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「さ、さすけええ!!!」


「ああ、さぶろうさ、ま…?」

「つ、つち、めりこん…これどうなっ?!」
「やだなあ、そんなに慌てちゃダメだっていつも言ってるでしょ…?」
「ぎゃ、ぴくぴくうごいっ、だだいじょうぶなのこれえっ?!」
「うんうん、俺様平気へい…き、」
「さ、さすけ? あれ? …――う、うごかなくなちゃった…!」


佐助佐助と俺の名を三郎様が叫ぶ声が段々と遠くなっていく…。変だな、いつでも飛んで行けるよう準備だけは万端なんだけど、な…。俺の声、あの子に届いてるのかな?

薄れゆく意識の中、佐助の脳裏には飛んでくる前に交わした幸村とのやり取りが走馬灯の様に駆け巡っていた。


――時は少し前に遡る、



分身と本体をコッソリ入れ替えていた事実が幸村にバレ、無理矢理分身を破るという強烈な呼び出しをされた佐助は今、…どんな厳しい任務よりも恐ろしい局面に立たされていた。


「 佐 助 」


まるで菩薩の様に慈悲深い表情を顔に貼りつけた幸村。声も表情も穏やかなのに、戦場宛らの威圧感が漂う…実は佐助の額当てで隠れている部分は汗でびっちょりだったりする。


「俺も不寛容な男ではない」

「…はあ、」

「忍であるお前達に三郎の世話を任せているのは十分承知している」

「いやまあ、本来忍の仕事じゃないですけど。…でもこれは俺様達も喜んでやっている事だよ」

「ああ、それも分かっている」


――ふっ、と吐息が漏れる、


あれ、てっきり朝の事を咎められるんだとばかり思ってたのに、不意打ちを食らった気分だねえ。あーあ、弛んだ顔しちゃってまあ…大将を熱く語る時と違って、三郎様の事を語る時の旦那は牙を抜かれた虎みたいなもん、ってか。

あ、それは例外無く俺様もか。


「常に側に居てやる事は俺には難しい事だ、…だが、代わりにお前達が居る。お前達が居たからこそ、三郎をここまで育てる事が出来た。…俺はお前達に礼を言わねばならんな」

「……旦那」

「佐助、これからも三郎を――…頼むぞ、」


――伏せた睫毛が長い影を頬に落とす、


旦那。それは反則だぜ、不覚にも俺様、胸が熱くなっちまったよ……。



「だがな、佐助」

「は、い?」

「某が我慢をしている時に限って何故お前ばかり「途中まではいい話だったのに…ッ!」」



真面目に話していたかと思えば、結局最後はそこなの?! 途中までの俺様の涙と感動を返してくれよっ!!


「はい、異議あり! 旦那こそ俺様が仕事している間に三郎様の床にいそいそと潜り込んでぐうすか寝てただろ! 添い寝なんかしなくったってあの子はちゃんと寝れるの! 良い子なの!」

「何を言うっ! 慣れぬ床では夜中に目が覚め隣に誰も居らねば泣いてしまうのでは? と思う兄心がお前には分からぬのかっ!」

「全然分からない」


「ワシもそれは狙っておった!」

「やめて、無駄に大将も張り合わないで」



さすけえっ! と己を呼ぶ幸村の声がその場に響き、そしてそれが始まりの合図だったなと佐助は後になって思う。

この後、途中から熱くなり過ぎた師弟が殴り愛に発展するまで、そう時間は掛からない――、そう考えた佐助の予感は外れなかった。


「アイツ等何やってんだ…?」


突然土下座の姿勢で登場した忍、それに熱弁をふるい出した甲斐の虎若子。と、途中から二人を煽るように混ざっていった甲斐の虎。

庭のど真ん中で一体何をそんなに熱くなっているのか…? 途切れ途切れ話は聞こえるが内容がよく分からない。途中何人かの女中が目を丸くして去る位だから甲斐でも大変珍しい光景であるようだ。
(周囲の者に分かった事と言えばそれ位で)


「下らぬ、捨て置けば良い事よ。…我も先にゆく」

「あ、おいっ、待てよ毛利! …ったく、纏まりのねえ同盟だぜ」


とっくの昔に先に行ってしまった奥州組に続くよう、二人も移動を開始した。


(ケンカする程仲が良い、そんな武田)

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