「スペック松永だって十分チートだよ」


偉大なる航路の至るところに点在する海軍支部。
そのひとつへ突然ふらりと現れた男――王下七武海にして世界最強の剣士である“鷹の目”ミホークによって基地内へと動揺が走った。

「いくら政府公認の七武海であろうと海賊は海賊である。どのような理由があるにせよ、警戒を忘れるな」

島の周辺海域を見張っていた若い海兵の報告を聞いた中将は、すぐに港へ兵を向かわせたが、ミホークは彼らを視界に入れることもなく立ち去った。
そのくせ船は任せるという勝手具合。
なお、物陰からその後の動向を探っていた兵によれば、どうやら鷹の目は、補給と休養のために立ち寄っただけのようである。

――このまま何事も問題を起こさず立ち去って欲しい。
中将は報告を述べる部下を眺めながら電伝虫の受話器を握りしめた。

「鷹の目がひとりではなく、見慣れない連れの男を率いて上陸をした」

海軍本部への報告はこの一言から始まる。



どこからともなく帰って来たミホークは何とも言えぬ複雑な顔をする俺に気付いてはいたが、無言で支払いを済ませて背を向けた。
そのまま今夜の宿であるらしい部屋へ連れて行かれる。

ツインの2人部屋だ。
大きな窓から続くバルコニーは大変見晴らしが良く、見下ろす赤茶けた町並みと、線で引かれた青い海の色がキレイな二層になっている。
外国に行くと絵はがきを送りたくなる気持ちが良く分かった。
ここでは送る宛てもないのだが。

「この島の記憶(ログ)は半日ほどで溜まる。明日の出航まで好きに過ごせ」

少々嵩張ることとなった荷物を置いてベッドへと腰を下ろす。
モノクロから情熱の赤へと(店主の強い勧めだ。俺は派手過ぎるのではと思っている)カラーチェンジさせられていた俺は、ミホークの言葉と、同時に投げ渡されたモノを見て首を捻った。

まるまる太った手のひらサイズの巾着。
中には見慣れない札束(おそらく、これが噂に聞くべリーだろう)が無造作に突っ込まれていた。
成程、これはサイフか。て、おいおいおい。待てこら。

「……ミホーク…」
「返すなどと言わぬ事だ。おぬしが何も持たぬことなど百も承知、黙って受け取れ」
「……かたじけない。何から何まで。…この恩は必ず」
「そう思うならこれからは逃げずに船の上でも相手をしろ」
「…お、む…ぅ」

長い航海は退屈を生む。
クライガナ島では乞われた時や(たまに不意打ちで)剣を俺に向けて来ていたミホーク。
船が狭いからという理由を付けて拒否していたことがどうやらご不満だったようだ。

「…反撃はしないぞ」
「バカめ、それではつまらぬわ」

ギロリと睨まれて肩を竦める。
どうせ当たらんだろう、などと言ったら「ではこの場で証明してみせよう」と剣を抜かれかねない雰囲気だ。
まあだからこそミホークもしつこいのだろうが。

荷物はひとまず宿に預けていく。
使い方も物価もいまひとつ分からない俺は仕舞える分だけの紙幣を帯にはさめ、食事に向かうと言うミホークに俺も同行を申し出た。


――というのが一時間ほど前のこと。
薄暗い路地にひとり佇む俺は、ここはどこだろうと意味もなく足元を見ている。


少し前まではミホークと共に大きな酒場で食事をしていた。
予想通り彼は真昼間から酒を注文し、俺は名物だという海鮮ピラフ――やはりここはシンプルな米料理(?)おにぎりも捨て難かったが、給仕のお譲さんが「是非」とススメてくれたのでな――を頬張って久しぶりに味わえた米に感激さえ覚えていた、はずだ。

その後は野暮用があるとミホークが席を立ち、このまま街をぶらりと回るかとふたりは別れた。
どうやらそれが不味かったらしい。

「道に迷ったら地元民に聞け…が、一番良いと思うのだが…」

困った。とても困った。
見た目からにしてガラの悪い輩しかこの場には見当たらないぞ。


振り返った路地の向こうにはいかがわしい色を灯した看板。
ピンクに紫と派手な装飾と雰囲気。
いやはや、どう考えてもソレ目的に建てられた店が連なっているなあ…生地面積のやたらと少ない艶やかなお嬢さんが流し目をこちらに向けている。
俺に向かってひらひら手招きもしていた。

まだ陽も高い時間から仕事熱心である。

「ねえ、あなたさっきから一人でどうしたの?」
「こっちに来て一緒に楽しみましょうよ」
「あら渋いお顔、ステキ。お客さん好みだから安くしておくわ」

悩んでいる間に左右から声が掛ってしまった。
するりと両腕にからむ肉感的な温かい身体。
咽かえるほどキツイ花の香りを纏わせた商売上手なお嬢さん方が俺の腕を引いて覗きこんでいた。

「いや…情けないことに迷ってしまったようでね。お嬢さん方、申し訳ないが大通りへの行きかたを教えてはもらえまいか」

まあ若い娘さんに話しかけられても悪い気はしないけれど、おじさんはそういうお誘いならお断りである。すまない。
恥を忍んで頼み込んだ俺の答えにお嬢さん方は目を丸くした後、楽しそうに笑って顔を見合わせた。


***

補足:赤い衣装はバサラ4の第弐衣装です。どちらにしろ厚着に変わりはありません。
弟は常にオートガードが掛かっています。悪魔の実の能力も覇気も無効する、いわゆるチート。

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