01


強いだけのヒーローなんていらない。
泣いてばかりのヒロインなんか必要ない。

いつも現実(リアル)だけを見つめていた。

夢から覚める事を願い続けていた、あの頃────、



タンパク質が焦げる嫌な臭い。髪が燃える異臭。生きながらにして焼ける、人の怨嗟の叫び。

そこは最早、戦場ではなく───地獄と化していた。


「酷い事をする」

誰かを責めた訳ではない、己で己を非難する───内なる声。

戦場から敗走していく兵が逃げられぬよう、退路の森に油を撒き、火矢を放つよう指示したのは他でもない俺自身だ。

理性に蓋をし、感情を置いてけぼりにした結果、弄した策は余りにも人道に反するものだった。


「怨むなら、俺を怨め。悔やむなら己の死を悔やめ。───俺には、お前達の死を悲しむ資格もない。」

一人、また一人、命からがら森から這い出し苦しみのた打つ人影が、追い討ちをかけられる様に火だるまと化す。

ダンスを踊る舞い手の様に、くるくると回っては煤と灰を撒き散らし慈悲を請う。

伸ばされた手を、掴むことは赦されていなかった。



「秀長」

惨たらしい光景に目を奪われていた俺を、久秀の声が現実に引き戻す。

以前に、恨みをかった連中が久秀を誅殺せんと仕掛けてきた戦、…それを後腐れなくと、羽虫を叩くかのように殲滅させたばかりの俺達二人。

双子は不吉、忌み嫌われ秘匿され続けていた俺を、外へと…戦場へと連れ出したのは兄、松永久秀だった。


「秀長、気分はどうかね?」

刃向かう他者を踏みにじる事になんの感慨も見せず、ただ感想を求められる。
そうだな、お前にとってはいつもの見慣れた光景なのだろうな。


「最悪だ、」


"俺もお前も人でなしだな"と皮肉げに笑えば、そうかね?と笑われた。


「一番最悪な策を採用しやがって…、」

「一番、起用されたくなさそうな顔をしていたのでね、」

(ッ、コイツ…)


憎々しげに睨むと、静かな笑みを崩さずに歩み寄られる。至近距離まで近づかれ、さすがに身を仰け反らせると、腕を掴み上げられた。

腕力も、体力も俺より数段上の久秀に引かれれば、呆気なく捕らえられる。


「な、にすん「嫌かね?」な、に?」



"人でなしは嫌かね?"

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