08


「おはつにおめにかかります、さぶろうといいます」

ぺこっと音がしそうな程勢い良く、幼い童が頭を下げた──緊張の一瞬。

大きな虎は近付き、その巨体を屈める様にして童の目を覗き込む。ガチガチに緊張で固まる童を暖かな眼差しで見つめ、目を細め笑みを浮かべ口を開いた。


「ワシの名は武田信玄。よく来たな、三郎よ」

虎はそう言うと、大きな手のひらで小さな頭をわしわしと撫で、後ろに控える忍に言葉をかけ、大きな手で童を包み込んだ。



地に足がつかない。
や、言葉の綾とかそういうんじゃないっす。マジっす。


「むぅ、……大分小さいのお。佐助、ちゃんと食わせておるのか?」

「大将、旦那と比べないで下さいよ」

「軽いのう……おお、確か買ったばかりの団子が有ったはずだったが」

「はいはい、旦那の分ですけど。まあいっか」

良くないよ!?
ねえ! それ良くないよねぇ!? 身の危険を感じるよ!?

(団子の怨みって恐ろしいんだから!)


佐助に連行され武田の大将、武田信玄公の前に座らせられちゃった俺。
自己紹介もそこそこに、手のひら(デカいよ!)の上に乗っけられちゃって非常に居心地悪いです。

つーか、手乗りインコじゃ無いんだよ!?
何コレ!手乗り三郎!?(あ、うまい?)

ガッチガチに固まった俺は、ただただお館様の迫力(もっさり兜)に圧倒され…何故かそのままお膝に導かれ座っちゃった…。
そんな状態で団子なんか出されたって、出されたって……ださr。


「いただきます」


くそう、佐助とお館様がニコニコ見つめてくるのに負けてしまった。
だ、だってさ、なんつーの!?あの期待の眼差し!!空気読んで食べるしか無いじゃん!
(俺の小心者!!)

そして、えいっ、と二対の瞳に見つめられたまま団子にかじりつけば──、

「うまいッ!」

「でしょ〜、なんたって旦那の行き付けだからね」

いっぱい有るからね、と言う佐助を余所にまろやかなみたらしに一口で心奪われた俺は、次々と団子を頬張っていく。

(ズルい、幸村はこっちに来た時いつもコレを食べてんのか!? だから連れてこなかったの!? ちくしょー)

むぐむぐと口を団子でいっぱいにした俺は、それはそれは幸せな気分でいっぱいになって思わず笑顔になる。
しかもそのお陰で、緊張もほぐれて誰の膝の上だとか気にならなくなってきた。
(うん、些細な事だよね!)


「──着いて来てしもうたなら、しょうがないのう」

「さすが大将、話が分かりますねえ」

「じゃが良いのか? 会わせたくのうて置いてきたのじゃろ?」

「あ〜、会わせたく無いってゆうか、見せたくないって言いますか……。こんなに可愛い子、隠しときたくなるじゃないっすか!」


親バカ全開で、頭上で話されているのにも気付かないで、口の周りをタレだらけにして夢中で食べまくってしまっていた俺は、(食い意地張ってるって?違います!走ってお腹空いたからエネルギーの補給だよ!)

皿に山と積まれた減らない団子(不思議だ)を佐助に差し出してみた。

だって俺ばっかり幸村に怒られるのは不公平だよね! お前も食べちゃえよ! 一緒に怒られような!


「はい! さすけもどうぞ!」

「っ、三郎様っ(ジーン)ありがとね。あらら、口の周りこんなに汚しちゃって〜」

なんかやたら感動してるけど、…まあいっか!…でも、なんか忘れてるなぁ〜。気のせいかな。


──ガリガリガリガリ、


「……? へんなおとがする」

何かを引きずる音が段々近付いてきて、それに気がついた俺達が振り返ると、


「甘い、匂いがするでござる〜」


あの、妙に盛り上がった背中に槍を仕舞い込んだまま、ガリガリと地面に二本の線を描いて幸村が──歩いてきた。


忘れてたぜ。

(だ、団子! 某も〜!)
(なんで外して来なかったんだろ。もしかして、外れなかった?)

まえもくじつぎ
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