02


「……どうしたらこの様な珍妙な味わいになるのか、一度腰を据えて話し合いたいものだな」
「不味いなら不味いって言えよ、素直に」
「なに、卿にしか生み出せない味という意味だよ」
「はは…お褒めの言葉をありがとう」

全く褒められた気はしないがな。


作法は御手本(兄)に忠実。
用法用量(?)は間違いなく――だというのに、何故毎回毎回こうも珍妙だの面妖だの散々に言われなければならないのか。何が違うというんだ、何が。

久秀の趣味に付き合わされ、否…鞭を打つようにしごかれ形だけはまともになったと思う。(例え振舞う相手はお前だけだろうと訴えようが、久秀は笑って「なに、身につけていて損は無い」と御満悦で御教授下さりやがったよ。文字通り、手取り足とりな…)

所詮お仕着せ、されどお仕着せ。
ほんの少し違えるだけで眉をひそめられたあの頃…、作法云々で溜息を吐かれていた当時の方がマシだったのかも知れない。なんだ、新手のいじめか?

「というか、何故俺は言う通りに茶を点てているんだろうなあ」
「ふっ…、これを口にしたい。そう思う時が稀にあるのも不思議な事だ。ああ、卿の為に手に入れたこの茶器。卿に使用されるならば出し惜しみはしない。いずれは朽ちる物だ。愛で、使われてこそ――」
「おーい…、人の話を聞いて…」

ああ駄目だ、物を愛でる状態へスイッチが切り替わってしまっている。

器を撫で、顎へ手を添え、瞬きもせず注視し続けるその様はハッキリ言って怖い。俺には理解不能な趣味だ。
その視線で穴でも開けるつもりなのだろうか? 物を見る鑑定眼なぞ俺は持ち合わせていないが、それ、高いんだろう? なあ。

「はあ…」

今のうちに逃走しようかと思ったが、即諦めた。意気地なしと言う無かれ。生憎と履物を脱いだ出入り口は対角線上。久秀の横を悟られずにすり抜ける事など出来はしないのだ。

暇を持て余し、無作法ながらも柄杓を指で回して退屈を紛らわす。と、
首筋が一瞬ぞわりと震え、何者かの気配を感じた。

「…!」

考える前に身体は動き、滑るよう足を運び久秀の側へと移動した。右手は庇う様に伸び、マヌケながらも左手に柄杓を構えて。(残念ながら俺は終始武器の類を持ちあわせるような人間では無い)

――音も無く気配は形を成す。

「(ああ、くそっ…! 愉快犯のような事ばかり仕出かすから…!)」

声を張り上げようと口を開く。
しかしそれは叶わず、後ろから襟を引かれバランスを崩した俺は首を掴まえられる。えっ……おい……いや、誰にだと? こんな事をするのは一人しかいないじゃあないか。

「おい!」
「ふっ、秀長に身を挺して庇われるのは嬉しいが…、落ち着いて良く見たまえ」
「…はあ?」

何を言っているんだ、こんな狭い室内で襲われたら! と焦る俺と妙に落ち着き払った久秀。
促されるまま気配をじっと見据えると。


「卿も無粋だな、――風魔」


直立不動の態で佇む忍――久秀が口にした名によると風魔と呼ばれる忍が――手紙らしき物を掲げたまま、停止していた。

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