お世話隊



翌朝。

ひんやりとした空気と昼間寝てしまった(昏倒してしまった)お陰で十分すぎるほどの睡眠を補給してしまっていた俺は未だ薄暗い最中、目が覚めた。
もそりと上半身の力だけで起き上がる。
普段ならもう少し寝ていたい所だが、それでは身体が鈍ってしまう。
何せあれからずっと安静を強いられていたのだから。


「(要は足を動かしたり地についたりしなければ良いわけだろう? 何かに掴まっていれば問題ない)」

ふむ、我ながら名案だ。

そうと決まればじっとしているなど勿体ない。少しでも、一日でも早く此処から旅立ち小太郎の元へ行かねば、と逸る気持ちのまま障子戸まで這う。……後ろから誰かに見られでもしたらかなり情けない姿だがこの際気になどしてはいられぬ。

ずるずるずる。あと一歩で手が届く。
そこまで来ていきなり戸が左右に開きターーン! と大きな音を立てて柱までぶつかっていた。
目玉が飛び出ようかという程、俺は驚きに目を見開きバクっと心臓が跳ね上がる。


「おはようございまする!!」


大きな声と清々しい表情に、俺は這ったまま頭を抱えてしまう。お、おおお…吃驚させてくれるな真田幸村くん。おっさんの息の根が止まりそうだったぞ。


「なんだその、…君はずっと其処に居たのか、ね?」
「佐助が戻るまでの間、某が貴殿のお世話をお館様より申しつかまつった! ご安心召されよ松永殿!」

いや、何に対してのご安心召されよなのかが俺にはいまいち理解できぬが、もしやこの子は昨夜からこの場で寝ずの番をしていたのだろうか?
いやはや真面目過ぎる。


「寝ずの番など、身体に悪い。明日からは止めておきなさい」
「戦場なればこのような事もありまする故、問題ござらん。しかし佐助なれば七日間寝ずに忍び働きもして見せましょう!」
「(おや、この子ちょっとさり気に酷いこと言ったような…)」

昨日見た戦に赴くような格好のままの彼に、それは世話とは違うのだよ、と何故か指摘できずにいた。くっ、俺には出来ない。こんな一生懸命な子供に告げることなんて。
言ってしまったら酷く落ち込んでしまいそうだなあ。


「(話を逸らすか…)あー、おはよう真田。昨日は言いそびれたが俺の事は松永と呼ばぬ方が良い。どこでどんな耳が聞きつけるやも知れぬし、久秀の事を呼ばれているようで、その」

非常に警戒心が掻き立てられてしまって、そわそわと俺が落ち着かぬ。

正直に言うと「これは気が付かず申し訳ない!」途端にしゅんとしてしまった真田。
慌ててそれに弁明する。

「ああいや、言葉足らずで至らなかったな。不快という意味ではないのだよ。ただ……呼べば呼ぶほど召喚してしまいそうで」
「しょうかん、でござるか?」
「そうだ。下からにゅるっと出てきそうで、うわっ、なんだそれ。気持ち悪いなっ!」


自分で言った事を脳内補完。
余裕で想像してしまった。
まじできもちわるいなそれ…。

ぶるっと身震いした俺が寒がっていると勘違いしたのか真田は、開けた時とは打って変わって静かに戸を閉め用意されていた羽織を肩にかけてくれた。
重病人の父親を看護する息子のような態度に、少しだけ照れくさくも感じる。…相変わらず俺は這ったような格好だがな。

床に戻るよう促され担ぎ上げられそうになり、全力でそれを拒否した。

師弟そろって姫抱きされるなど、流石に俺のプライドが粉々になりかねん。勘弁してくれ。

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