先導者S


思い切って街の掃除に取り掛かることに決めました。
クリーン作戦? より良い街づくり?
いえいえ、それもまあ含まれているけど、それよりももっと大々的なお掃除だぜ。

まあ、ちょっと聞きたまえ。
危険を冒して他の島に移動するという事も考えた俺が、数日この島で過ごして出した結果とその行動を。


先ず、「新世界」と呼ばれるこの海についての危険性を何となく理解した俺は、この島に訪れる海賊の目的を探った。

気候は穏やかにして資源と食糧が豊富。
水も綺麗だから酒も美味い。
その所為か補給に訪れる海賊や、先の航海に不安を抱いて長く滞在していく輩がとても多いのだそうだ。
戦闘や些細な喧嘩――からの殺傷沙汰。
強奪なんて日常茶飯事でみんな揃って荒くれ者ときた。治安が悪くなる訳である。
無法地帯ってこうやって生まれるんだよね。

正直、海軍は何やってんのと思う。
法の裁きはどうした。正義の味方なんだろ?

まあここ二、三年で廃れたという話だから被害報告が遅れているのかも知れないけど。それにしたって遅い。
恐らくは見逃がしてもらえるように近海の海兵が買収されている可能性が濃厚である。

当然ながら島民だって迷惑している筈なのだが、怖くて逆らえないのだろうし、海賊とはいえ商売の相手だ。
ヘコヘコと諂って顔色を窺いながらも逞しくしたたかに生きている。
それが悪い事だとは思わない。
生きて行くうえで必要になった処世術なのだろう。

けど、親切なフリして何度もさらわれそうになって、フォークス共々売られそうになれば俺だって我慢が出来なくなると言うものだ。
そこまで染められちゃあ同情なんて出来ないもんだぜ?

「と、言う訳で、本日からこの島は僕の縄張りとなりました。以後、よろしくね!」

自他共に認める少年愛者フソウがべた褒めしていた「鼻血が出るほど可愛い」という笑顔を振りまいてそう宣言する。
俺の後ろにはずらりと並んだ厳めしい顔をした屈強な男達――元は海賊であった。
そして目の前には困惑も露わな島民。

訳が分からない? はははっ…俺もそう思う。
ただちょーっと魔法を駆使してじわじわと追い詰めて虜にしたり服従させたりしてひとをかき集めた結果ですが何か。
俺が魔法を使える子供でほんと良かったね!

詳細は結構地味目でそれなりに時間もかかった。

まず、初めに屈服させた男達を使って、海賊たちが長々と居座って根城にしていた宿を堂々と夜襲して頂き纏めてインぺリオした。
いやだってもうどこにも行きたく無いんでしょ? 下手すれば一年以上何もしないで燻っていたんだろ? と、言質は取ってある。多分。
その後、今度は酒場に屯っていた海賊も増えた手勢にお願いをして沈めて頂き、催眠をかけてトランス状態の彼らに「今後の航海へ不安を抱いているひと、この指とーまれ!」と絞り出してまたインぺリオ。

それを数回続けた結果、鼠算式に増えた。
予想以上に増えた。
不安を抱えてる奴が多過ぎるってどうなのさ。
けど、後には引けない所にまで来てしまっていた俺は、一団をまとめ上げる位置で高みの見物と洒落込みましたとも。
こういう時、優秀な副官殿がいてくれたらもっと楽が出来たんだけどな。


「なんだよ。故郷に帰りたいって。だったらもっと早く帰れよな! 帰りたくとも帰れない僕の身にもなって!」
「はい、すみません…」
「打たれ弱いね!?」

薄汚れた街を「お前らが汚した後始末、するべきだよね」とみんなで仲良く一緒にお掃除した後、無理やりまとめ上げた責任もあった俺は一人一人面談をして事情を聞いて『視た』。
まーいるよなあ。
時代の波に乗っての若気の至り。

この世界で最も航海が困難とされるらしい「新世界」を渡ったことも無い俺には良く分からないが、気付くのが遅すぎだと思う。
どうしてもっと早く引きかえさない。てかもっと根性出せ!
ほんと帰れない俺の身にもなって。海に出れば帰れるとか羨ましい。
島の外にはちょっと所で無い苦労が待ってるけど、故郷という目標が見える君たちはもっと頑張るべき。…あ、やっぱ喧嘩売ってんのか。

『はー…もう男の沽券が何とかと言い訳する顔にもいい加減飽きたよ。見苦しいったらありゃしないねえ』

帰りたい奴は帰ればいいじゃねえか。と言うのは簡単だがそうもいかないと彼らは首を振る。
めんどくさいな…いい大人が。俺がそう思ってしまったのも仕方がない。

さて。そういう訳もあってこの島の自警団――というには少々顔が悪人面過ぎるし、服装に統一感も無い――として生きていくことをオススメした俺に、良い歳したおっさん方は従ってくれた。妙にヤル気だぜ。
その意気で治安を乱そうとする海賊どもを取り締まってくれ。
俺達の安全のために。

…またもハアハアされているのがまあ気になるけど。どいつもコイツもラバスタンが乗り移ったんじゃねえかと思うくらいドMなんだけど。…うん。
服従の呪文にそういう効果があったのかな…。
あっ、だから「許されざる呪文」認定されてんじゃねえの?

ウザ過ぎて服従の呪文を解いた筈なのになんでまだハアハアしてるのか分からん。全く理解不能だ。
いろんなものをこんな得体も知れない子供に委ねて恥ずかしくないの?


島民は困惑しながらも大層喜んだが、妖しげな術を使う俺を恐れる心はしっかりと刻まれてしまっていた。
別に良いけどさ。まあ事実だし。
悪魔の実の能力者じゃねえか、って疑われているらしいが全くそんなんじゃないよ。主に体力と筋力の問題で泳げないんです。

金と衣食住の問題はこれで解決した。
島にたったひとつある図書館は暇があれば通う事に決まったし、最早そこに住んでいると言っても過言ではないが、町医者と交流も持てた俺はひとまず安息の地を手に入れたと見ても良いだろう。
すべてが纏まりきるまで半月も掛からなかった。

そうして次なる薬のストック作りに勤しんでいた俺は、これが後に「彼ら」との再会を運んでくるとも知らずにフォークスと堂々街を歩ける事を喜んでいたのである。

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