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大きな瞳が不安に揺れる――当たり前か。知らない奴に囲まれ不安にならねえガキは居ねえだろ。
一目で真田との繋がりが窺える容姿に、直ぐにピンときた。
話だけは真田幸村から散々聞かされてはいたが(…その為だけに奥州に来た時もある)実際目にしてみて成程、と納得した。
愛された子供特有の甘い匂いが鼻を擽る。まあ、直ぐにそいつは持っていた菓子の匂いだって分かったんだが。…何処にあれだけ持ってたんだ?
甘味好きは兄弟揃ってかよ。
ガキなんて煩くて直ぐ泣くから余り近づかねえし。それに普段から俺の周りになんざ居ねえから、扱い方なんて分からねえ。初めは面倒くせえって思ったが、通された広間に一人で居たコイツが妙に気になって……気がついたら頭を撫でていた自分に吃驚したぜ。
――泣かれるのも極まり悪ぃからな。
…別に昔の自分を重ねたわけじゃ、ねえぜ?
わー! 高い高いしてー!!
なーんて喜ぶ事も無く、むしろ抱き慣れない人の腕の中は居心地が悪くて。一瞬飛びかけた意識をキャッチアンドリリース! …じゃない、呼び戻してもがもがしようと思いまーす。あ、脱出するってことね!
「あの、おろして「NO!」ふぐっ」
恐らく武田のお客様? な奥州筆頭さんに控え目に頼んだら速攻でNO! と言われた。そんで腕を突っぱねて逃れようと暴れたら、今度は両手で抱っこされたし。
生きるNO! と言える日本人は握力ハンパねえ。
「うーッ! おりる!」
「おい、そんな暴れんなって」
「政宗様、放してやっては「いち、にっ、さん、だー!」……政宗様」
「…チッ、」
はい、片倉さんから生温い視線、頂きました。ご馳走様です! …いいじゃんか、俺にはこのお馴染みの気合いの入れ方が性にあってんの! それにこのお陰か分かんないけど、政宗が下ろしてくれたしね!
政宗から逃れてペコッと片倉さんにお辞儀すると、わしわしと頭を撫でられた。
丸っきりの子供扱いも片倉さんだと何か納得しちゃうぜ。顔怖い人だけど優しい人だなあ。奥州にはオトンがいるって噂は本当だったのか。
「それにしても…お前はこんな所にどうして一人で居たんだ? 迷子にでもなったのか?」
……後、常識持った大人の人だってのも付け足した方がいいみたいだ。そうですよねー、今更ながら俺もそれが疑問ですー。どこら変がお手伝い何でしょうか、接客ですかイラッシャイマセー。
「…おてつだい? です?」
「Ah? 菓子持ってかよ、忍はどうした。真田ん所の弟なら一人や二人ついてんだろ、あの派手な忍みたいになあ」
チラッと天井に流し目を送る政宗。それがやたらと様になっている…羨ましい奴め。
俺に読めない忍の気配でも読みっ取ったのかもしんない政宗。その視線の方へ、試しに歩いてみる。それを興味深そうな顔つきで眺める二人の間をすり抜けて、廊下に出た。
なんだ誰も居ないじゃん、って振り返ると首を傾げる二人と視線が合って、
「おて」
これで出てきたら面白いよねー、って感じで笑ってたら、うん。右手が何か急に重くなった。……ついでにお伝えすると二人の顔が引きつりましたー。うわー、片倉さん超こえぇっスね!
「さんにんで、なに、してるの?」
答えの変わりみたいに三人が順番に首を傾げた。可愛いじゃないか。でもね、聞きたいのは俺の方だよ! これ何て魔法? あは、あはははh…。
右手が重くなった正体はあれです、あれ。お付きの忍な影三忍衆。犬宜しく俺の手に三つの手がちょこんっと乗っかってます。流石忍。速いね。お前達、どこに居たのさ。
きょろきょろっと周りを見回して、また前を見て。……後ろは何だか怖いのであえて振り向きません。双竜からビシバシ視線感じます。よし、そうだ。違う話題に変えよう。うん。
「あにうえとさすけど「うわあぁぁっ!」…こ?」
風を切る音が目の前を過ぎった。
それに遅れて叫び声が追いついて。
何かが壊れる音が右っ側からしましたー。
さっと影達が飛んできた破片だか石だとかから庇ってくれて、怪我なく無事だった俺。
もくっとした視界がクリアになってそこに現れたのは…、
「……さ、さしゅけぇ…」
「……は…ぃ……」
律儀に返事をくれたのは、武田のオカンっぽい忍でした。
(なんか土の中にめり込んでるんですけどおぉぉぉ!)
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