出会いは強制的に


BASARAの世で双子の兄と喧嘩をし、家出という名の鬼ごっこを繰り広げていたはずがこのような場所にいる。
さて、何故だろう?


まず記憶の初めは青い青い空だった。
雲ひとつない、凪ぎの日に出会う美しい空だ。
肌を焼かれるほど日差しも強く、嗅ぎなれない濃厚な潮の香りと眩しさに手をかざそうとした俺は、

ジュラキュール・ミホークと名乗った、この男らしい顎髭の御仁に『受け止められている』という状態と御対面をした。

……。
ああ、そうだな。お察しの通り。
二度目の人生で三度目の姫抱きだ。(小太郎、信玄公に続いて)お恥ずかしい事だがひと回りほど歳下の男に、また俺は姫抱きを捧げていたのだよ…。

『上から落ちてきた』
『忽然と空にうまれ、淡い光をまとって落ちてきた』

そして俺はゆっくりと下降し、まるで受け取れと言うかのように目の前でピタリと静止したのだという。

おやかた! 空からおっさんが!
これを聞いた時。どこぞの炭鉱で働く少年が叫びそうな台詞が、俺の脳内から引っ張り出されてきたのは言うまでもない。
いやはや、懐かしい。
好きな映画だったからな。俺も良く覚えていたものだ。肉団子三つね! は紛れもない命ゼリフだと俺は思う。


「して、貴様は何者だ」

御丁寧に俺を立たせてくれた後、そう聞かれた俺はそれよりも彼の身元のほうを問い質したい気持ちになる。
あちらではまず見ない、久方ぶりの洋装。
相変わらず白黒カラーな戦装束を纏ったままな俺と彼とでは、あまりにも装いが違い過ぎた。

素肌の上に黒いコート。
(逞しい腹筋が見える。腹を冷やしそうだ。じかに羽織って気持ち悪くないのだろうか)
背に背負った、十字架の大剣。
(後で聞いたが名は「夜」というのだそうだ。鞘から引き抜かれた刀身はその名の通り宵闇の色をした、惚れ惚れするほど見事な業物である)

見たこともない棺型の小型船に乗っていた御仁は、只ならぬ雰囲気と眼光を放っていた。
舵もないただの帆船は広い海を渡るにはどう考えても不向きじゃないのかと、航海術のいろはも分からぬ俺でも考える。
しかし、突然のことに相当混乱していても不思議と恐ろしい人だとは思わなかった。

「名は松永秀長。何者かと問われても…俺の方も良く分からぬので答えようもない、かな」

武人よりも文官寄りで、城も持たねば兵卒でも無い。
城主である久秀の補佐を務めることは多いが、これといった役職をもたぬ己は…武将の括りに入るのだろうか?
更に言えば今は家出中の身だ。
仕事も放棄して只今絶賛無職のおっさん。…おお、自分の言葉で地味にダメージを受けたぞ。この歳で無職は、つらい。

そんなことを考えながらうんうん唸っていると、

「そういうことでは無い」

無表情のまま呟いた後、こちらにハッキリと聞きとれるような溜息をついた。確実に呆れられている。
いやすまない。眉を下げて謝ると片眉をくいっと器用に上げ、彼はじっと俺の顔から爪先に至るまで観察してきた。
小さな船の上でおっさんがふたり無言で見つめ合う。
なかなかにシュールだ。


「ところで此処はどこだ?」

出来れば最寄りの港にでも下ろして頂けると有難いのだが。
と、続けようとして彼から視線を外した俺は、あまりにも広大過ぎる海に呆気にとられる事になる。

陽にかがやく紺碧の海には最寄りの港どころか、島の影ひとつも見当たらない。

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