限界です
ぬるりと汗が頬からこめかみを伝って髪に混じる。額には玉の様な汗が浮き、息苦しく辛い。
俗に言う、ピンチという状況ではないだろうか? と脂汗を拭ってぼんやりと思う。…おおお? 視界が、目が、霞んできたぞ。
それほど時間は経っていない。せいぜい10分かそこらだろう。が、如何せん恰好が悪い。
通常血液というものは上へと送る場合は力強く下へ送る力は弱い。
よって、逆さまの状態でその力強さで送られてしまえば血は停滞し、頭に血が上る。イコール、
「きもちわるい…」
決死の覚悟で飛び降りるという選択を、何故即座に取らなかったのか。後悔、山の如し。…いや、別に泣いて無いぞ。これは汗であって、鼻水でもないからな!
誰か通らないか、と思った時も一瞬あった。然しよくよく考えるとここは山中。山のど真ん中。しかも崖の途中。
可笑しな恰好でぶら下がっている状態のおっさんを誰が一体助けてくれるというのか……。いや、普通いないだろう。
「小太郎…今、お前がとても恋しい…」
見栄張って無理とかしたらいけなかったんだな。すまない、すまない小太郎。おじさん心が挫けそうなんだ。今なら誰に指さされて笑われても縋ってしまいそうなほど。ははは、矜持ってなんだろうなあ…。
ぐらぐらと揺れる視界
正直限界な心
このままでは色々マズイと感じ、一か八かの賭けに―――そう決心しかけた、その時。
「ぬぅんッ!」
突如――熱風と烈風、二つが合わさった旋風が咆哮と共に生じ、
「う、お、お、おおおー?!」
俺は木の葉の様に空へと舞い上がり、暫しのブラックアウト。
「―――ぃ、おい。おぬし、しっかりせぬか!」
意識の片隅で声がする。
何か暖かなものに包まれ、揺さぶられ意識が浮上をした。
「ぬ、…気が付いたか」
ゆっくりと瞬き。視線がきょろりと動き何か赤いものが眼前を占めていると気付く。
それはとても太く逞しい腕で。俺は、その腕に抱えられていた。
小太郎、可笑しな恰好でぶら下がっているおっさんを助けてくれる人がいたようだぞ。
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