ガレーラサンド


「そうか、お二方はあのガレーラに勤められているのか」
「そうじゃ。ワシとここにいるルッチと…ほれ、あっちで騒がしくしている男らもみーんなガレーラの船大工じゃ」

くりりとした愛嬌のある目をパチリとさせた彼は名をカクと言った。
あの長い鼻の青年だ。
ハトを肩に乗せた青年は名をロブ・ルッチと…何故かハトの方が自己紹介をしてくれた。どうやら彼は無口な性質らしい。


お互いに謝って、いやいやこちらこそ、いやしかし、としばらく繰り返した後、現在、なぜかそのまま俺と彼らは仲良くカウンター席で肩を並べていた。

温かみのあるランプに照らされた店内をカク青年はぐるりと見回す。
グラスを持った手で指し示すのは、賑やかな一団が埋めるテーブル席だ。

「あの白いひげの男がタイルストン、その隣の寝癖がルル。どっちもワシらと同じ一番ドックの職長じゃ。……ん? なんじゃパウリーのやつ、またギャンブルでスッたんか?」
「”まあ、いつものことだ。因みにあいつも一応職長だクルッポー”」
「(…普通に会話が成立している…どこから突っ込めばいいんだこれは)」

テーブルに頭から突っ伏している後ろ頭にはどこか見覚えがあった。たしかアレは…先日、造船所の入り口で見たロープの青年だったか? もの凄い落ち込みようだな。
「自業自得だ」と溜息をつくハトにこちらは何とも言えぬ顔になる。

カク青年は若々しい声に(聞けば驚いたことにまだ21なのだそうだ)老君のような話し方をするのだが、俺としては耳馴れたこれに親しみやすさを覚えてしまっていた。
酔いのせいもあるのだろうが、彼はからからと良く笑う。
俺が旅行者であると知った彼らは、この町のことを色々と話して聞かせてくれている所だ。


「所でヒデナガさんはいつまでこの町におるんじゃ」
「アー、さあな…それは俺にも良く分からぬのだよ」
「ははっ。なんじゃ、無計画か?」
「いや、迎えに来ると約束をしてくれた友人がこれまた気まぐれな男でね…。いつ来るとも実は聞いていなかったりする」
「あんたそこ笑うとこじゃないわい」
「…この前は一月放置されているのでな、もう笑うしかないんだ」
「”すでに体験済みだったッポー”」

ハトなのに…よく表情の変わることだ。
ルッチ青年のハト、ハットリは眉にあたる部分をひそめると羽を使って頭を掻く仕草までつけてくる。
芸達者どころでは無い人間臭さを漂わせていた。

じっと見つめる俺の視線に気付いて、ハットリがくりっと首を傾げた。
その愛らしい動きに、口元が緩む。
ああ…もっふりとしたその丸い身体を両手で挟み込みたい衝動に駆られるじゃあないか。

撫でさせてはもらえまいかと切り出す機会は無いかな、と酒を舐めながら悩んでいる俺の傍らで、ふたりが意味ありげに視線をかわしていた事を俺は知らない。



酔いが頭を気持ち良くまわしてくれる頃には、ハッと気付くといつの間にか俺の位置が瞬間移動していた。
はて、どうしてこうなったと首を傾げる。

隣のテーブルに座る人と触れあってしまいそうなほど混み合うテーブル席にさり気なく雑ざる俺。
ここは前後左右どこを見ても、屈強な身体つきの船大工がみっちり寄せ合ってしまっている。
良いのだろうか。俺はここにいても。

酔っぱらいに良くある「トイレで一緒になった人と意気投合を果たし、その流れで同じ席に帰っていたイエーイ」という奴かもしれんが…、まあ、ちゃっかりとカクもルッチも着いていたので、もしや俺がふらふらしていたのを二人が呼んでくれたのでは? と、そうした考えに直ぐに行きついた。
会ってまだ間もないのに…面倒をかけてしまったのだろう。
何だか申し訳ない。

ぼんやりそう考えていると、豪快な笑い声と共に背中をバシバシ叩かれて咽る。地味に驚いた。
いや、特典的体質のお陰でこちらはまったく痛くは無いのだが、飲んでいた酒で着物を汚しそうになったぞ。

大柄なタイルストンの豪快な叩きっぷりに揺すられてしまう俺に、流石に悪いと思ったのか「すまねえな」と、寝癖をぴんと立てたルルから謝罪を頂いてしまう。


ぷるぷるぷる。


「”おい、だれかの電伝虫が鳴っているッポー”」
「……おれのじゃない」
「ワシも違うぞ」
「がはははっ、おれは初めから持ってない!」
「あんたには初めから誰も聞いておらんわ。…パウリー。お前さんじゃないか?」
「あァ? 違うぞ」

すっと集まる視線。
口を挟まずきょろりと一同の顔を眺めていた俺にそれは自然と集まっていた。んん、ん? …俺か?
ああ、そういえばミホークから電伝虫を預かっていた…ような…。

「あんたじゃねえのか?」

葉巻の煙をくゆらせながらパウリー青年が俺に顎をしゃくった。
グラスを一先ず置いて懐に手を入れて取り出したカタツムリは、成程、確かにふるりと小さな身体を震わせているではないか。

……それにしてもちょっとこれは…気持ち悪いかも、知れん。

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