05


次の日、昨日の忍を見かけた。

遠目から確認しただけだが恐らく間違いない。見られている事に気付いたのか直ぐに消えてしまったのだが。
「優秀な忍」と昨日聞かされたばかりだ。きっと忙しいのだろう。

しかし次の日も、そのまた次の日も。

どうやら久秀とやり取りをしている相手との間に問題が生じているらしい。(憶測でしかないが、珍しくすこぶる機嫌の悪いあの兄を見ればな…)
因みに、俺は久秀の分の仕事を押し付けられてしまった。…理不尽だ。


「ああ、今日も来たな…」

彼を見かける時間は朝・昼・夜とバラバラで。共通する事と言えば「高い場所に立っている」という点。高い場所が好きなのだろうか?と見上げればまた直ぐに消える。
往復するだけで大変だろうに…。いや、疲弊しているようにはちっとも見えんのだが。

私室に籠って仕事を片付けている間は気にする余裕は無い。しかし息抜きに外へ出ると彼が立っている。
これを「気にならない」と言ったら嘘になる。…よし、明日は手でも振ってみようか。

――そんな日が七日続いた、ある日。


非常に良い天気の日で。
あらかた片付け漸く終わりの見えた俺は窓からぼーっと庭を眺めていた。
ゆっくりと目を瞑る。別に眠くは無かったが、瞼を閉じるとじんわり温かさが沁みて気持ちが良い。

「(そういえば、今日も彼は現れるのだろうか)」

ふと、脳裏に思い浮かべた忍の姿。今日はまだ見かけていない。

こきり。凝り固まった首をひとつ鳴らして立ち上がる。座りっぱなしで固まっていた膝を動かし、よろよろと庭へと出ていった。

「(…いない)」

首をめぐらし右、左。

「(もしや、今日はもう…)」

日差しの温かさで力が抜けたのか、或いは落胆か。ほんの少し残念そうに肩が下がる。
心待ちにしていた訳でも待望していた訳でも無い。声さえ交わした事の無い他国の忍。
ただ、なんとなく寂しさを覚えてしまっただけだ。

「ふ…、可笑しなことがあるものだな」

苦笑が浮かぶ。
この一週間、何度同じことを考えたか。

近くで見る事が出来たのはただの一度。しかしあの時感じた懐かしさが忘れらない。
――松永軍に忍が居ない訳では無い、他国の忍など戦場で何度も見てきたはずだ。だが、

何か、重要な何かを忘れているような感覚が拭えない。

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