むしろファンクラブ


取りあえず「僕で間違いありません」と己の犯行を自供させられちゃった俺ですが、詳しく話をする前にその機会は流れた。

回収を目的としていたフォークスの登場。
そして彼女に追いかけられて転がり込んできたエース青年により、一気に騒がしくなった甲板で口を閉じざるを得なかった訳です。
今まで姿が見えなかったのは後方甲板で追いかけっこを繰り広げていたから、らしい。

どかどか走り込んできたエース青年が船尾楼の手すりに足をかけ、階段を降りる手間を惜しんで一気に飛ぶ。(その背後にメラメラと燃える炎のエフェクトが掛っていた気もしたが、見間違いだろうか?)
ダン。音を立てて着地、と同時にまた駆け出した彼は此方に向かってい――ちょ、おい。エグイことにはなって無かったけど傷だらけじゃないか! 

大きな羽音を聞きつけて空を仰いだ先に、真紅の不死鳥の姿を捉えた俺はイゾウから一歩離れて杖を構えた。

『アクシオ――フォークス!』

杖先で狙いを定めて呼び寄せ呪文でフォークスを引き寄せる。
魔法生物である不死鳥にこれが効くかは微妙なとこだったが、うまいこと効果を発揮したらしい。
逆らえない力に俺の元へ飛んできた彼女をキャッチしようとして――フォークス諸共一緒になって甲板をゴロゴロ転がって行ったのはご愛嬌。
病み上がりな上に踏ん張りのきかない自分の足腰と体力を過信したその結果だ。…笑うなよおい。俺が悲しくなる。

「きゅっ?!」
『こら、フォークス! なーにやってんのさ!』
「きゅい!」
『エースお兄さんの誤解を直ぐに解かなかった俺にも非はあるけど、とにかく、違うから! あの人は俺を拾っただけで悪いひとじゃないの! めっ!』

海賊という時点で世間的には悪い人である。
エースは食い逃げ犯でもあるが、そこは先ず横に置いてフォークスに説明をした。とにかく納得させた者勝ちだ。
愛らしく小首を傾げた不死鳥にもう一度頷くと、どうやら分かってもらえたらしく肯定の鳴き声を上げくれる。

フォークスを腹に乗せたままでの情けない説得を終えた俺は、彼女の下から這い出してエースの元へぱたぱたと駆けて行く。
後から不死鳥が反省した様子でちょこちょこ歩いて来たのが非常に可愛らしかったが、それ以上に俺の後ろ頭あたりに注がれている視線の方が妙に痛い。
まあ待て。説明なら後回しだ。

呆気に取られた顔で腰を低くした中途半端な恰好で停止していたエース青年に、隣に並んだフォークス共々頭を下げる。
それに真っ黒な瞳がきょとんとして瞬き、眉をヘタらせた俺の顔が映りこんでいた。
相変わらずの半裸だ。
その逞しい身体のあちこちには不死鳥の鋭い鍵爪と嘴がつけたらしい引っかき傷が広がっていて、さらに申し訳なくなる。

「フォークスがごめんなさい、エースお兄さん。今、言って聞かせたからもう襲わないよ」
「…お、おう…いや、助かったぜ」
「ほんとにごめんなさい。いっぱい怪我させちゃって…」
「あァ、いや別にいいって。大丈夫だ、こんなのかすり傷さ。けど、っかしいなァ…おれは“自然系”だから傷痕も残んねェはずなんだけど」

曲げた肘のあたりを見ながら首を捻るエース。
“自然系”と言うあたりで青年が何らかの悪魔の実を食したのだと察したが特に言うことはない。
傷痕が残ったのは恐らくフォークスが魔法生物だからだろう。
あちらでも魔法生物が付けた傷は治療に時間が掛かるし、大きな傷は痕が残ってしまうからな。

「それは多分、フォークスが特別な生き物だからだと思う。自然治癒だけじゃちょっと治りも遅いかと…」
「へー」
「エースお兄さん、手、貸してくれる? 応急処置だけでもさせて下さい」
「ん? おう」
「……もうちょっと屈んで頂けるとさらに助かります」
「おっと、悪ィ悪ィ。…あ? なんだお前、この前の…あー、そう言えば名前まで聞いてなかったっけなァ」

足を大きく開いてしゃがみ、俺の視線よりも低くなってくれたエースはそこで漸くおれのことを思い出した。
「セネカだよ」と名乗った俺にニカッと太陽のような明るい笑顔が向けられる。なんて眩しい奴だ。
これはさぞかしモテるだろうよと俺はひっそり思うのだった。

『――エピスキー』

杖を仕舞って傷痕ひとつひとつに指を触れさせながら応急処置呪文を唱えて行くと、目立たない程度までみるみる塞がって行く。
…普通はここまで上手くいかない筈だ。
どうやら俺の魔法は能力者にか、“自然系”であるという彼には非常に有効の様である。

エースは自分の身体に起こった変化に「すげェな」と率直な感想を零していた。
完璧に癒すことは叶わないみたいだけど、それは後で薬を処方する事で許して頂きたい。
いつのまにか、横に回って肩の傷を癒す姿をハルタが近寄って来て物珍しそうに覗きこんで見ていた。

「それも魔法ってやつ?」
「うん、そうだよ」
「ふーん」
「…アー、ハルタお兄ちゃん、この呪文じゃエースお兄さんはドMにならないからね…」
「えーなんだ、残念。なったら面白そうだったのにィ」
「(…やっぱりか)」
「じゃあ、後でサッチのことドMにしてよ」
「ハルタお兄ちゃんはお願いだからもうそのワードから離れようか!」

おい頼むからこの隣にいる小悪魔を誰か引き取ってくれ! 集中が乱れる!

ハルタと話しながらも粗方癒し終わったのでもう良いよと促す。
じっとしていたエースが立ち上がり「ありがとな!」とまた明るく言って、自分よりも随分と低い位置にある俺の頭をぐしゃぐしゃにかき回してくれた。
ちょ、おい待て。脳が、シャイクされる…!

ぐわんぐわんと眩暈を起した頭に、よたよたとふらつく足元。
解放された俺がもたついて転びそうになった所を一番近くに居たエースが掴まえて抱き上げてくれた。
身体が弱いと以前告げたのを思い出したらしい彼は、ぐったりと身を預けた俺に大変慌てている。
まあ、君が最後のトドメを刺してくれた訳だが、俺は許そう。フォークスのことはほんとに悪いと思っている。

そのままオヤジである船長の元まで戻るエース青年だったが、無邪気な様子で「ほら、治った! すげェなオヤジ!」と報告するあたり、彼もまたハルタ達同様ファザコンのようだ。

船長さんにお礼を言われた気がしたけど、ちょっとそれどころでは無かったので「いえいえ」とか曖昧に返した、ような気がする。

prevnext

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -