真田妹くんの事情 1


※)精神的BLに見える、かも


別段夢も無く、希望も無く、…と言っても絶望するような悲惨な人生だった訳でもなかった一つ前の“俺”という個体。

気が付けば赤ん坊で、ふくふくと柔らかそうでした。玉のようなお子様でした。……どう見ても女の子でした、はい、ちーん。この時ばかりは信じていなかった神様とやらに「俺の事が嫌いだろ…」なんて嘆いていた。まあ、それも直ぐに引っ込めたけど。ぐちぐち言うの嫌いだしよ。

屈辱のオムツプレイも早々に卒業し、こうなりゃ自棄だ! と思って始めた猫被りが板に付く頃。自分の父親とやらが“真田昌幸”という人と知る。
なんと、異母兄までいるらしい。…やるな。

十になる前だったか、顔を合わせた兄上とやらは見事なまでに生意気そうなガキだった。まあそういう年頃だもんな。ん? …いや、あれは態度云々より言葉使いが生意気だったんだっけ? ま、いいか。そこまで詳しく覚えてねえし。
それよりも隣にいた佐助のがムカついたから「へラっとしてんじゃねえよ」って言ってやったぜ。いや〜あれは傑作だったな。可憐な美少女(自分で言うとキモいな…)が突然吐いた暴言に二人で目を白黒させてやんの。心のシャッターは連写だった。


それからまた年月を重ね、俺は“同じ”と出会う。

見た目はどう見てもゴツイ男。毛むくじゃらじゃねえのが幸いした男。でも熊。どうにもこうにも男。
でも、そんな形をしてるくせに口を開くと丁寧な口調は好印象で仕草はどこか愛嬌がある。可愛いと言っても良い。表情を作るのが下手な癖によく笑う。直ぐに謝る。ヘタレ。お人好し。馬鹿。大の付く方の馬鹿。…ああもうばかやろう!


「……よく考えると良い所って、どこだ?」
「如何したのだ? 椿?」
「お嬢? どうしたの…まさか、やっぱり明日の式を取り消すなんて言うんじゃ」
「佐助、ちょっとツラ貸せ「すんませんでしたー!」」

くだらない事を言う忍を黙らせ、明日袖を通す予定の白い打掛を見上げた。俺的には俺が袴であっちが打掛でも良かったんだが、生憎俺には相手に女装をさせる趣味は無い。…いっその事、両者袴でもいいんじゃ「駄目だよ」…チッ。

「やー…明日でいよいよお嬢も嫁さん「婿だ」…うん、譲らないんだね」
「あたり前だろ? 嫁に貰うって、先方にも言ってあるんだからな」
「はいはい。んでもまあ、寂しくなっちゃう…かな。ねえ、旦那?」
「あ、う、うむ……」

妙な含みを混ぜた佐助の声に、見上げていた視線を落とし幸村に向ける。膝に置いた掌を閉じたり、開いたり、いやに落ち着かない様子だな。緊張してるみたいだが、本人よりもお前が緊張してどうするんだ。それともアレか?お前まで寂しいなんて言うのか?住む予定の屋敷はこの上田のすぐ近くだろうが。

――まあ積もる話もあるでしょ、今夜は兄妹水入らずで…なんていらぬ気を使いここで佐助が姿を消した。

途端に満ちる沈黙。
いつもならガンガン喋り始める幸村がどういう訳か口を閉ざした。…なんだこれ、何がしたいんだお前ら。


「――…椿、」

妙に温い空気に締め切った部屋が満たされた頃。幸村が思い詰めた顔をして、漸く口を開いた。
…ああいやだね、こういう雰囲気の時の幸村は苦手だ。何を言い出すか分からないから。

俺達は別に仲が悪いわけじゃねえ。どちらかと言うと良い方だろう。異母兄妹だから普通に嫌がられると思ってた初対面時も、敵意や嫌悪なんかとは無縁の真っ新な子供だったから。(そこは現代との常識の違いかも知れないがな)

「一つだけ、聞いても良いだろうか…」

この一言を絞りだすのに、また時間をくった。喘ぐように呼吸をして盛んに動かしていた掌をぎゅっと握りこむ。昔と変わらない真っ直ぐな瞳は俺から逸れない侭、幸村の目尻が赤みを帯びた。
…何かヤバい、何を言うつもりだコイツは。


「…兄上?」
「―――そ、そそそ、」
「そそそそ?」

「そ、添い遂げるのは、景臣殿でなければならぬのか!!!」

…今更何を言い出すんだこの兄は。

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