安定の迷子


※)キャラ見登場。モブしか出てきません。


困った。いやいや困った。
どうにも先程より窮地に立たされている気分である。


おしろいをはいた良く見れば幼い顔立ちのお嬢さん方を、両腕にひっつけたまま俺は裏通りを歩いていた。
…大通りは大通りでも「裏」の大通りだ。
どこで意思疎通を誤ったのか、一般的に歓楽街と呼ばれる場所を彼女たちに案内されている。
どうしてこうなった。

――彼女たちの話によればどうやらこの島、春島は春島でも「春を売る島」として有名らしい。

女を買い、酒を飲む。
海を渡って訪れる客の落とす金で栄えた、そういう裏の顔がある島だ。

まったく…ミホークもそうならそうと一言言ってくれたら良いものを。
お陰さまでこの状況だ。
情けないかな。抜け出す機会を探して未だに出来ていない。


「……お嬢さん方、すこし、その…歩き辛くは無いかね、」
「あら、腕を組まれるのはお嫌い?」
「……俺に娘がいたらこんな風に懐かれても嬉しいとは思う」
「ほらおじさま、あの奥に見える看板がわたし達の店よ」
「頼むから話を聞いてくれ」

発言の尽くを「照れ隠しの言い訳」と勘違いしてしまっているお嬢さん方は、俺のことをどうやら羽振りの良い旅人と勘違いしてしまっているようだった。
(…慶次のように片袖を脱いでいると遊び人効果でも追加されるのか?)

助けを求めて周囲に顔を向ける。が、返ってくるのはニヤニヤとした冷やかすような視線か、やっかみ染みたものが大半である。
激しく、誤解だ。
傍目からみれば、俺は昼間っから二人もの女性を侍らせている好色漢にでも見えるのだろう。


そうこうする間に店の前まで後少しという所まで来ていた。
左腕に絡みついていたお嬢さんが店のドアを開けようと、するりと離れていく。
ほっとすると共に直ぐさま気を引き締めて、改めて丁重にお断りを入れねばと傍らの彼女に視線を向ける。
すると、

バーン。物がぶつかる大きな音が聞こえた。
ガラスの割れる甲高い悲鳴がドアの隙間から通りに響く。
何だ、何事だ。店内に入ろうとしていたお嬢さんが身体を硬くしてドアからさっと身を引いた。

「お客様、おやめ下さい!」
「――うるせぇ! もっと酒を持ってこい!」

なだめる店員に男の怒鳴る声と怯える女性の声。
それだけで大体の状況が把握できた俺は、騒ぎに気付いて集まって来た野次馬に半ば埋もれる。
…さて。どうすべきか。
逃げるなら今が好機。

しかし、傍らで怯えた表情をしたお嬢さん方にぎゅっと袖を掴まれ、それを見てしまった俺は…どうにもこうにもここで見過ごすことに罪悪感を覚えてしまった。はあ…、

「少し、離れていなさい」
「…おじさま?」
「大丈夫だ。怖いものは直に治まるさ」

美しく結わえられた髪をひと撫でして、騒がしい店内へ足を向ける。
不安に引き止める声を背に受けながら「大丈夫」ともう一声、やわらかい声を彼女たちに預けた。


――結果として騒動は瞬く間に収束する。

酔っ払って暴れていた男を難無く縛りあげたあと、礼を言って頭を下げた店主に「気にするな、俺が単に見過ごせなかっただけのこと」と眉を下げた。
相手が大したこと無かっただけなのだが。
ともかく、誰にも怪我が無くて何よりである。

男はこのまま海軍へと引き渡されるらしい。

偶然にも、良くみれば手配書の回る札付きの輩だったらしい酔っぱらいを引き渡すため、駐屯基地へとボーイが知らせに走る。
その後ろ姿を不思議そうに眺めていた俺に、店主がご丁寧にも説明をいれてくれた。
事情聴取があるため俺もこの場に残らねばならない、とも。

「――懸賞金? そんなものを掛けているのか」
「お客さん、余程の田舎から来なさったんですかい?」
「ああ、まあ…」
「この島はね、海軍の駐屯基地があるから海賊の被害は少ないけど、ああいった賞金稼ぎもどきのゴロツキが多いんでさあ」

計らずとも懸賞金をもらう事となった俺は、店主にお見舞い金として札束を渡し、残りはミホークへ返す金に換えて懐を温かくすることが出来たのだった。


帰り?
ああ勿論、親切そうな若い海兵さんに道案内を願い出ておいたとも。
いやあ助かった。

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