さんは“女”ですよ?!「なら問題ないだろ」え? あれほんとって、いやいやいや」

突然の事で頭が回らない。ちょっと待って下さいどうしてそういう話になるんですか?! と首を振るが襟を掴まれていて身を引けなくされる。あの、私怪我人ですけどっ!

「俺が良いって言ってるんだ。ぐだぐだ言ってねえで、さっさと俺の所に嫁に来い」
「え? えええー「よよよよ嫁など、破廉恥なぁああああ!!「馬鹿真田! 待て…ッ!」

「……」
「……」

バッ! と二人で振り向いたその先に…ほんの少し開いた隙間から覗く目、目、目。
すうっと椿の瞳が細くなり、目が…据わった。

―――スパーンッ!

「むがぶっ!」
「――Ouch!」
「あ、ちょ、引っ張らな…わっ!」

ゴロゴロと雪崩の様に室内に転がり込んで来たのは、上から猿飛佐助・伊達政宗・真田幸村の三人。(ちなみに、声は倒れた順である)

「…何をなさっているの? あ に う え さ ま ?」
「そ、某はただ! だ、だだだ男女二人きりになど心配で、ござ…」
「へえ…」
「お嬢、お嬢…言葉、素が出「お前も同罪じゃないのか?」は、はい! その通りで!」

「…吃驚し過ぎて何て言ったらいいか、…景臣が嫁ェ…Oh−…」
「政宗様…覗き見とは頂けませんね…」
「ハッ! …ナニモミテナンテイネエゼ? ユーシー?(ガタガタガタ)」


…はあ。

一体いつから居たのか…、でも助かった。ひっそりと胸を撫で下ろす。いっその事このまま有耶無耶にしちゃえばいいよね?と、一人溜息を吐いた。

ら、

「 逃げるなよ 」

…どうやら彼女(彼)は私の考えなんてお見通しのようでした。


―――*

幸村妹の名は固定です。

目次

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -