01


此処に、一つの膨らみがある。

とても小さい、柔らかな丸みを帯びた膨らみだ。

それは初めはぴくりとも動くことは無かったが、やがてモソモソと身動きを始めた。
しかし、身動きと言われればそう見えるがどうもソレは、端から見ればもがいてる様にしか見えない。


「ゔ〜」(もがいている)

「ん゙〜」(もがいている)

「ふぁいとー!」

バサッと布団を跳ね退けるて、ん〜っと一度大きく伸びをする。こしこしと目を擦る仕草はいかにも眠そうで可哀想に見えてしまう。
それもその筈、まだ日の昇らない時間帯だからだろう。


「しぬかとおもった……」


主に、酸素不足で。


おはようございます、三郎です。どうやらそのまま朝を迎えた模様です。
ご丁寧に幸村付きで。


「なんでいっしょなの」

俺プライバシー皆無!(忍がうようよしているから何時でもだけどな!)

なんか抱き枕的な役割を果たしちゃったみたいなんだけど!
兄弟だからって、幼いからって、いきなり起きたら目の前に幸村の寝顔って吃驚するから! 涎かけないで! お兄様ッ!
しかもヘッドロックかかってたからね!
力一杯。


「ん゙〜さぶろう、三郎は某の〜」
「(某のなんだよ)あにうえ、あさです。」
「だんごより、……むにゃ」
「(団子? 夢の中まで食い意地張ってんの?)だめか、」


くあっ、と一つ欠伸が出る。駄目だ、俺だって眠いよ。だから幸村だって無理なんだよ。うん、ほおっておこう。

と、そうこうしている内に外が少しだけ明るくなってきた。


障子越しにほんのり明るく照らされた室内にはどうやら俺達二人だけみたいだ。(…天井裏にとか、いるのかなぁ。すっごく気になるぜ。)

うーん……。

よし、とぐらつく頭を何とか起こして(いや実際半分寝てます)とりあえず幸村を起こさないように布団を掛け直してから、そろりと足を進ませた。

「ぅぉ、ゆかがつめたい」

半端ねぇよ! じんってしちゃうよ流石甲斐!(関係ないけど!)
朝方だから色々ひんやりしちゃってます!

廊下に一歩踏み出した瞬間に足から伝わる冷えによって動きがギクシャクする。まるでロボットみたいに動く俺は、そのまま顔を上げて広い庭を見て佇んでしまった。

うん、無駄に広い。
流石(以下略)


とにかく広い、無駄に広い。迷子になっても見つからなそうな位広い。……気をつけます。

そして、段々と白んでくる空を見上げながら暫しぼーっと時間が流れ、ついつい余計なことを考えてしまった。


あれやりたい。スッゴくやりたい。
(コレって、チャンスだよな?いつもはこんな時間に起きないし、起きても佐助がいたり幸村が起きてきたりでしたこと無かったもん)

そう考え始めると何か止まらない。うずうずと体が自然に揺れ出す。ちょっとだけなら、いいよな?

段々と姿を表し始める太陽。キョロキョロと辺りを見回して、人気の無いのを確認した。よし、今が好機!
行ったれ! 男なら!!

バッ、と両手を頭上に翳して、そして──、


「に、にちりんよー」


……。


は、恥ずかしっ!


だけど、一度振り上げてしまった拳を引っ込める事が出来ないと同じ様に、俺の両手も引っ込める事は出来ない!

……。

誰か助けてっ!
両手がぷるぷるしてきたんだけど! 限界なんだけど!!

太陽の引力か魔力か分かんないけど、どうしてもそれを下ろせない俺はかなり必死。今までの経験からして、必死な俺は周りが大分見えなくなる。てか、見えなくなる所か見ない。

だから、視界の端に実はなんか同じポーズした人物がいたなんて気付くはずもなく、

その人が満足気な顔で去るまで、その場に佇んでいた。


Nooooo!!

(あ、もうダメだ…(パタリ))
(えっ、三郎様っ!? なにしてんの!? 俺様吃驚!!)

(さす、け、なんで割烹着……)

まえもくじつぎ
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