それは想定外だった


どこですかここは第二弾。
フォークスが移動したのはまたどこぞの島だった。地理も良く分からぬのにフォークスってば大胆だね…。
今度はそれなりに大きく、しかし同時にとても治安の悪い島であるなと悟らされて俺は早々に顔を顰めることになる。


降ろしてもらった後で、俺の身を案じてぐいぐい首を押し付けてくる可愛い不死鳥を宥めつつ、薬をなんとか飲み下して木陰で休んでいた。
ら、明らかに悪い事をして生きてきましたという顔をした、非常に不潔な恰好をした男たちに囲まれてしまいましたよねー。
災難に次ぐ災難です。やめろこの野郎。

高く売れそうな珍しい鳥と、抵抗出来無さそうな子供を見つけた彼らはいやらしい顔に下卑た笑みを浮かべていた。
ノクターンに迷い込んだ子供に向けるアレと大差無い感じだ。
完全にカモとしてロックオンされている。
なので、具合が悪くて億劫だった俺によりさっくり眠らされ、そのまま「服従の呪文」をかけさせて頂きましたが罪悪感なんて浮かばない。俺だって必死なんだ。

「じゃあ、僕はひとまず寝るから後はよろしく」
「「はい! 喜んで!」」
「ただし。僕が起きるまでにちょっとでも近寄ったらフォークスさんの嘴と爪が唸るんで。痛い思いを態々味わいたく無いなら…良い子にしててね」

呪文を受け幸福状態のまま「最高に素晴らしい気分」となった彼らは、俺が回復するまでのあいだ非常に従順なボディーガード役を務める事と相なった。
…セブルス以外といやらしい関係になんてなりたくないし、ここでは身元不明の俺なんてさらっても身代金なんて貰えんよ。


『あー…本当に参った。まさかの異世界かよ…』

現地のことは現地人に聞くのが一番早いと考えた俺が、自らの職業を「海賊」だと名乗った彼らに情報を吐かせた後での一言だ。
「ひとつなぎの大秘宝」と「海賊王」。
たったひとつの玉座をかけて海を航海する彼らの話しは、子供が物語として聞けばワクワクさせられる類の物だろう。ベストセラー間違いなしの長編物として売れるぞ。
しかし現実として突如放りだされた俺にとっては瞳を好奇心でキラキラ輝かせていられる訳がない。


従属させた男たちに提供してもらった宿の一室で、俺は今後の自分について真剣に悩まされていた。
多分、元の場所への帰り方は分かる。
それは自然と起こりうる事象なのでジタバタしても仕方がない。以前は一月もすれば帰れたが、今回はどうなんだろうな…。はあ。

トランクの中身は大量の衣服と未処理の書類(……)、ミカサのお菓子とガリオン金貨がひと袋。教科書も本もすべて縮小されてぎゅうぎゅうだ。
手持ちの薬は一月分のストックがあるものの、それが切れれば残りは自分で調合しなければならない。材料のストックはあるが、半年もすれば当然底は尽きる。
俺は、薬無しでは普通に生活することも難しいのだ。

口からは愚痴と溜息を零しながら、頭の中にある調合レシピを代用がきく物とそうでないものに分類するという計算が為されていた。
ほんと、参ったな。
ドラゴンなどの魔法生物からしか取れない材料の入手は絶望的と考えても良いだろう。
やっぱり図書館か本屋に向かわないと。
もしくは医者にかけ合って材料に付いて話し合わなければ。死活問題だ。

こうして宿に身を落ちつけてはいるけど、此方の金が無い俺は依然全くの無一文。先立つ物が無い状態だ。
手持ちのガリオン金貨は使えないだろうから…魔法で増やして換金しようか。それがダメなら裕福な者を適当に見繕って奪う。

(…従属させている男たちが何故だか最近やたらとハアハア鼻息を荒くしているんだが…なんとなーくいやな予感。まあ暫くは付き合って頂くのだからと俺は諦めている。
ラバスタンみたいなのが一人二人増えた所で痛くもかゆくも無い。けど、正直キモい。たまに「罵って下さい」と言わんばかりの熱い視線が刺さって抜けねえ。やだやだ変態こわい)

セブルス。良い子の君はマネしちゃダメだよ?
あちらでは少々躊躇われる所業でも、殆ど無知に近いこの世界では手段など選んでいられない。だから「最早諦めて下さい」と、祈るように俺はセブルスに頭を下げていた。


『……はー…セブルス…会いたいなあ』

愛しい弟の顔がふっと浮かんではやり切れない溜息と切なさが胸を締め付ける。
無意識に唇の形を指が辿った。
大人な「彼」に会えるのだと喜んでいた能天気だった自分がまったく恨めしい。
ここは異世界。どこにもセブルスがいない事など、俺はもう分かってはいた。

それはとても辛いことだ。

傍にいない事が不満で、でも彼が巻き込まれなくて良かったなと思う反面、会いたくて切なくなる瞬間が辛くて辛くてたまらない。
きっと、情けない顔をしている。
何をやっているんだとお叱りを受ける瞬間の顔がたまらなく恋しくて泣きそうだ。

(もしも、帰れなかったら…)

考えてはいけない事を、ふいに胸に呼び込む。
この事態が「前」と同じ現象によるものであるという確証は、ない。
けど、胸に無理やり仕舞って、出来るだけ自分の心に負担をかけないように、その「もしも」を遠ざけた――。

窓際で食事をしていたフォークスがばさりと翼を広げて、俺が腰掛けているソファに舞い降りる。
狭いシングルの一室では羽ばたくのにも窮屈そうだ。
頬にすり寄る手触りの良い羽毛に慰められながら、君がいてくれてホントに良かったよと、くしゃりと歪んだ視界を彼女に押し付けていた。

『さて。どうしようか、フォークス』

ないものねだりは暫く封印して。
海へと足を向けてもっと治安の良い街に行くか、それとも…。

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