コンビ名は何ですか?



開け放たれた障子戸から風が舞いこみ、色を欠いた頬をなでた。
額に掛った髪がさらりと落ち、生え際の白が露わになる。

「うわー……、なにとんでもない拾いモノして来てんすか」

息をしているのかと怪しむほど静かに横たわる人物。視線をちらと動かし覚醒の気配はないと確認。今一度同じ台詞を漏らした。

一人ピリッとした空気を漂わせながら、困った事態になった、と主達を前に忍は痛む頭を抱えてみせた。



此処は甲斐武田軍総大将、武田信玄が住まう躑躅ヶ埼館。

その一室にて己の主達がとんでもない土産と共に帰ってきた、否、お持ち帰りしてきた事に佐助は眉を吊り上げた。


「御二人とも、こいつが誰だか全くご存知でないとか、いやまあ大将はこいつの顔を拝んだ事は無いかもしれませんがね? ……真田の旦那、アンタは絶対見覚えのある顔じゃねえの?!」

表面上は至極真面目に話を聴く二人に、特に幸村に向かって厳しい目を向ける。忘れてないよねえ、覚えている筈でしょう! 一度は対峙した相手だもの、と。

しかしそんな佐助の願い空しく、幸村は腕を組み眉を寄せ首をひねり、瞑想し、曇りなき澄んだ瞳で

「わからぬ!」

堂々と一言叫んだ。

そうだった、こういう御人だった。人の顔を覚えるのが少々苦手、と言ってしまえば体裁は付くかも知れねえがこの人絶対忘れちまっただけなんじゃね? 面を付けただけで己を分からなくなってしまう主の事だ。可能性としては高い。


「旦那ってばさいあく……」
「む、最悪とはなんだ、さすけぇ!」
「だって、あんな目にあっときながら敵大将の顔も忘れちまうなんて」

あちゃぁ、と肩を竦め「大将の方からもなんとか言ってやって下さいよ」と幸村の最も尊敬し信頼する武田信玄を仰いだ。

「わしも知らんかった!」
「聞きたくなかったっ!」
「佐助! お館様にそのような口の利き方をするなど!」
「はいはいはい、すみませんでした。咄嗟に出ちゃっただけなの。でもそういう俺様の気持ち組んでくれてもいいんじゃねえの」
「……?」
「いや、そんな、意味分かんないみたいな顔されたら、泣くしかねえ……」
「佐助、案ずるでない」
「……大将?」
「迷子を保護しただけと思えばよい」
「でっけえ迷子だぜっ!!!」


ぱしーんと思わず叩いた膝の音と、声が、響いた。



***



「(……漫才のような会話が聞こえる)」


話声に、つい先程目を覚まし、寝た振りを続行していた俺はひたすら耐えていた。
突っ込んでいいのか、笑ってもよいのか、呆れていいものかどうか。
しかし聞いているとどうにも不憫でならない。話題が自分の事となると尚更だ。


「(それに、此処は、どこだ?)」


先程の御仁のお宅なのだろうか、と推察するがもう声をかけても良い頃合いだろうか?

そろりと薄目を開けると、


「あっ」
「……あ、」

緑色をした青年とバッチリ目が、合ってしまった。

情けなく眉が垂れた顔に「すまない」と衝動的に謝りたくなったのは俺の悪い癖だな。

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