困ったひと達


豪快。まさにその一言につきる。
どうやらミホークは本当に海賊だったらしい。


船の指針、とにかく真っ直ぐ。

行く手を阻む波であろうが岩であろうが海賊船であろうが一刀両断にしてしまったミホークという男。
…いつも、こんな感じなのだろうか。
地図も見ないで、何を基準に進んでいるのかも俺にはさっぱりだった。

「……目の前でこんな、…立派な海賊旗をかかげた大型船が真っ二つになる光景など、正直、俺は初めて見たぞ…」

海の藻屑となりゆく運命の木片を眺めながら、札付きの海賊だという彼らを眉ひとつ動かさず眺める瞳。
金色にかがやく猛禽のそれは実につまらなそうだと俺に映る。

「ミホーク…良いのかね? あれは」
「つまらぬ物を切ってしまった」
「うん? 何とも聞き覚えのあるセリフ――ではなくてだ、救助とか、あー、しなくても良いのかね」
「必要無い」
「…そうか」

おっさん二人でもう手狭なこの小型船にその余裕は無い、…というよりも、本当にその必要性を感じですらもいないらしい。
夜を背にしまって立つ彼の隣で、数秒瞼をふせた俺は早々に船室へと引っ込むことに決めた。
たとえ目覚めは悪くとも、これ以上口を出す気は無いのだ。

つくづく自分は奪う側に向かないなあと、そう思う。



昼と夜が七回ほど入れ替わったある日。
地平線にぼんやりと島影が揺らいだ。

気候の移り変わりが激しい――突然吹雪になったと思えば真夏の太陽にジリジリ焼かれたりと実に不可思議な天気だった。これが此処での普通なのだろうか――船旅で少々よれていた俺は、首筋に流れたひと滴を指先で拭う。
島の気候海域に入ったためか、風が少しだけ爽やかだ。

「ヒデナガ」
「…ん?」
「今夜はあの島に停泊する」
「そうか、分かった。…俺は何をすれば良い?」
「補給の手配はおれがするが、おぬしは…そうだな…………その乱れた身だしなみでも整えておくがいい」
「…それは冗談か、それとも真面目か? たっぷり間を取ったわりに可笑しいぞ」

言われてみればまあ確かに、熱さに負けてくつろげた着物の合わせ目は見た目にも見苦しく、些かだらしない。
おまけに適当かつ大雑把に縛りつけた髪は潮風でベタベタに汚れている。
ミホークの船には浴室なんて無いからな。

すん、と鼻を鳴らして腕の辺りを嗅いでいたらミホークに声無く笑われてしまった。
仕方ないじゃないか…。清潔を保ちたくとも精々身体を拭くくらいしか出来ないでいたのだ。
宿についたら是非とも風呂を借りたい所存である。

男臭いを通り越しての加齢臭、ダメ、絶対。


からだ一つで此方へ来ていた俺は、あの、久秀と鏡合わせにあつらえられた白黒装束のままだった。
古城ではミホークのご厚意に甘えて着替えも彼に借りていたが、兄そっくりの作りであるこの顔には結構ツライものがある。

贅沢は言えない身だ。が、想像してみてくれ。
ひらひらフリルの付いた白シャツのまあ似合わぬこと似合わぬこと。

その心を読みとったかのように、ミホークはとんでもない提案をしてきた。

「おぬしの荷物もここで揃えるぞ」
「え、」
「決定事項だ。黙ってついて参れ」

上陸して初めてかわした会話がこれだ。
港に停泊させた船から島の中心街へと、それはもう脇目もふらずに歩くミホークに「否」という言葉は跳ね返されそうである。

とても気候の穏やかな島だった。
後で聞いた話によるとここは「春島」。
海軍支部という、俺にはあまり馴染みのない建物がある比較的平和な部類に属する栄えた島だ。
大通りは人通りも多く、露店の建ち並ぶ活気のある港町はうっかりすれば迷子になってしまいそうだった。

まあ、背に十字架の大剣をつけた長身のミホークを見失うようなことは無かったがね。

「いや待てミホーク。そうは言うが俺はまったくの無一文だぞ。ここの貨幣単位でさえ良く分からぬというのに…」
「ベリーだ」
「なんとも甘酸っぱそうな、て、いやそうじゃなくっ」

――カランコローン

「ひぃ、い、らっしゃいませっ!」
「ミホーク!」
「店主、これに似合うものを適当に見繕ってもらう」
「は? あ、いや、かっしこまりました!」

ぐいっと強い手に押されひとり店内に取り残される。
目に入った適当な洋服店に俺を置いて、ミホークはたった今入店したばかりの店から踵を返した。

いや、これからどうしろと?

ミホークの眼光と威圧感に委縮した店主とふたり揃って声も出ない。


「(これは…久秀よりも些か強引が過ぎるような気がしてきたな)」

彼らはタイプは違うがそろって人の話を聞かない性質のようである。

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