04


『大仏殿炎上戦』



ごうごうと音を立てて燃える本殿。

ひらりと馬を乗り捨て、本殿へと向かう。直後、背後で泡と舌を口端から垂らした馬が巨体を揺らし音を立てて地に伏した。
一歩一歩、足を踏み出せば既に燃えカスとなった破片がグシャッと足裏で砕け散る。

転がる骸は松永軍の者が殆どで、元は黒ずんだ金色も煤で黒く染まり、最早そこにあるのは只の歪な黒い塊に過ぎなかった。

既に戦は終盤。

横たわる青鎧の骸が、伊達政宗らも駆けつけた後なのだと知らせた。


"松永久秀の最期"


浮かんだ考えに早足だった歩調は段々とゆっくりとなり、おぼつかない、ふらふらとした足取りでさ迷い歩く。
前を見据えたままの顔色は白く、はぜる炎の色がその瞳に宿る様に反射し、押し殺した怒りを映しているようだった。

───死体は残さない主義だという久秀は、その言葉通りだとすれば、もう既に消し炭なのだろう。


ギリッと噛み締めた唇から血が口の中に広がり、鉄臭い味が少しばかり己を取り戻させ、ふらつく足に叱咤し歩き出す。

そのゆっくりと歩くような優雅な所作は、まるで松永久秀その人を彷彿させる様である。(だが、それも無意識のものなのだろう)


一歩一歩、青へ近づく。


ジャリッ、


態と音を出し接近を知らせる。一斉に振り返った面々が、その表情を凍りつかせたのを見て柳眉を波たたせた。
いつか見た覚えのある顔を確認する。


「ま、松永、久秀ッ!」

下っ端の兵が、驚愕の表情を浮かべたまま後ずさる。まるで化け物でも見たかの様な反応に不快感が生まれた。

さざ波の様にどよめく奴らを視界に捕らえながらも、歩みを止めずに距離を詰める。


「 STOP! 」


揺らめく炎に月が浮かび上がり、そこで漸く俺は足を止め悠然と相手を見据えた。




「やあ、独眼竜。ご機嫌は如何かな?」

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