優しさにふれる


おいおいおい、ミホーク殿。
貴殿の少しとは一体どれくらいなのか。

これが感覚の不一致という奴なのだろう。
海の男は陸にしがみ付く己とは時間の経過もまた異なるのか。
少しと言い置いてミホークは一月も帰って来なかった。つまり、ひとりの時間が一月もあったという訳だ。


両手に抱え切れないほどの荷物と共にミホークは帰還した。
歳が歳だ。待ち焦がれていた、とは決して言いたくは無かったが寂しいと思っていたのは事実なのですんなりとおかえりは言えた。
ヒヒに言葉は通じない。誰かと言葉を交わすのは久しぶりだ。
ミホークは少し目を瞠り、出迎えた俺にそっけなく「ああ」とだけ返して土産を寄こしてきた。

「…日本酒だ」

歓喜のあまり震えた俺の心をお察し頂きたい。

広げた袋から、それはもう大量の日本酒やらツマミやらがごろごろ出てきた時には悦びに俺は打ち震えていた。
もしや、これを手に入れに態々?
着物の合わせ目をさぐり、後生大事に持っていた朱塗りの杯を取り出した俺は…今まさにウキウキと踊りだしたい気分だった。


「飲もう、ミホーク」


苦笑を零す唇が「潰れても知らぬぞ」と片方を受け取ってにやりと持ち上がった。
翌日の結果はもはや言うまでもないが、まあそれは今は置いておこう。


***


男の瞳が切なく、悲しそうに曇った。
おれの気まぐれにそれがあまりにも嬉しそうに輝いたので、心のつかえが不思議と軽くなった。

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