再び遭難?むしろ転落人生
さわさわ
さわさわ
擦れ合う枝葉の話声が聞こえ頭上を風が撫でていく、ゆったりとした時間。
春風駘蕩
澄みわたった青空をぼんやりと思い出しながら「さてこれはどうしたもんか」と耳の裏を乱暴に掻いた。
慶次と道を分かち馬首を越後へと向けた。
「誰にでも分かる」と銘打ってあるとおり一人旅初心者の俺でもさくさく進む事のできた、一刻程前。一本道だったからと言ってしまえばそれまでだが、まあ順調であった。が、
―――おや、と首を傾げたのが一時程前で。地図との違いに思わず二度見した。
地図は二股、目の前は三股
裏に返して見て、光に透かして見て、それでもこの第三の道がどこから出て来たかが分からず最終的に、
「ま、書き忘れたんだろう」
万が一、道を間違えていたとしても少しくらいなら逸れても大丈夫だろ、と安易な考えで再び進み出した。
「思えばあれが、拙かったんだよな」
いやはや、道というのは突如消えてしまったりするんだな。安易な判断、甘い考えで国境を越えようとするもんじゃないな、と身を以って体験させられてしまった。合掌。
どうしようか、これは後で小太郎に叱られてしまうやも知れぬ。…黙っていればばれないだろうか?
「いや、いや、反省はさて置きまずはこの状態から脱出しなければな……」
この状態とは――左足は太い枝に掛かり、右足首は枝分かれした部分にうまい事支えられ、上半身は宙ぶらりん――つまりは逆さにぶら下がってしまっている、という事だ。
実に奇跡的に。なんの悪戯だ、と言ってしまいたい程に。
順調に進んでいた筈の旅も思わぬ落とし穴、というか崖の出現により期せずして難航したのだ。
「くそ、大体なんで道がいきなり途切れたんだ」
落ちる際、咄嗟に奥州の独眼竜宜しく駆け下りようと試みたが見事に失敗。
俺は木に引っ掛かり、逆さ吊り状態で今に至る。(……ふんふんと、鼻息荒く駆け下りていった馬が無事であることを心底願いたいものだ)
「タロットの吊るされた男でもあるまいし…、まさか苦行に耐えろという暗示じゃないだろうなあ」
忍耐、辛抱の時、
初めはつらいが報われる
気長に考えればまあ報われるよ、という所か。…忍耐なら久秀で使い切ってます。
ばさりと顔に掛ってきた外套をよけつつ上を――他視点から見た場合地面を――見てその高さに、
「……これは、着地出来ないだろう」
頭を抱えた。
…段々頭に血が上ってきたぞ。
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