01


―――かさっと音を立てて揺れた木の葉を瞳に映し、美しい人は背を向けたまま形の良い唇をゆるく持ち上げる。


ほう、とほころんだその横顔を恍惚の表情で見つめる忍が如何されましたか?とキラキラ輝く瞳のまま問うのに振り返った。

その瞳に愛らしい色と好意を映す彼女に触れる距離まで近づくと艶やかに頬が色づく。


「あいらしい…こねこをみつけたのですよ」


おそらくとらねこでしょう、と楽しげに口にする己の唯一の人…上杉謙信の言葉にその猫になりたいっと一瞬考えた忍…かすがは頬を滑る感覚に気を遣り、全てを集中させ最早何も考えられなくなってしまう。


「さあ、まいりますよ…わたくしのうつくしきつるぎ」

「ぁあっ、謙信さまぁ…」

へなへなとその場に崩れたかすがに手を差し伸べながらも謙信は今一度、とうに姿の見えなくなってしまった小さな姿を探して庭へと眼を向けてから待ち人の元へと足を向けた…、



「…あれ?」

兄、幸村が佐助と一緒にお館様のお使いで留守の中…何時もの様に散歩も兼ねて探検をしていると、奥の間がいつもより騒がしい事に気づいて立ち止った。

またお客さんかな?

ま、俺にはあんまし関係ないんだけどね!と思って後ろにぐらつく位勢い良く空を見上げました。

空は青いし、庭は迷路だし、俺一人だし…、


うん、平和…、
(べ、別に寂しくないよ!後でお館様とおやつ食べる約束だってあるんだから!)


朝方出かけて行った二人と交わした大人しく待ってるよ!という男同士の熱い約束の元、ちゃーんと大人しく暇こいてます。
あ、もちろんお土産を買ってきてくれるよう要求済みだぜ?


ゆ〜びき〜りげんまん、嘘ついたら針千本の〜ますっ!てやったもんね!!


そして現在、暇なお子様である俺はというと…――何故か池の鯉と格闘中、デス…。


――バッシュッ!


「う、わっ!つ、つめたい!!」


く、口から水吐いたよこの鯉!?

ちょっ、何こいつ!そいつは卑怯ってもんじゃないのか!?飛び道具とか、ナシにしようってさっき決めたじゃないかよ!(俺が!)
おかげで髪がびしょびしょだよ…も〜、


「ふっ、おまえ…なかなかやるじゃないか」

格好つけて髪を払いながら今回は引き分けにしといてやるぜ!と、ビシッと指さして(行儀悪いって怒られないもんね!今なら!)奴の池に背を向けて茂みに飛び込んだ。
(に、逃げたわけじゃないからね!ちょっと休戦するだけだし!)

ってか、今の誰にも見られてないよな…じゃないと俺、悲しい奴じゃん?と思いながらガサガサいう茂みをかき分けて一生懸命もと来た道を探し始めた。
…そろそろお館様もお仕事終わったと思うから帰んないと。

だがしかし、おやつおやつ!と心を逸らせて歩いてるとガクッと、急に前に進めなくなってしまい腰が引ける。

「え、ええ?なんで?どして!?」

若干パニックになってもっさりとした茂みの中で身動き出来なくなってしまった…。

焦りながらも何で!?と、よく見ようと目を凝らすと…アレですアレ、猫の鈴的な六文銭が枝に引っかかってるんですけどっ!

ちょ、お前ぇえ!!タイミング良すぎるよ!そんなに俺におやつ食わしたくないの!?
今ここでアンパンの英雄呼んだって来てくんないんだからな!!(あの人さ…よく考えると怖いよね、頭くれるんだよ?)


俺、飢え死にの危機!
と、ますます焦って取れるもんも取れなくなってくる。

あれ?このままもっさりした茂みの中でお腹空いて発見されちゃうの?…もしかしたら、誰にも発見されないうちに夜になっちゃうかも…なんて考えで段々頭がいっぱいになってしまった。


なんて恐ろしい!!

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