まさにおんぶに抱っこ



「ふははっはははははッ!!!」


野太い、腹の底に響く豪快な笑い声が森に響き渡った。


「……その、御仁、すまないがもうそこら辺にしてやってはくれまいか」

ひょいひょいと立派な体格からは想像も出来ぬ身軽さで、恩人は俺を抱えたまま崖を下る。
助けて頂いたうえそこまでさせてはと言えば「慣れぬ身ではキツかろう」と首をふられ、ならば背に、せめて背に担いではくれまいかという恥を忍んでの願いは「急ぐ故、このままでも構わぬだろう?」というとても親切な言葉で素気無く却下されてしまった。

おい、またお前か姫抱きよ。

先程まで逆さでぶら下がっていたため眩暈に襲われていたのでありがたいと言えばありがたいのではあるが……。
恥ずかしさに、外套に備えられていたフードを目深に被りやり過ごそうと悪足掻きした。


「――いや、すまぬすまぬ、くくっ」
「震える声で謝られても……、もういっその事俺を埋めてくれ」
「それは承服できぬわ。おぬしはわしが助けた身よ、労わってもらわねば助け甲斐がないというもの」

きっ、と真面目な顔で返されては面目ないと応えるしかない。危うい所を救ってもらったのは確かなのだ。
(これでこの御仁が全て承知の上での行動であれば、大した大狸であるが。さて、どうなのやら)


兎に角、俺は今、無事……とは言い難いが近くの村まで送って頂けるようだ。



器用な迷い方をする。
そう言って、地図を頼りに上杉へ赴く途中だったという俺の言葉に「ここは甲斐じゃぞ」と不思議なモノを見るような眼で俺を見た。

雷に打たれたような衝撃が俺を襲ったのは言うまでも無い。

「迷った挙句、崖から落ち、引っかかった木から落下した」

何とも情けない経緯が先程の豪快な笑いに繋がった、という訳だ。


フードの中で深く、深く、溜息を吐きじくじくと痛みを訴え始めた右足首を恨めしそうに睨む。
いや、悪いのは俺なんだがこうでもしなければ情けなくって涙が出てしまいそうでな。どうするんだ一体これから。小太郎と上杉で待ち合わせているというのに。……はあ。


「どうして俺はこうも間抜けなのか」

これでは頼りにされぬのも当り前ではないか、と意気消沈とする俺に、

「そうくさる事も無かろう」

快活な、躍然たる声が顔を上げさせた。


「誰しも道を違える事などあるものよ。同じ過ちを繰り返さぬ事こそが肝要。小さい事でうじうじと悩むでないわ」

一度も歩むペースを崩さず前を見据えたまま、双眸は曇り一つ無い。
これは、慰められているのか? と、目を見開くとニヤリと口元が笑んだ。茶目っ気たっぷりに。


「……善処する」


ふわりと外套がはためき、そこで森が開けた。

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