知らせぬが右目


太い首、ガッシリとした逞しい上背。どちらも共に筋肉隆々。身の丈に至っては大人も見上げる程の大男。

遠目から見ても際立って目立つその姿を見つけた小十郎は名を口にしかけ直ぐに噤んだ。男の前に豊かなリーゼントの頭が二つ揺れていて…どうやら話し中のよう。男より頭一つ分低い彼らが直立不動な様を見て、小十郎は片眉だけを器用に持ち上げた。


「景綱」


こちらに気がついたらしい男に名を呼ばれ。それと同時に振り返った二人が引き攣った顔をほっと緩ませる。

「では、俺らはこれで…」

ギクシャクと出来損ないのからくりみたいに頭を下げて行く二人。去りゆく後姿は一本芯が通った案山子のように真っ直ぐで、実に面白い。

「これから畑ですか?」
「ああ、お前も庭か?」
「ええ、」

実は、今朝方から気になってる枝振りが…と、愛用の庭鋏をカチカチと鳴らしながら頬を緩ませる。付け加えるならば、ほんのりと誇らしげでもあった。

小十郎が知る限り、彼が丹精込めた庭は何処で手に入れてくるのか…奥州では見ることの無い珍しい花々が多い。大きな体で小さな花を愛でる姿は、ハッキリ言って花泥棒にしか見えないのだが…言うと本人が傷付く。故に小十郎は沈黙を貫いた。貫いて、あえて別の話題を振る事を選択した。

「珍しく話し込んでたみてえだな、何か困り事か?」
「…ああ、先程の二人ですか。別に大した事は話して無いんですよ。何やら沈んでいたみたいなんで声を掛けただけで」
「…そうか」
「でも、声を掛けたら掛けたで"大丈夫です"としか言わないし、オマケに二人とも顔色がどんどん悪くなっていくしで…」
「……そうか」
「そこに景綱が通りかかって、二人とも行ってしまった…という次第なんですよ」

ホントに如何したんでしょうかね、と眉を情けなく顰めて困り顔な男―――片倉景臣は兄の小十郎を見下ろし首を傾げた。


景臣は厳つい印象を与える体格に似合わず、仕草には大変愛嬌があった。口調は丁寧で性格も温厚。趣味は庭いじりの花をこよなく愛する優しい弟だ。

―――だがしかし、

彼の顔は如何せん、怖過ぎた。


庭鋏を持ち微笑む表情はまるで悪事を企んでいる様に口元が歪み、通りかかった女中が涙目に。というか、そんな顔で鋏なんて鳴らされたら普通に恐怖。
眉を寄せた困り顔は怒りを抑えた般若の如くつり上がり、覗く犬歯は牙のよう。瞳は獲物を見据えた鷹の輝きを宿し鋭く射抜く。

恐らく先程の二人も鬼の形相の大男が浮かべた引き攣り顔(本人はあれでも笑っている)に顔を青ざめさせたのだろう。彼に声をかけられた者は大抵そうなる。

主君伊達政宗でさえ苦手とする景臣。の顔。

景臣の表情の読み取りに長けた小十郎でさえ…正直言うと少しだけ恐かったりする。でもそこは言わない。そこは兄としての意地でもあり、兄の優しさでもあった。熊のような大男に泣かれても鬱陶しいし。故に、片倉小十郎景綱はいつもと変わらぬ笑顔で返した。


「景臣」
「何でしょう、景綱」
「気にしたら負けだ」


本人だけが知らない話


「…負け」
「ああ、負けだ」
「はあ」
「早く納得しろ、テメエ」
「あ、はい」


――――*

小十郎よりひどいヤクザ顔。秀吉並の体格。でも中身は優しい。周りに怯えられながら、奥州で花を愛でる夢主希望。

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