「──テメェは…死んだはずじゃ…、」
竜を背に庇う様に立ちはだかる右目。此方は単騎で乗り込んだというのに、何を構えることがあるというのか。
「これはこれは、卿等の目は節穴なのかね?その両の目に付いているのは飾りか。
……あぁ、失敬。卿は隻眼だったな。」
出来るだけ久秀の様に、言葉を選びながら相手を煽る。勘違いしているなら利用させて頂こう。
予想通り主を侮辱された右目は獰猛な唸り声を漏らしギラついた目に炎を映す。
──奴らが見間違えるのも無理はない。俺達は本当に良く似ている。"この"久秀から贈られた戦装束も、それを手伝っていた。
"鏡"
そう、鏡だ。
久秀と左右対象になるように作られた羽織。右利きの久秀に対し左が利き腕の自分は、まさに───、
「松永久秀、どういう手を使ったかは知らねぇが、"もう一度"あの世へと送り帰してやるぜ!!」
バチバチと雷が双竜の身を駆け上がる。画面で見たそのままに、奥州の竜は怒りを俺へ、"松永久秀"へと放とうと牙を研ぐ。だが、ソレすらも今の俺には他人事の様だ。
もう一度、だと?
天下を狙う独眼竜。その背後を守る右目。
決められたストーリー、用意された結末。だが、何処かで己は"あり得ない事"と決めつけていたのかもしれない。
"あの松永が"、"あの久秀が"、死ぬはずがない…、などと。
どんな生き物にも終わりはくるのに、生きていれば必ず死は訪れるのに。側に居るうちに何処かで理由を付けて、答えを弾き出すのを恐れていたのか。
「愚昧、だな…、」
そう呟き、自嘲の笑みを浮かべ二人の断罪者を待ち受ける。
彼等にとっては、卑怯な手段を用いて仲間を殺めた憎い男。
では、自分にとっては?
ぐちゃぐちゃと己の中で凝り固まっていた澱(おり)が気泡を含み、答えを押し上げようと動きだす。答えなどとうに知れているのに。此処に駆け込んだ時点で、解りきっているのに。
ただ、本当に自分がそれを欲しても良いのか、自問自答し堂々巡りを続けていただけ
(───臆病者め…、)
ポロポロと表皮が剥がれ落ちてゆく様に仮面が崩れ落ちる。口元が引きつる。本当は欲しくて欲しくてたまらなかった。仮面で隠したまま、得る機会を永遠に逃し失ってしまった今、
この渇きを何で癒そうか、どうしたらいい?
"卿は何が欲しい?"
久秀が、笑った気がした。
叶いはしない、望みを灼くそんなの決まっている。ずっとずっと欲しかった。
俺の欲しいモノ。
それはきっと、久秀に笑われてしまう程、くだらないモノかも知れない。臆病者にとって分を超えた贅沢な願い。
「さぁ、卿からは何を賜ろうか」