03
随分と記憶も薄れている現在。
彼方で二十年余り、
此方で五十年余り、
あまりに濃い此方の生活に、一年に満たないその当時の記憶が薄れるのも当たり前な事だった。(ストーリーも、結構曖昧だよな…、)
ましてや、松永久秀なんて敵武将。
元服後からあの性格を見るまで思い出しもしなかったのも事実だ。
ゲームそのままの松永。何故か弟に甘い松永。意外と世話焼きで良い話し相手な三好。そんな松永達に付いていく松永軍。
知れば知るほど、俺は突き放せなくなる。
───もしかしたら俺は、突然この世界から消えてしまうかもしれないのに。(もう手遅れかもしれないが)
ツラいのは、御免だ。
「(そういえば、北に行くっていってたなアイツ)」
織田は未だに現在。豊臣も大人しい。強敵が闊歩する今、北の方では何やら同盟を結ぶ話が出ているとも聞く。
―――そこまで考え、思考が一瞬フリーズした。
待て、アイツは
"なんて"言っていた?
"北へと赴くが、今回は何を手土産に"
その瞬間、跳ねるように身を起こして走り出し、叫ぶ、
「誰かッ! 久秀の行き先を知らぬかッ!?」
常ならぬ大声を発する俺に、困惑の表情を浮かべた家臣が駆けつける。
「い、如何なされました、秀長様!!」
「いいからッ! 久秀は何処へ行ったんだッ!!」
その剣幕に怯えの色を滲ませる男から吐かせた内容に、俺は直ぐさま自室へと飛び込む。
「───クソッ!
こんなの着たくなんて無いってのに…」
苦々しく呟くと俺は"それ"に袖を通し、唖然とした表情の家臣達に留守を任せ、馬上の人となる。
「間に合え、よッ!!」
脳裏に、最後に見た微笑みがチラついた。
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