02


――真田家の末っ子と世話焼き忍が揃って朝の日輪を迎える遙か前。つまり、兄弟が共に寝入ってからその出来事は起きていた。


篝火に煌々と照らされた館の門前で進行を止めた一団と――その先頭に居並ぶ三人の男達。
映し出される影はどれも個性的で、特徴的だ。


そこに、


「団体さん、いらっしゃーい」


なーんてね、と言って闇から姿を現した迷彩の忍・猿飛佐助に驚きを見せる事もなく、寧ろ当然という態度で三人の中で一際目立つ長身の隻眼が進み出た。

その男に向かってこれまた道化の様におどけたポーズを取って見せ、さらに佐助は続け口を開く。


「ちょいと約束の刻限より大分遅いんじゃないの? これじゃ俺様時間外労働だよ」

「おう! すまねぇな、ちょいと迷っちまってよぉ」


カラカラと笑いながら手を挙げた悪びれないその言いように、やれやれと頭を掻いて佐助は男の銀髪を追い越し後ろに視線を流す。

長身の男の影に染められて切れ長の瞳に不機嫌の色を濃く映した連れの男は、イライラとした表情をその細面に浮かべて冷たく言い放った。

「我の指示通りに動かぬからよ」

笑う男の隣で顎をツンと逸らす。
どうやら迷ったというのは本当らしい。

――と、ここで漸く二人目の隻眼の男にも佐助は振り向き疑問を投げかけ、探るような色を瞳の奥に潜ませて笑みを形作った。

男の弦月を象った前立てがキラリと反射して眩しい。



「で、アンタも一緒に迷ったってーの?独眼竜の旦那」

「Ha! そんな訳ねえだろ、こいつ等とはそこで会っただけだぜ?」

「右目の旦那は? まさか旦那だけじゃないでしょうよ」

「小十郎とは別行動だ、明日には追いついてるさ you see?」


ふうん、と何やら納得のいかなかった様子の佐助。

彼に独眼竜と呼ばれた男、奥州筆頭・伊達政宗は口端を上げて自信たっぷりに

「アイツの野菜は伊達じゃねえ、楽しみにしてろよ」

と言ってニヤリと笑ってみせた。


……。

つまりは主君を先に行かせて、部下は野菜を守る為に遅れてくる。そう取ってもいいのだろうか?

先行くぜ、と一言三人へ残して開かれた門へと消えていったのをぽかっと眺めながら、そういえば手土産に奥州の野菜を持って来ようと以前言っていたっけと去っていった背中に佐助は思い出した。


『政宗様、野菜達は繊細です。この小十郎にお任せ下さい』

『OK、小十郎、好きにしな』


と奥州主従で交わされたかは政宗に置いて行かれた三人にはわからなかったが、つまりは竜の右目・片倉小十郎は

筆頭<<<<野菜

という図式をとって主君ではなく、野菜の護衛に回っているという事なのだろうか。
そして、自然体でそれを受け入れている政宗は多分気付いていないんだろう。

野菜に負けた自分に


牛蒡を腰に差し、ネギを振るっている片倉小十郎、その光景を拝見した覚えのある三人の内、二人はちょっと切ない気持ちにさせられた。



「え、……と、鬼の旦那に毛利の旦那、」

「お、おう」

「フン」


気を取り直して佐助は長身の隻眼・長曾我部元親と切れ長の瞳の細面・毛利元就に、


「夜も更けた事だし、大将達との会合は明日に持ち越しだよ」


そう締めくくり、一行を躑躅ヶ崎館へと招き入れたのだった、



(しゅ、しゅやくふざいのはなしっ!)
(某も、むにゃ)
(あにうえ、ねているばあいじゃないし!)

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