婚礼編


「――と言う訳で、弟さんを嫁に下さい」
「持って行け」
「……は? ………え? 即答ですか景綱!?」

未だ戸惑う私を余所に、いよいよ引けない所まで来てしまったようです。


大安吉日、天気は快晴

兄景綱と政宗様に付き添われ大量の野菜と共に進む、嫌に静かな道中。純白の衣装に身を包んだ私は、騎乗し上田へと嫁入りを果たす事になった。なってしまいました…。

「…はあ、」

澄み渡った青空とは裏腹に、悶々とする私の頭。…本当にこれでいいのだろうか。

確かに私は椿さんの事は好きです。傷痕の残ってしまった私の顔を見て「もう痛くはないのか?」と心配するあの人の声を、顔を見る度に、言い知れぬ喜びを感じてしまうのも事実…です。恐らく、ある種の独占欲というものを感じているのです。…感じてしまったのです。

「(多分、私は、ずるい事をした…)」

咄嗟の事ではあったけど、傷ついた私をあの人が放っておく筈などないんです。
けれど…、

「(まさかこんな事になるなんて)」

“男”になってしまった私は勿論女性との婚姻なんて考えてもいなかったし、するつもりもありませんでした。体がそうでも相手の方に申し訳ないと思うし、いざ(ごにょごにょ…の)相手をして、駄目でしたなんてのはちょっと…ね。(まさか試しに結婚してみよう等とも思いませんし、遊郭なんてもっと無理…)

椿さんだって、聞いたことないけど絶対申し出とか多いんだろうなあ。怒られるから聞かないんですけど。

「(責任を取る…という言葉通り、本当に嫁入りさせちゃうし。なんでこういう強引な所は男の人なんですか…)」

見た目は可憐な美少女
蓋を開ければ、見事なまでの男らしさ

二人で居る時が楽し過ぎて。ずっとこの状態が続けばいいな〜、なんて思っていたからこんな事になってしまったのでしょうか。


自分の中の答えも見つからない侭、とうとう上田に到着。城の最も奥、庭に面した部屋へ案内され上座に座るよう促されて席に着く。(その間、何故かいる武田(真田)・伊達(片倉)両家の皆さんの視線をたっぷりと受けながら)
椿は…花婿殿は、直ぐに姿を現した。

「おまたせいたしました」

一瞬、室内がどよめく。
けれど、私は顔を伏せ…隣へ視線をやる事も出来ないまま祝儀の言葉を受け、盃が満たされるのを眺めていた。

先ずは花嫁…この場合は、恐らく私から。

「(ええいっ! こうなったら女は度胸! いえ、男も度胸! 細かい事は後で聞けばいい事!)」

勢いに任せ、作法も忘れてグイッと盃を干す。続けて、さあどうだ! と言わんばかりの顔で盃を椿に差し出す。と、

…椿さんが凄く嫌そうな顔で睨んでいます。
何か拙い事をしてしまったんでしょうか…!

「(…おい)」
「(は、…はい)」
「(お前、もしかして何か勘違いしてねえか?)
「(……え、えええ! やっぱり…)」
「(あ゙?)」
「(無理して責任なんて取らなくていいです。私こんな図体だし。…た、確かに私お嫁にいけないなんて言ってましたけど、でもそれで椿さ「(馬鹿か? お前)」……う、ごめんなさい)」

「(この俺が、好きでも無い奴に“嫁に来い”なんて言うとでも思ってんのか…?)」

手のひらから滑り落ちそうになった杯を、素早く奪われる。形の良い唇が口を付けるのを、茫然と見送って…紅がうっすら残る盃が再び手のひらに収まった。


「 幸せにしてやるよ 」


囁かれた言葉の意味を、熱を、咀嚼した瞬間。首筋から上昇し耳を色付け…頭の天辺へと熱いものが抜けていくのを感じてしまいました。

苦手なお酒の味もこの時ばかりは感じなかったのです。

目次

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -