01


戦国生活三年目。




現代みたいに便利な道具は無いけれど、一般庶民の水準よりは良い暮らしをさせて貰ってるとは思うんだ。だって上田城。だって真田家。でもやっぱり身体で温度を直測りだから冬はめちゃくちゃ寒いし、夏は熱い。だからその間にある春と秋は好き。目にも楽しいしさー。


そんなある日。


暇そうにぼやーっと縁側に座っていると…葉緑体は無いけど光合成してるに近い気がする。――…ごめん、背後に佐助がいるからやっぱり緑的なもの持ってたかも。…なんかこれ、老後みたいじゃね?



「暖かくなってきたね」
「うん」
「天気も良いし、」
「うん」
「もう大分風も気持ちいいねえ」
「うん」
「…眠いの?」
「ううん」


そっか、と言って頭の上に重みがかかった。どうやら頭に顎を乗せられたらしい。うんしょっと俺を抱え直した佐助の胡坐の上で、さっきから俺はうんうんうんううん。別に眠い訳じゃないんすよ。



「もうすぐ八つ時だから騒がしくなるねー」

「…うん」


もうどれ位このやり取りしてるのか全然分かんない。え? 時間? 流れていくのが余りにもゆっくり過ぎて、腹の減り具合でしか分かんないぜ! これぞまさに腹時計ってやつか。





「あー…俺様このまま居たい…仕事戻りたくなーい…」




何言ってんだ佐助、仕事しろ仕事。
サボり、いくない。






こっそり旦那の仕事増やしてこようかな…、なんて主であり、俺の兄である真田幸村の仕事増加を企んでる佐助。

ぽろり所か本音駄々漏れですけど良いのかお前。もしかしてお前そんなに兄上とおやつ食べたくないの? まあ、あの高速食いは胃が悪くなりそうだよな。気を付けないと自分の分まで食われちゃうしね! 真田家のおやつ事情はサバイバル! …って、笑えねえよ! ガチで俺被食者だもん! あっはっはー……。





「さすけは、しごとたいへんなの?」

「んー…そういう訳じゃないんだけど、さ。しいて言えば―――…」






「三郎様連れて、お休みしたいなー」



―――真田忍隊、猿飛佐助。ただいま休憩中につき、仕事放棄中。って看板立ててやろう。…俺と居たって仕事増えるだけだよ?





でも直ぐに「なんてね」と言った佐助は息を俺の髪に吹きかけた。前髪がふわふわ揺れとる。多分、またへにゃーって笑ってるんだろうなー。…さっきのは本気が八割でしょ佐助。


まっ、こんな事冗談みたいに言う佐助だけど、絶対俺の見てない所で仕事してんだろうなー。いつ寝てんだろう。朝も夜も起きたら佐助が居て、寝る時も寝かしつけられて(つっても、子供の起きてれる体力なんてタカが知れてるしね!)


疑問に思うには思う。
けど、労いの言葉なんて掛けたら子供として超不自然じゃなくね?

「やあさすけ! いつもごくろうさま!」

とか。…うん、普通に変だ。俺もそんな子供やだよ。



こうなりゃやっぱ肩でも揉むべきかな…
(忍とオカンを兼ねるって、大変だ…)





でもさ、




ほーらあの雲、団子みたいだねーと空に向って指差す姿は、幼い俺に合わせてるのか分かんないけど、

―――なんか…、




ゆるい。



てかどれだよ団子雲! そんな面白雲なんて見えないんだけど!



「どれ?」
「ほら、あれだよ」
「うー?」
「いや、だから。あそこ」
「んー? わかんない」


きょろきょろと忙しく目を動かすけど見えない。…てか首が固定されてて顔上げれないんですけど! え、え、え? 態と? 態とですか佐助さーん。お前の頭が乗っかってて動けないんですよ! ねえ!



退かそうと思って下から手を伸ばす。両手で挟んだ佐助の頬は意外にもゴツゴツしてて冷たいなー、って…あれか!? あの額当てみたいなのしたままかお前。通りで何か痛いと思ってたよ! 刺さってる刺さってる!


下からぺちぺちと顔を叩く俺にあははと笑う佐助。何がしたいの? と俺の必死の抗議が分からないのかくすぐったいのか、全然痛くなさそうな声で痛いってーと仰ってるぜコンチクショー。

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