01


青い空、青い海、
その間を繋ぐかの様に配置された白い雲、

誰がどう見たって晴れやかで清々しい空模様は、平時であれば喜ばしいものだ。
そう、…平時であればな。

「どうしてこうなった…」

頬杖突きながら眺める景色の果ての無さ。
とっくの昔に離れてしまった陸地が恋しくて仕方ない。…そう、此処は船の上。


 何 故 か 、


「愉快な顔を止めたまえ…折角の楽しい航海だ、卿も楽しめばいい」

「……出たな、」

――元凶、と心の中で呟くに留めておく。

恨みがましい眼で、隣に並ぶ涼しげな顔を見上げる。
さらりと髪を撫ぜた風に目を細めた久秀は、ひどく機嫌良さそうに見えた。…憎たらしいなぁ、オイ。

「愉快な顔とは酷い言い草だな。元は同じ顔だ、お前にも出来るぞ」
「私には不似合いな表情だ、謹んで卿にお返しするとしよう。なに、卿ほど似合う男もおるまいよ」
「…、」

大仰に頷く仕草付きで返品された。…悔しいが口では勝てないとは分かっていても、言わずにはいられない。

「―――いい加減諦めないか、今更引き返す事など出来ないのだよ。潔く私に付き合いたまえ、秀長」

外方を向いて溜息を吐いた俺に、久秀がからかうように笑う。
…例え何処に居ようと、俺たち(特に久秀)は何時も通りなのが悔しいだけだよ。悟ってくれ。



―――久秀曰く、"楽しい航海"の真っ最中の俺達は今現在、四国方面へと向かっている。因みに詳しい旅程等、俺は知らん。

旅の理由は二つ、
一つは土佐硯。もう一つは仁王車。

一つ目は置いておくとして、仁王車は松永軍でも所持しているじゃないかという俺の疑問は「あちらの方が最新鋭らしいのでね」との一言で叩き落とされた。

要は買い付けみたいなものか? と勝手に解釈し、だったら俺が行く必要性は無いな、と船着き場から"笑顔で"見送ってやろうという心算だったんだが。…何故かそのまま引きずられる様にずるずる…首尾よく乗せられてしまい、今に至る。

…もう一度言おうか。

どうしてこうなった…。


…兎も角、今の俺の唯一の救い(とでも言わなければやってられん)と言えるのは"アレ"を着ていないこと。
ガッチリと腕を掴んで離さなかった久秀に「アレを着ていくなら絶対逃げる」と睨み合ったあの時の俺はかなり必死だったな…。
(まあ、その発言のお陰で言質を取られてしまって…、あれは迂闊だった)

…いかん、思わず遠い目になってしまう。

「…はあ」
「疲れているのかね? 卿に何かあったら"事"だ。いや心配だよ」


…優しげに囁く口元が、俺にはどう見てもつり上がっている様にしか見えないんだがな、兄弟よ。

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