06
「……戻るか」
ガリガリと耳の裏を掻いてもの思いにストップをかける。
考えたとて分からんものは分からん。俺はきっと疲れているんだ、そうに違いない。
砂を掻きまわすように方向転換。またよたよたと部屋に戻ろうとし、
「――!」
足を縺れさせ、前かがみになった身体はそのまま――、
「…………ん?」
確実に転ぶ。そう思っていたのだが、不自然な格好でその場に停止している。
二の腕には力強い掌の感覚。俺はそのままゆっくりと背後を振り返えった。
「……お、おお?」
「……」
「支えてくれたの、か?」
そこには先程まではいなかった人物――風魔が、いた。
「ありがとう。いやすまない、情けない姿を見せてしまったな。俺もやはり歳か…」
体勢を立て直すと掴まれていた腕は直ぐに放され、意外なほど距離が近く驚く。
今までで一番近い、手の届きそうな距離におや? と首を傾げたが、それよりも好奇心の方が勝りまじまじと上から下まで見てしまう。
背は己とそう変わらない。
白と黒を基調とした忍服を纏うのは素晴らしい肉体。引き締まった筋肉は無駄が無く、強靭なバネを彷彿させた。
一体どのような修練を積み鍛え上げたのか、俺には想像もつかないが生半可な努力では得られないだろう。
忍にしては体格が良すぎるような気もするが…、諜報を専門とする忍では無いのか?
飛脚紛いの事をさせておくには勿体なく感じられた。
顔の上半分まで覆う兜から覗くのは、硬く引き結ばれた唇と赤い――紅葉の様な紅髪。
……何故か兜の下から強い視線を感じる気がするが、俺の気のせいだろうか? というか、そもそも彼はちゃんと前が見えているのか?
――深く考えず左手を翳(かざ)し、
「……すまん。驚かせてしまった様だな」
瞬きの間に視界から消えた彼へ思わず苦笑を浮かべた。
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