04


***

伝説の忍、風魔小太郎は立ち尽くしていた。いや、それは正しい表現では無い(何故なら彼は最初から立っていたから)

近い言葉を当てはめるならば、これは――戸惑い。


「ふん、辛抱のない事だ。…では直ぐに返事をしたためよう。秀長、暫くここで待ちたまえ」

内容に素早く眼を通した男が懐に文を仕舞う。
この度受けた依頼は魔王・織田信長よりの松永久秀への書状の受け渡しと返書。決して難しい依頼では無い。むしろ簡単過ぎる程の依頼だ。己にとっては。

だが、

「……分かったから、早く放せよ」
「おやおや、放っておかれるから拗ねているのだね? 安心したまえ、直ぐに戻る」
「どう見ても違うだろう…」


これは一体、誰だ。


強い疑問が胸に浮かぶ。
そして目の前で己を居ないものとして振舞う松永にも、小太郎は密かに「これは本当に松永久秀なのか」という疑問を抱かずにはいれなかった。

――狭い茶室に三人きり。この閉鎖空間もまた、小太郎に混乱を誘いこむ手伝いをしていた。

松永が左手に抱きよせる(小太郎にはそう見える)人物は顔の造作は松永久秀と瓜二つ。
相違点と言えば襟足で結ばれた髪型くらいのものだろうか。

身形は仕立ての良い着流し、身のこなしは先ほどの動きからして武人の類。
壮年ながらも重厚な印象を備えた松永より、やや細身にも見える。

影武者の割には砕けた空気が二人には漂う。(例えそうだとしても、影ならば影らしく松永という男を装う努力が必要だ。面に出る表情の違いで見破られるのではないか…?)

忍としての性か、小太郎は兜の下でじっと二人を見つめる。


「ふっ、」
「……?」

松永と小太郎の視線が一瞬、交わった。
その眼差しはやけに自慢気で、これ見よがしに傍らの人物――松永が口にした名は、確か秀長――を己の目の前で構ってみせた。

ああ成程、これは身内か。

松永久秀の身内にこのような人物が居たとは、例え伝説と謳われる忍であろうとも寝耳に水で。

そして再び小太郎は固まる。
え、松永久秀って身内にこんなにべたべたするのか? とドン引きしていた。

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