03
「はい、出来たよー」
「ありがとーさすけ」
ぴっ、と襟を軽く直されれば完了とばかりにポンと手を頭に置かれる。
いつもいつも女中さんの手を借りる着替えも、今朝ばかりは佐助のお世話になりました。流石オカン、手慣れてますよ。
あ、おはようございます。
俺は今日も今日とて赤を身に着けてます。
上が赤だったり下が赤だったり……赤がない日なんて無いと思います(遠い目)
てかさっ、いつの間に俺の着替え取ってきたの? しかも葛籠(つづら)ごと。
今朝だって起きたら何故か自分の寝間着だったしね! あらビックリ。
用意が良すぎて逆に怖かったんだけどッ!
あれですか! もしや影達は担いで来たんですかっ!? だとしたらすごいよ!
と、疑問たっぷりな俺の視線を綺麗に流して佐助(割烹着装備)は立ち上がる。それにつられる形で見上げた俺に、
「実は俺様、朝餉の準備の途中だったから戻らなきゃ」
出来るまで待っててね、と頭をサラリと撫でて出て行こうとしてしまう。
ん?なんか言おうとしてたんだけどな…なんか忘れて、る……、
「――あ、まって!」
ちょっ、待てや! とガシッと両手で着物の端を掴んで引き止めた所でハッと俺は気付いた。
欲しいものをねだる子供状態だよねコレ!?
端から見るとそっくりだよ!
「ねーお母さんアレ買って!」
「ダメ、我慢しなさい」
「いーやーだーヤダヤダッ!(ジタバタ)」
「もー、我が儘言わないの!」
みたいな?
(いやいやいや実際見た目は子供だけどね! だけど別にワガママ言おうとしてる訳じゃないからっ!?)
「三郎様?」
不思議そうに俺を見下ろす佐助はちょっと困惑気味にも見える。そらそうだ、こうして引き止めるとかめったにしないからな。
俺ワガママ言わないもん!(多分)
俺駄々こねないもん!!(多分)
少し屈んでくれた佐助に見えるように精一杯腕を伸ばして掲げたその手にあるのは……そう、アレ。六文銭。
出かける前に渡された幸村の分身。
誰がなんと言おうと分身。
「つけて」
「コレを?」
「うん。おおきすぎて、すぐおちちゃうから」
そうです!だってコレ、幸村サイズ。生憎俺にはデカ過ぎて首からかけても腹の辺りでジャラジャラいうんだよな〜。ハッキリ言って、邪魔以外の何物でもないんだけど、
「まだかえってないから、あにうえにはかえさないよ」
「……三郎様」
「うえだにかえるまで、これはおれの!」
人質ならぬ物質だぜ! という意味を込めて宣言をする。だってさ、またどっかに行ったら追いかけちゃうかもしんないだろ? 俺が。
子供は意外と暇なんだよな!
「――っ、俺様感動ッ!」
ばちっと音を立てて佐助が口を抑えて、瞬時に顔を逸らす。
ええ!? なに!? 何なの!? 今のどこに感動が!?
どうした佐助! 割烹着で涙を拭くとかそれはマジでか!? マジなのか!?
戦国じゃなくて昭和の匂いがしちゃったよ!
と、吃驚して固まってる俺の手から六文銭を受け取った佐助(涙目)は紐を何やら調整し始める。
そして出来たそれを俺の腰へと付けてくれた。
――チャラ、
ほんの少し動くだけで、金属同士の擦れる小さな音が耳に届いてなんか楽しいかも〜なんて最初は思ったけど、
うん。
若干、猫の鈴みたいな役割を果たしちゃってるけど気にしなーい!
にこにこと笑って佐助にありがとう! とお礼を言って見送って、朝ご飯までの時間を潰すために俺は庭へと出陣します。
「よし!」
迷子になりませんよーにっ!
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