01


少し昔の話をしよう。


あれはまだ俺が歩き始めて間もない頃だったかな…?
初めて歩けた日の保護者ズの大興奮も記憶に新しくて。ぶっ通し三時間の歩行練習(としか思えない…辛かった…!)のお陰か、危なっかしいけど一人歩きも出来るようになった、俺。

なんと、庭デビューする事になりました。もうね。アレだよ。公園デビューのノリだよね…!



よっちよっち よっちよち


「あ、ほら、そこ段差があるから気をつけてね」
「う?…うい!」


よっちよっち よちよち


小さく柔らかな手を包みこむ大きな手。
頑張れ、と励ますように時折引かれると、何だか本当にお母さんみたいだなーと思っちゃった。どうなの、この保護者っぷり。…間違えて「お母さん」と言っちゃわないよう気をつけよっと。


「せーの、よい、しょっ!」
「よいしょーっ」


佐助の声に合わせて俺も声を出し、段差を越え。またよちよち歩きを再開した。
右、左、右、左。焦らずゆっくり、ペースを合わせてくれる佐助に連れられて上田城内で一番広い庭までやっとこ到着。お、おおお?


「…ひろい!しゃ…、さしけ、ここれあそんでいーの?」


くりっとした大きな瞳が佐助を見上げ、首をこてりと傾げる。まあるい頬は興奮の為かほんのり紅潮している。
瞬間、佐助の顔がデレっと緩んだ。


「(うわ、かんわいー…)いいも何も、ここは三郎様のお屋敷でもあるんだよ?…まあ、走ったりしないでくれたら俺様は安心なんですけど」
「…うい、がんばる」
「うん、頑張ってー」


はい、じゃあ足出してね。とまだ柔い足裏を保護するためか足袋装着。続いて草履を履かしてもらって、地面に足をそろりと下ろし首を傾げた。慣れないと転びそうだな。てか、絶対俺転ぶ。

まだまだ手足は短いし頭は気を抜くとぐらつくし、走ったりすれば転ぶんですよ。ころころって。ここに来る途中、すれ違う女中さんや武士って感じの厳ついおじさん達に生暖かい視線を頂いてしまったしね。はっはっはっ。…ずぇったい今日は転ばない……!


「はたしてみせまし!」
「え?なんでそこで旦那の真似!?」
「…?なんとなく?」


佐助が不安げに眉をへの字にする。
大丈夫、安心してくれ。俺には熱血とか無理だから。幸村みたいにはならないと思うんでそんな顔しないでよお母さんっ!…じゃなかった、オカン!(あれ?言い直す意味、あった?)その複雑な気持ち、分かった!伝わったから!ねっ!(にこっ)

複雑な心境の佐助に見守られるなか、取りあえず真ん中まで歩いてみる。一人歩きの出来なかった時は抱えられてばかりだったので、この低い視点はとても新鮮なのです。地面が近いしね。

振り返って、改めて仰ぎ見る城の大きさに最早おのぼりさん気分だよ。上見ると口開くし。…ついつい、きょろきょろしちゃうよねー。


「おっと、そうだ。三郎様ほらほら、あそこ見てごらんよ?」
「?……あ、あにうえ!」

近づき目線を合わせるようしゃがんだ佐助。示された方向へ首を向けると、なんと、兄幸村が。どうやらこの庭は幸村の部屋(?)にも面しているみたいで、文机へ向かっている横顔が見えた。何やら書きものの真っ最中みたいだ。え、てか顔が 超 真 剣 ですね!どしたの?……ん、もしかして。


「あにうえ、しごと…?」
「そ、お仕事中ー。偶には旦那の真面目な姿を見せてあげようかと思ってさ、」
「おー…」
「どう?今、お館様…偉い人への文を書いてる筈だから…いつもより」
「…いつもより?」
「熱い?」

手紙で熱くなれるって凄いな。
流石、武田の熱き師弟。手紙の内容も熱そうです。…勢い余って破かなきゃいいけ「うおぉおおおおおおお破いてしまったぁああ!申し訳ありませぬおやかたさばあああああ!!」……。やっぱり。


「あ〜あ、折角俺様がいいとこ見せてあげようとしてんのに。なーにやってんだか、旦那ってば」

しょうがねえな〜って感じで溜息を吐いた佐助の肩をポンと叩いた。佐助…今日はなんて主思いなんだ。大丈夫!一瞬だけど真剣な表情見れたし!ちゃんと伝わったよ!(二回目)

まえもくじつぎ
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